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〜3〜

 学生の本分は勉強なのではないか。

 日向がそれに気付いたのは、よりによって学年始めの試験結果返却の日だった。

 サバ高は自由な校風と生徒の自主性を重んじる校風だが、それを免罪符にするように成績至上主義の冷酷な一面がある。

 特進クラスが校内模試の順位を名乗る習慣を始め、日向の一般クラスでも学年全員の試験順位を廊下に張り出すという古風なことをしている。

 日向は放課後に遊ぶという習慣が無く園芸部の水遣りをした後は真っ直ぐ帰宅して最低限の宿題は終わらせている。睡眠時間がきっちり決まっているから授業中に居眠りをすることもない。

 とはいえ、学校で勉強をして試験を受けるなど殆ど10年振りだ。

 一体自分の成績はどの程度のものなのか。そう考えて返却された試験の結果一覧を放課後にようやく開いて、日向は動きを止めた。

 日向が成績表を見て固まっていることに気付いて、みかげが席に駆け寄って来る。


「兄様!!!面白い顔してどうしました!?」


 日向は特に面白い顔をしているつもりはなかったが、「これ」とみかげに試験結果を見せた。

 50~40点の点数が並ぶ中、数学の「27点」に赤丸が付いている。


「お!素数じゃないですか!!器用な点数取りますね!!!」


 27は素数ではない、と答えようとしたが、どうやら数学で赤点を取ったらしいと自覚した日向はそれすら自信が無くなっていた。


「30点以下は追試だそうです!!兄様、初試験で初追試なんてエモいことしますね!!!」


「みかげは?」


 日向に尋ねられて、みかげは握り締めていた自分の成績を広げる。

 日向と同じ最高で50点台、悪くて40点スレスレの優秀とは言えない成績だが、30点以下の赤点は一つもない。


「ふっふっふっ!!みかげはですねぇーいつか破門になって架帥を出た時に、惨めに追試を受けなくて済むように日々勉強してたんです!!!……て、あっ!!嘘ですよ!!兄様が稽古している間、時間があったので!!あー!!怒らないでください!!待ってー!!」


 日向はみかげを置いて席を立った。全く怒っていなかったが、世間一般の点数はどの程度なのか気になったからだ。日向と同じく架帥の家にいて学校に通っていないみかげは参考にならない。

 由羽の様子を窺うと、席に座ったままいつものぬいぐるみに成績表を見せていた。

 傍から見るとおままごとをしてるようだったが、ぬいぐるみのレンズを通じて御父様に成績の報告をしているようだ。

 ぬいぐるみとこそこそ話していた由羽は、日向とみかげが傍に来たことに気付いて顔を上げた。


「どうしたの?」


「狩刃は成績いいんですか?!ちなみに兄様は、初の赤点で自分の学力に絶望した所です!!」


「……普通」


 自分の学力に絶望してる人間を前にして下手なことは言えない、と由羽は謙虚に答える。

 しかし、由羽の成績表には少なくとも赤丸は付いていないし、90点や80点代もちらほら見える。平均点が60点程度の試験でそれだけ取れていれば学年上位だ。

 さっそく廊下に張り出された試験の順位では、狩刃由羽の名前が先頭から20位以内にいた気がすると日向は思い出していた。


「1年生の時の範囲だから、転校して来た日向は、出来なくても当たり前」


 由羽は自分の成績表を机の中に隠しながら言う。

 世間一般の自称殺戮人形は成績優秀なのだろうか、と日向は考える。サンプルが極々少なそうだが、目の前の由羽は特進クラスではないもののかなり優秀な生徒らしい。


「赤点1つだけなら、全然すごい。試験ってそういうもの」


「そうか。今まで100点しかとった事なかった」


「天才」


「兄様がまともに学校に通ったのは小2までですから!!」


「……」


 由羽は首を傾げて日向を傷付けない返事を考えた。

 日向にとってテストは100点を取るものだったから、二桁の点数は衝撃的だ。しかし、赤点を取ってしまえばそんなものかと思ったし、絶望もしていない。

 日向が既に己の成績に興味を失っていることに気付かず、由羽はぬいぐるみからパイの実を出して慰めるように日向に渡す。


「がんばろう。追試でも合格点が取れなかったら、部活動、参加停止になっちゃう」


「そ、そんな……!!!兄様が園芸部に参加できないとなると……!!!なると……?何か困ります??」


 そもそも日向が園芸部に所属していることに反対のみかげは若干嬉しそうに答えた。

 しかし、日向は仮入部でありながら水遣り当番のローテーションに組み込まれていて、特進クラスの部長の担当が少ないためほぼ日向と由羽の2人で毎日の水遣りを行っている。


「水遣り当番がいないと、草が枯れる」


「そう」


 日向が言うと、由羽は深刻な表情で頷いた。


「それは兄様への赤点のペナルティっていうか……学校の方に不利益が被ってないですか??」


「のんちゃん部長に報告して、勉強を教えてもらおう」


 由羽はみかげの言葉を無視して立ち上がった。


「のんちゃん部長、教えるの上手。だし、部活のために協力してくれる、はず」


「おー!!特進クラスですからね!!奴がただのロリじゃないって所を見せてもらわないと!!!」


 日向は最近は由羽の犬の散歩をするようになって、朝はある程度やる事ができた。だから園芸部の活動が停止になっても自分は困らないかもしれない。

 そう考えたが、張り切っているみかげと由羽に引き摺られるように特進クラスの教室に向かった。

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