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〜1〜

 晴れた日は朝と放課後に水遣り。夏は追加で昼休みにも。学校が休みの日は教師も入れて当番制で登校。

 文化部に区分される部活にしては、園芸部はサバ高の中でも活動日数が多い部活だ。

 部員が2人しかいない現状にみかげは大いに納得したが、登校以外にやることがない日向が持て余した時間を潰すのにちょうどよかった。


「あーあ……なんか強そうな運動部がよかったなぁ……汗と涙の青春が良かったなぁー!!」


 日向が入部してから3日目。放課後の水遣りは既に日向の日課になっていた。

 しかし、運動部へ入部させることをまだ諦めていないみかげは日向の後ろで喚いている。


「なんで兄様が一人でやってるんですか?!狩刃はどうしたんです?!!」


「由羽は掃除当番」


「兄様、植物なんて興味ないくせに……そもそも、3人だけなのに園芸部ってのがおかしいです!少数精鋭ならもっと素っ頓狂な部活にするべきなのに!!!」


 みかげの後半の主張はわからなかったが、前半は日向も一旦不思議に思ったところだった。サバ高入学のしおりには、部活の最小人数は5人とはっきり明記されている。

 本来なら日向を入れても部員が3人しかいない園芸部は部活として認められないはずだ。しかし、学内の花壇を管理したり育てた野菜が家庭科の授業で使われたり、学校に必要な活動として特例的に認められていた。

 更に特典として、部員は余った野菜をもらえることになっている。

 自炊をしたことがない日向はそれがどれだけ有難いことなのか理解できなかったし、野菜に興味が無くて今水を遣っているのが野菜なのか花なのか雑草なのか区別がついていなかった。

 しかし、山奥の本家で育った日向は、畑の一角に生えている植物が少し気になっていた。


「トリカブトに似てる気がする」


 みかげに聞いてみようと振り返ると、みかげは裏庭のベンチの上で猫のように丸まって昼寝の体制になっていた。

 みかげも部活動の水遣りをすればいいのに。そう考えて、みかげは園芸部に入部していないことに気付く。2日前にジョウロを渡されたのも日向だけだ。


「みかげは、何の部活に入ったんだ?」


「みかげは学生のお遊びなんて興味ないですから!部活なんて入りませんよ!!」


「でも、サバ高は入部必須だろ」


「一回入部すればそれでいいんですー2年ならもう退部してる人もいるから、どこにも入ってなくても目立ちませーん!」


「なんだ。それなら俺も入部しなくてよかったのか」


「お!?園芸部、辞めますか?」


「辞めない。一回入ったし」


「はー!?あーあ……元とはいえ、架帥の本家の人間が園芸部なんて……屈辱的……」


 みかげの恨み言を日向は完全に無視する。

 みかげはしばらくブツブツ文句を言っていたが、暖かい日差しの中で居心地がよかったのかすぐに寝息が聞こえてくる。

 よくこの時間に昼寝ができるな、と日向はみかげに背を向けたまま関心していた。

 本家にいた時、稽古の途中に昼寝をすることがあったがそれも時間はきっかりと決められていた。架帥の稽古は、毎日毎日、一日も欠かさずに同じ動きを繰り返すことだった。日向は疑問を抱くこともなく日々を繰り返していたが、それを続けられる人間は限られていて、それが身になる人間は更に限られて極々僅からしい。

 稽古を続けていくと、最初は細い枝をへし折る程度だった拳が、しばらくすると丸太を砕き、いつしか大木を粉塵し、岩に穴を空けるようになる。

 殺し屋として数えられる他の二派と大きく違うのは、架帥はあくまで武術という点だ。

 殺気を感じたとしてもそれが自分に向かってくるまでは反応をしない。先手を打って攻撃することはない。

 何故なら、ナイフの刃が首に触れた瞬間から動いても、銃弾が発射された後に動いても、架帥流を極めた者なら対応できるからだ。


「覚悟!!」


 だから、日向が動いたのは背後からその声が聞こえて、相手が得物を振り下ろす風を感じてからだった。

 振り向きざまに蹴りを入れると、木刀の上半分がぽきりと綺麗に切れて飛んでいく。

 日向の後頭部に木刀を振り下ろそうとしていた人物は、勢いに負けて転んで日向の方に倒れ込んだ。


「ふ、ふにゅ……ッ!」


 どこからか小学生が迷い込んできたのか、と小柄な体を支えて日向は考えた。

 日向のみぞおちくらいまでのしかない身長で、それほど長くない黒髪を一つに結えている。木刀の下半分を両手で握っていることを除けば、高校に迷い込んできた哀れな小学生だ。


「ひょわぁーーー!!」


 小学生は涙目になっていたが、果敢にも日向が折った木刀の残りを振り回している。

 急所を殴られそうになったことは忘れるとして、木刀を折ってしまったのは悪いことをした。そう考えて日向は怪我をさせない程度に抑えつけていた。

 この近くに小学校はあるのか昼寝をしているみかげに尋ねようとすると、いつの間にか掃除当番を終えた由羽が横に来ていた。


「由羽、この子、誰だ?」


「部長」


「部長?特進クラスの?」


「そう。頭がいい部長」


 サバ高特進クラスは、最難関の大学を目指す選ばれた生徒の集団だ。

 全国模試でも上位の生徒が揃っており、運動部を始め部活動に熱心で勉強がお粗末になっている生徒が多いサバ高の偏差値を彼等が爆上げしていると言われている。

 日向は手を離して女子生徒を解放した。園芸部部長は木刀の残りを掲げて、日向を見上げて必死に威嚇する。


「さっ、サバ高園芸部部長兼、殺し屋三家が一つ眠水家当主候補、眠水依乃里!!架帥流当主の命、取らせてもらう!!」


 眠水依乃里は、頭頂部のアホ毛をひゅんひゅんと揺らしながら誇り高く名乗った。日向はそれを聞いて、内容はともかく重大な事に気付く。


「俺、まだ園芸部の入部届出してない」


「今出しちゃった方がいい。部長、あんまり来ないから」


「き、聞きなさいよ!命を頂戴するって言ってるの!」


「部長、ちょっと待ってて」


 由羽は木刀の残りをふんふんと振り回している依乃里にお菓子を渡して慣れた様子で止める。

 依乃里がお菓子を食べ始めて静かになったところで、由羽は入部届を取り出すと日向に書き方を説明し始めた。

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