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〜1〜

「兄様、何かやりたいことはないんですか?」


 珍しくみかげに常識的な声量で尋ねられて、日向は少しだけ身を入れて考えた。みかげに皿に乗せられた玉子焼きを飲み込んだところで答える。


「園芸部に、新入部員を入れる」


 真っ先にそれが思い付いたのは、先日のオカルト研究部と園芸部との衝突が不完全燃焼で終わったからだ。

 サバ高の公式ルールでは正式に部活動と認められるには部員5人以上が必須。

 学内の植物の維持のために必要不可欠な園芸部は部員3人でも大目に見てもらえているが、部室の使用に関しては他の部活と同条件。東1-D教室、通常デルタは園芸部も違法占拠しているに過ぎない。

 正式な部活動と認められる条件である部員5人を先に達成した方が部室デルタを手に入れる、という結論で先日は解散となった。

 そして、書記兼外務大臣で仮入部の日向にその役目が任せられた。特にやりたいことが無い日向にとって今のところ一番の任務はそれだ。

 しかし、みかげは「違う!!」と日向の考えを全力で否定してぶんぶんと首を横に振る。


「せっかくシャバに出て来たんだから!!もっと有益な事をするべきです!!!酒池肉林を楽しむなら今!!だいたい、今時朝5時起きなんて意識の高い無職かブラック企業の社畜くらいですよ!!学生は意地汚く二度寝して単位ギリギリまで遅刻するものです!!!」


 みかげの言うように、今朝も日向は朝5時に起きて最近は日課になった散歩に出ていた。今日は珍しくみかげが付いて来ていて、坂の上の公園のベンチで朝食を広げている。

 みかげに差し出さたおにぎりを食べていると、坂の上の高級住宅街の方から、犬の散歩中の由羽が現れた。

 白い子犬3匹、紐に繋がれていることなど感じさせない各々自由な動きで走っている。由羽を引き摺るように公園に突っ込んで来たが、日向を見ると前に会った事を覚えていたのか目が合うと即座に180度向きを変えて由羽の顔に抱き着いていた。


「……日向」


「何もしてない」


 3匹の犬が顔に抱き着いて来て表情が見えない由羽に呼ばれて、今は何もしていないと説明する。犬が日向を覚えていただけだ。

 肩から上に犬を3匹乗せた状態で由羽は坂を上がって帰って行く。賢い犬だ、と日向は由羽の背中を見送った。


「狩刃、この辺りに住んでいるんですねー」


 みかげは大して興味が無さそうに言って、次の取り分けたおかずを日向に差し出して来る。

 まるでピクニックのようだが、重箱にはいつもの決まった朝食のおかずが詰められている。

 しかし、いくら慣れているとはいえみかげは毎食2人分の食事を作っているし、日向が5時に起きているならその支度を手伝うみかげはそれよりも早く起きているということだ。


「みかげは、二度寝がしたい?」


「はい?!?なんでですか?!!」


 日向が尋ねると、みかげは逆に聞いてくる。

 みかげは自分の世話の為に早起きをしているが、本当は二度寝をしたいのではないか。それならば日向もみかげのために生活を変えなくもない、と考えたがみかげはそんなつもりはなさそうだった。

 ならいいか、と日向は会話を止める。みかげは日向よりも長く架帥の家にいる。生活習慣は日向以上に染みついているはずだ。

 日向とみかげが朝食を食べていると、帰って行ったはずの由羽が再び坂の上から駆けて来た。先程と同じように小型犬を3匹連れているが、白い犬3匹だったのが薄茶色の犬3匹になっている。


「色が変わった」


 日向は大発見のつもりで言ったが、みかげは犬をチラリと見てそうですか、とおにぎりを食べ続けていた。


「染めたんでしょう。この春は大人可愛い色が人気ですから、ピンクの犬は少なくなりましたね」


 最近は犬の毛の色を変えて楽しむのか、と日向は納得しかけた。

 しかし、先程の3匹が日向を見てすぐに逃げて行ったのに対し、今の3匹は日向を見ても怯えずに飼い主の由羽を引き摺って近付いて来る。


「茶色に染めたのか?」


 日向は念の為、みかげが真実を言っている前提で由羽に尋ねた。

 犬に引き摺られたせいで髪がぐしゃぐしゃになっている由羽は、それでも涼し気にふるりと首を横に振る。


「違う。6匹いる」


「6匹」


「うん。この子たちは、さっきの子とは別」


 やはり嘘だったかと日向はみかげを見たが、みかげは聞こえないフリをして魚の骨を取っている。

 犬の1匹が日向が持つおにぎりを狙って膝に上って来た。由羽がリードを引くが、他の2匹が好き勝手に走っているため制御が出来ない。

 日向は人の食べ物を動物に与えてはならない、という最低限の知識は持っていた。犬を怖がらせないように気を付けつつ、片手で完全に動きを封じて抱え上げる。

 犬は自分がどうして動けないのか理解できていない様子だったが、日向の腕の中で納まりが良いのか快適そうに尻尾を振っていた。


「帰るなら家まで持っていく」


「……ありがとう」


 由羽は自分に対する時と全く違う犬の態度に飼い主として複雑そうな表情をしていたが、ぺこりと一度お辞儀をした。

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