〜4〜
翌日、日向と由羽は嫌がる依乃里を引き摺ってオカルト研究部の元へ説得に向かった。
非公式のオカ研は現在は園芸部に部室を奪われたと自称している状態で、化学室前の廊下で活動している。
日向は『入学のしおり』からオカルト研究部の活動内容を読み取ろうとしたが、短文(おそらく詩だと日向は予想した)が書かれているのみで活動場所以外の情報が読み取れない。
承諾していないものの外務大臣を任せされてしまった責任感もあり、バスケ部と柔道部の反省を生かして事前情報を集めようとみかげに尋ねた。
「オカルトって何?」
「知らないんですか?宇宙人とか超常現象とかのことですよ」
「宇宙人」
そんな物が本当に存在するのかと疑いの意味で日向は繰り返したが、みかげは当たり前のように頷く。
「兄様、せっかくテレビを買ったんですからちゃんとニュース見た方がいいですよ。この前アメリカ大統領と15回目の対談をしていました」
「宇宙から来て?」
「はい。宇宙から来て。今回はタコ型の宇宙人です。だから、首脳会談からしばらくはタコが食べたいとか外で言っちゃダメですよ!!繊細な所ですから……惑星間の問題になりかねません!!!」
「……」
嘘だ、と日向は考える。
しかし、口に出して反論出来るほど自信が無かった。架帥で山に篭っている間にそのレベルまで文明が進展している可能性がある。
オカルト研究会の活動場所である地下1階化学室の前の廊下の一角。人通りが少ないことを良い事に暗幕で仕切って簡易な小屋が作られていた。
「失礼します」
ぼふぼふと暗幕をノックして、由羽は返事を待たずに中に入る。
暗幕の内側では黒いローブを着てフードを深く被った人物が一人いた。学校七不思議の1つか通報すべき不審者か迷うところだが、オカルト研究会の部員だ。
部員は廊下にしゃがんで、白い床に黒い極太のマジックで四角が重なった図柄のようなものを書いている。キュッキュという音と共にシンナーの臭いが漂っていて、油性マジックだとわかる。
「どうしてこの学校の人間は、油性ペンを使うことに躊躇が無いんですか???」
みかげのツッコミはもっともだ。
こんなに堂々としているのだから廊下に落書きをしてもいいような気がする、と曖昧に考えていた日向は正気を取り戻す。
オカ研の奇行はいつものことで、由羽は気にせずにその部員に話しかけた。
「オカ研の部長は?」
「今、職員室に行ってる。あれ?架帥兄妹、もしかして入部希望?」
「日向は園芸部に入部してるからダメ」
自分の名前を知っているなんてこれもオカルトの一種かと日向が窺うと、その部員は日向が唯一名前を覚えている同じクラスの足立だった。
知り合いならば、みかげの言葉が嘘か真か確かめるいい機会だと足立に近付いて尋ねる。
「アメリカに行ったりするのか?」
「アメリカ?なんで?」
「首脳会談を見学しに」
「うーん?行く奴もいるけど、俺は行かないタイプかな。俺が研究してるのは死者蘇生。死人を生き返らせるんだ」
「……そんなことが出来るのか」
「まぁな。今は出来ないけど、夏休み中も進めれば多分2学期には完成してる」
日向はそうか、と頷いた。
自分が架帥で山の籠っている間に化学だか医学だかオカルトだか、そこまで文明が進んでいたのか、と。
宇宙人と交流をしているのも本当かもしれないから、みかげの言葉を端から嘘だと決めつけなくて良かったと考えた。
「部外者が何してるの」
よく響く声と一緒に一人の女子生徒が部室である暗幕の内側に入って来た。
長身で気の強そうな凛とした顔で、眼鏡をかけて秀才の雰囲気を漂わせているが、足立と同じように怪しい黒いローブを着ていた。
「部長、この2人は俺と同じクラスの……えーっと、家庭菜園部だっけ?」
「違う。園芸部。部室の話をしに来ました」
「我が僕と同じクラス……?」
オカ研部部長は応えた由羽と日向を値踏みするように下から上まで眺める。最後に鼻で笑った。
「私は特進クラス。№12、鬼火靄」
「ほぉー特進クラス!!確かに、賢そうな雰囲気がありますねー」
「そして、サバ高、初代オカルト研究部部長」
「あーやっぱりバカな気がしてきました……」
「こっちの部長も、特進クラス」
由羽は自分の後ろに隠れて静かにしていた依乃里を引っ張り出して部長の前に立たせた。
か細い悲鳴を上げて抵抗していた依乃里は、靄を前にして渋々と向かい合う。
「え、っ、園芸部部長……特進クラス№1、眠水依乃里」
「№1……」
依乃里の名乗を聞いて靄は怯んだ。依乃里を睨む瞳の強さは変わらなかったが、何も言い返せずに黙り込む。
依乃里は自分よりも長身の靄に見下ろされて怯えていたが、負けずに目線を合わせて火花を散らしていた。
2人の名乗口上にあった№とは何か、と日向が考えていると尋ねてもいないのに横から足立が口を挟む。
「説明しよう!特進クラスの生徒は互いに名乗る時は直近の校内模試の順位を言い添えるんだ!」
「へー!!そんなサル山みたいなバチバチなことして殺し合いとか始まらないんですか?!」
「心配御無用!夏休み明けには死者蘇生の術が完成してるから。俺の手によってな!」
「なっるほど!校内でデスゲームが始まっても大丈夫ですね!!」
「……日向」
盛り上がっているみかげと足立を放って、由羽は日向の袖を引いて言い難そうに口を開いた。
「あれは足立の虚言。宇宙人はまだ見つかってないし、死んだ人間を生き返らせる方法もない」
「そうなのか」
「そう、みかげが嘘言ってる」
「バ、バレましたか……!!!そうです。本当は秘密裏に日本とだけコンタクトを取っているのです。場所はそう、新宿歌舞伎町!!あれだけギラギラ光っていると宇宙からでも見えるので!!」
「これも嘘」
「わかってる」
日向は一度は信じかけてしまった動揺を悟られないように頷く。
それよりも日向が気になっているのは、依乃里が№1と名乗ったことだ。
つまり、生徒数が多いサバ高で園芸部部長兼殺し屋モドキの眠水依乃里が1番頭が良い。
小学生にしか見えないのに、人は見かけによらない。と日向は新しい学びに感心していた。
読んでいただきありがとうございます。
何時に掲載したら読んでもらえるかなと試行錯誤しています。
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