秘密〜そして光と影
その夜、トウが弟のカイルの悪ふざけによって魔法が暴発した夜偶然にも重大な会話を耳にした。トウは書斎の前にいた。もちろん彼は歩くことがまだできない年齢なので這いずり回って移動している感じである。基本夜はメイドのメリアがトウに様々な話を子守唄代わりに聞かせ、トウが眠りそうになると彼女はトウをゆりかごの中へ移す。そうなってしまったらもう出ようがない。しかし今日の夜は偶然にも違った。魔法の暴発や様々なことも重なり疲れが溜まっていたメリアは心地よい外の生物の鳴き声や暖炉の暖かい火の光で彼女は不覚にもトウよりも先に眠ってしまった。そんなこともありトウはこの偶然の機会を逃すまいと不慣れな体で家の中を探検することにした。様々な場所を歩き回った果てに書斎の前に辿り着いた。よも深いため偶然にも彼は他の使用人に見つかることがなかった。
書斎の前についてみるとドアが僅かに開いていた。部屋の中からは父アルフォンスと母クリスティの声が聞こえてくる。トウは二人にバレないようにドアの隙間から耳を澄ませて二人の会話を盗み聞きした。
「.....やはり『勇者』の可能性があるのか?」
「ええ、アルフォンス。この前トウが寝ている時にした診断によると通常よりも魔力量が多いらしいわ。今朝魔導士長から診断の趣旨を告げる手紙が来たの。」
父と母はかなり神妙そうな声で会話を続けている。しかしトウには二人の話している会話の内容がさっぱり理解できなかった。
「そうはいってもな、、、別に魔力量が多いことなんて全然あるはずだろ。現に王国随一の魔力を持つ魔導師長だって魔力量は生まれた時から平均よりもずば抜けていた。それに、私とクリスティだって魔導師長ほどとはいえないにしろ子供の時から魔力量は平均よりもかなり高かっただろうに。それにお前は聖女ということもあり国では5本の指に入るほどだろう?」
「そんなことはわかっているわよ。トウだって魔力量が多いといってもまだ平均よりもそれなりに多い程度だわ。」
「じゃあ何を心配する必要があるんだ。」
「それが、、、、魔導師長がいうにはトウは魔法に対して喘息性の適性があるらしいの.....]
トウの目には驚きのあまり呆気に取られた父の表情が映っていた。あの厳格ないつもコワモテをしている父の顔からは想像がつかないような表情だった。
「な、お前、自分が何をいっているのかわかっているのか?そ、そんなことありえるわけがないだろ。全属性の魔法適性を持っているだと?騎士家系として生まれた私ですら二種類の魔法適性を持っていることでかなり騒がれた。聖女であるお前は約半分の種類の魔法適性、王国最強の魔導師長でさえ大半の魔法が使えるとはいえ何種類かは使えない魔法があるというのに、、、、」
「私だって最初は信じられなかったわよアルフォンス。こんなことが現実で起きるとは思えないわ。」
二人の話からするとトウには全種類の魔法適性があり、それは普通起きるはずのないことらしい。トウの心臓が高鳴る。彼にとって今の状況は到底理解し難いものであったが、それでもこんな展開は彼の遠い昔に消えてしまった厨二病心をくすぐるのには十分であった。
(これって、、、、もしかして俺この世界で無双しちゃう系なんじゃ、、、、)
トウは高校生の頃に読んだ異世界転生ものを思い出していた。
「なるほど、、、、このことが国に知れ渡ったらとんでもない騒ぎになるな。いや、騒ぎ程度で済んでくれればいいが、、、」
「このことを知っているのは国王様とわたしとあなた、そして魔導師長のみだわ。」
「ふむ、それならよかった。確かに到底信じ難い事実だが魔導師長が言うのなら事実なのだろう。それにトウがどんなであれ我が子に変わりはない。」
「もちろんです。ただ、、、」
クリスティはどこか歯切れの悪いような、まだ何か言い足りないような様子をしていた。そして彼女の声は震えていた。
「どうした?何か思い当たる節でもあるのか?」
「あの子が『魔王再来』の予言に関係あるとしたら、、、」
「なるほど。『魔王再来』か、、、、だとしても我々が守るまでだ。」
暖炉の火が小さく爆ぜる音が聞こえた。アルフォンスの鎧が軋む音が部屋に鳴り響いた。トウは空気が張り詰めるのを部屋の外からでも感じた。父の我が子を守るという強い思いがアルフォンス一瞬奮い立たせた。
「レイモンド家は約800年前に初代当主が初代魔王を討ち取った。いや、その頃はレイモンド家などさして力を持っていなかった。初代当主のおかげでここまでの力を国の中で持つようになったといってもいいだろう。もしや.....トウは『勇者の再来』か、あるいは......]
(まてまて、なんの話をしてるんだ一体、、、、俺が勇者だって?)
トウが身を乗り出してもっとよく話を聞こうとした瞬間、メリアの声が後ろで響いた。
「あ、トウ様、、、やっと見つけましたわ、、、、こんなことで何を?」
メリアはトウがいなくなってしばらくした後目を覚まし、トウを探すために屋敷の中を歩き回っていた。
「ガチャン!」
ドアが全開になり、両親が驚いた顔でこちらをみる。
(や、やべえ、、、、、)
トウは即座に泣き真似をし出した。
「あらあら、トウったらこんな夜中に迷子になって、、メリア?部屋に連れて行って。」
トウはメリアに抱き上げられながらアルフォンスがボソッと小声で言った言葉を聞き逃さなかった。
「.....クリスティ、あの子の教育は早める必要があるかもしれん。」