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奴は見せてくれる


 学校初日の朝の天気は最高だった。


馬車に乗り、揺られながら横を小鳥達が楽しそうに飛んでいく。ここの世界にもポピーのような赤い花が咲いていた。


木漏れ日が溢れる木々の隙間を通り抜けていると


「お前と私は別のクラスだ。何かあればいつでも来い」


横でセレスティーナがこちらを見ずに伝えてくる。


「我は覇王アシュレイだ。我にピンチなどない」

「あいつだけは気をつけろ」

「あいつとは誰だ」

「『ネグリュスト・メルヘン』。あの女は凶暴すぎる。関わるだけ損だ」


メルヘンという名がついておきながら凶暴……。

可愛いクマみたいなものだろうか。


「はぁ……」


前の方でため息が聞こえてくる。


「なんであやつが馬を操っているのか」

「あいつしか馬を操縦できるものはいない」

「あの最悪男以外にも雇った方が良い」


彼はまた煙草を吸っている。


「そうだ。これを渡さないとな」

「これは?」


渡されたのは何かの紋章が書かれた一枚の小さな厚紙。


「何か欲しい時はこれを見せれば良い」

「ブラックカードみたいなものか」

「それはなんだ。これはヴァレンシュタイン家の紋章が書かれた正統な証明になるものだ。後からこちらで払っておく」


やはりブラックカードだ。


「お前は使いすぎないだろが……あまり使いすぎるなよ。まだ両親のどちらにもお前のことを伝えていない。つまり私が使いすぎみたいになる」

「我は自分の力でなんとかする」

「いや食べ物ぐらいはこれを」


進んでいたはずの馬車がいきなり止まる。


「おい。どうした」

「厄介ごとが現れた」


顔を出して前を見てみると明らかに盗賊団のような見た目をした連中が刃物を見せびらかしていた。


「止まったのは賢いな。じゃあこの後のことは分かるだろ?」

「ああ。この馬車にいるのはクソガキ二人だ」


あの男はやはり最悪だな。


「ヴァレンシュタイン家の令嬢と変な子供だ。それなりに価値があるだろう」

「お前は使えるな」


あいつはやはり消しておくべきだったか。

だがそうすると学校に行けない。


「お前、何とかできるか?」


横で品定めするようにセレスティーナが聞いてくる。


魔法は何も知らない、となると武力だが何も持っていない。拳で戦うか_____いや、いくらアシュレイだろうと12歳の拳は最適解ではない。


さあ悩んでいるうちに下っ端の一人が刃物を構えて中に覗き込んできた。


「お〜。かわい子ちゃん達だね」

「失せろ」


セレスティーナは力強くそう言った。


「あ?おいクソガキ。誰か分かってんのか?」


刃物が彼女の頭に__________



ここでセレスティーナに退場してもらうわけにはいかない。


瞬時に足を出して刃物を蹴り飛ばす。


「このクソガキ!」


私は頭を片手で掴まれると呆気なく外に放り出される。


「人質は一人でいい」


なるほど。私は殺すことにしたのか。

人数が増えると同時に刃物の数も増える。


ある男が屈みながらナイフを首元に押し当てる。


「最後に言い残すことはないのか?」

「〜だ」

「あぁん?」

「我にピンチなどない」


私はナイフの先から横にずれるとそいつの股間目掛けて思いっきり足を伸ばして蹴りあげる。


「うぉっ?!」


囲まれていた状態から背に馬車を置くことができたものの背水の陣だ。


「お前ら!こいつはやっちまってもいい!早くやれ!」


無数の腕と刃物が私に目掛けてやってくる。

死ぬのか。私。魔法が発動する気配もない。

やり方も知らないんだ。


目を閉じてしまおうか。

またアシュレイ様になれるはず。






そんなはずがない。

これは一度きりのチャンスだ。

忘れるな。私はアシュレイだ。


目を開けろ。イメージしろ。


私の手からは黒い炎が現れる。

私の手からは黒い炎が現れる。




やはりな。私はアシュレイだ。

私にピンチなどない。



私の手には黒い違和感があった。



私は手についた炎を一瞬で円を描くように回す。

すると黒炎が壁のように燃え盛り立つ。


「くそ!なんだよ!これ!」

「こいつのいる前が見えねぇ!」


さて、ここからどうするか。

ここが草原だから炎がついた。

奴らに直接つけるにはどうすればいいか。



不意に拍手のような音が聞こえてくる。

炎のパチパチとした音ではない。

これは手と手が重なり合う音だ。


「ガキにしてはやるな」


あの最悪男の声と同時に私の魔法が消化された。

黒炎に氷がかかったのだ。


「お前、何のつもりだ?」


刃先が彼に向かう。


「あのガキが面白いもの見せたんだ。大人の俺がもっとおもしれーもん。見せないと恥ずかしいだろ」


頭の上をとんとん、とつっつかれる。

指の持ち主はセレスティーナだった。


「良くやった。だがお前にそこは似合わない。ここから何が起きるか、見てやろう」


彼女の腕を頼りに馬車に乗り込む。


「お前……俺らの味方だと思ったんだがなぁ」

「誰がいつ、そんなこと言ったんだ?」

「お前ら、やっちまうぞ」


彼の足元に2本、頭に1本、そして胸に1本の刃物が目掛けて飛び込んで行った。

だが彼は不気味に笑いながら動かずにいる。


「貴様っ」


私が避けろ、と言おうとすると彼は人差し指を口に当てて黙れの合図をする。


刃物達は彼の体にぶつかった____

がどれも刺さっていない。


彼の体は薄い氷で覆われていた。


「お前……何をした!」

「何をしたって……みりゃあ分かんだろ」


彼が動き出すと纏っていた香りがガラスのようにチリチリになっていき、刺さっていた刃物が落ちていく。


彼は腕を地面につけると魔法を唱えた。


氷地隷固(レイスノワール)


冷気が一瞬にして足元を襲い、それに触れたものは急速に凍っていく___

馬車の車輪はもちろん、彼らの足までもが凍りつく。


「う、動けねぇ!」

「これから一生動かずに済むから気にすんな」


彼は一人一人顔を触れていく。

すると彼らは氷像のように変化していく。


「おい!お、助けてくれ!何でもやる!だか」

「お、俺だけは勘弁した、しくれ!俺は反対し」


一人、また一人変わっていくと最後には誰一人いなかった。


彼は私たちの方を向き、人間の肌が見えた手を伸ばす。


「見てただろ?さぁ俺にチップをくれ」










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