まぼろし録
人々の、かなしみの数だけ
鈴が鳴る
じゃらじゃらと
ときに小気味よく
ときに屈辱的に
真鍮の
くぐもった瞑想がみちてくる
かわいた擦れと諦めと
しずむような慈悲がおちてくる
花は
折っても、折ったぶんだけよみがえり
ハイヒールの冷やかしのみ
都会をねりあるく
林立するビルと ビルのあいだに寄生した
くるし紛れの人々
それが ごまんと居る
病床の
窓からのぞく、あわい虹
モールのように ぱさぱさと
毒性すら、持って
蝶の鱗粉のごとく
わたしの体内に根をはやしていった
くろい背景に
手を合わせ、
しづしづと打ちのめされて、
穏やかに香り立つのは
白檀
ぐらぐらと
精神のおちつかない日。
ざらつく身体の先端で
やっぱり、鈴のおとがする
まぼろしの中、鳴っている