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タイトルなし一 泡沫リンク改稿 タイトルなし二 タイトルなし三

作者: 内田るり

タイトルなしです。

「ああそうか――強くなるぞ!」

「大丈夫っスよ。るり先輩」



プロローグ これが全ての始まりです。

 



 僕と、うーちゃんはカーテンの閉まった薄暗い狭い部屋に、後ろ手に縄で縛られて座っていた。肩越しにうーちゃんが震えているのが分かった。僕、紺生寝目(こんないめ)は男の子なんだから自分がしっかりしなくちゃと、今にもガチガチと音を立てそうな歯をしっかりと噛み締めていた。

「うーちゃん、僕がうーちゃんを守るからね」

 声が僅かに震えてしまった。うーちゃんに悟られません様に。

「うん、うん……」

 僕の言葉にうーちゃんは涙ぐみながら返事をした。未だかつてうーちゃんがこんなに動揺しているのは見た事が無い。だからこそ僕が守るという使命感が殊更強くなる。

 僕は正面を見据える。そこには鈍く光るナイフを持った若い男がいた。外に抜け出せる扉は一つしかなくて、そこにその男が陣取っていた。どう考えても逃げ出せるわけが無い。

 どうしてこんな事になってしまったのか。僕とうーちゃんは公園で遊んでいた。そこにいきなり二人組の男がやって来て抵抗する術もなく車に押し込められたのだ。

 これは「みのしろきんようきゅう」をする為に僕らを「ゆうかい」したのだ。前にテレビで見たから知ってる。

「私達、これからどうなるのかな……」

 うーちゃんがぽつりと呟く。その声は不安に揺れていて、僕が元気づけなきゃと意気込んだ。

「大丈夫だよ。僕がついてる。どんなことがあっても一緒なら怖くないよ!」

 すると、うーちゃんはその綺麗な瞳をまん丸にした後、薄く微笑んだ。つられて僕もにっこりと笑う。……絶対に、絶対にうーちゃんは傷つけさせない。僕は子供ながらに覚悟を決めていた。

「おい、ガキどもべちゃくちゃ喋ってんじゃねえよっ!」

 ナイフの男が血走った目で僕らを怒鳴りつける。そして足でゴミ箱を乱雑に蹴り飛ばす。ゴミが何もない床に散らばった。その剣幕にうーちゃんは「ひっ」と小さく声を上げる。……やっと、やっと、うーちゃんが笑ってくれたのに。またうーちゃんは怯えた表情になってしまった。僕は頭が沸騰するのを感じた。そして感情に任せてナイフの男に向かって叫ぶ。

「うーちゃんを怖らがせるな!」

「ああ? ガキが粋がってんじゃねえよっ! 王子様気取りか? 笑わせんな!」

 ナイフの男が僕の首を掴んで空中に持ち上げる。息苦しい。それでもさっきまでの恐怖は頭に上った熱で消え失せていた。僕は男を無言で睨みつける。

「舐めた面してんじゃねえ!」

 琴線に触れたのか、男は僕を床に叩きつけてナイフを振りかざす。それでも僕は男を睨みつけるのを止めない。

「少し痛い目に遭わせてやるよ」

 男はナイフを舌なめずりして、にやぁと笑った。ナイフが振り下ろされる。うーちゃんの「いやっ!」という泣き叫ぶ声が聞こえた。刹那、僕の左腕が熱を持つ。一瞬遅れて脳髄に痛みが走る。

「うぁああ!」

 僕は堪らず声を上げる。生理的な涙がこみ上げてくる。痛い。痛い。痛い。

「少しは懲りたか? これで生意気な真似は止めるんだな。お前らなんていつでも痛めつけることは出来るんだからな」

 男は満足気に笑う。そして扉の前に戻る。ナイフには僕の血がべったりとついている。

「いや! いやぁ! 血が! 血がぁっ!」

 うーちゃんが僕に近づいてぽろぽろと涙を溢している。その一滴が僕の頬にぽたりと落ちる。

「泣かないで。僕は大丈夫だよ」

 僕は上半身に無理矢理力を込めて起き上がる。左腕がズキズキと痛む。全身から冷や汗が出る。でも僕はにっこりと笑う。うーちゃんを安心させたい、その一心で。

「でも! 手当しなくちゃ!」

「大丈夫。傷はそんなに深くないから」

 これは虚勢じゃない。実際、傷は薄皮一枚めくれた程度だ。うーちゃんが恐る恐る、僕の腕をじっと見つめる。そしてほんの少しだけ安堵したのかうーちゃんは息を吐く。

「(それより、うーちゃん。いつでも走れる準備しておいた方が良いよ)」

 僕はうーちゃんの耳元でこっそり呟く。

「(うん……逃げる為だね)」

 僕らが密談をしているそのときにチャンスは訪れる。

 ガタンッ、と乱暴に扉が開いた。

「おい! もう警察に囲まれてる! ぁああ! こんな時どうすりゃ良いんだ!」

 僕らを連れ去った金属バットを持つ中年男が戻って来た。憔悴しきった様子で、ぁあ、ああ、と声を上げていた。ナイフの男は宥める様に柔らかい口調で諭した。

「何の為の人質だ。まだ突破なんてされないさ」

「でも、あいつら人質なんて諦めたのかもしれないじゃないか!」

「落ち着けって!」

 ナイフの男の注意が金属バットの男に向いた。扉は充分過ぎる程、開いている。今だ! 僕はうーちゃんに目配せをする。それだけで通じたのかうーちゃんはこくりと頷く。

 僕らは扉に向かって全力疾走した。うーちゃんが先に扉から飛び出す。僕も後に続く。

「おい! ガキどもが逃げたぞ! 追え!」

「うあ! っ! ああ!」

 男達の焦った声が後ろから聞こえた。僕はちらりと後ろを一瞥する。金属バットを持った男が足をもつれさせながら、僕らを追いかけて来ていた。男はぶんぶんと闇雲に金属バットを振り回していた。あれに当たったら……多分無事じゃ済まない。僕は左腕の痛みを思い出して、恐怖に襲われる。でもここで足を止めるわけにはいかない。

 薄暗い廊下を少し走ったら階段が見えてきた。僕らは転がる様に階段を下る。その間も男はバットを振り回している。

「おい! 待て! 待てよっ! クソガキども!」

 男が喚いているが僕らは気にせず、ひたすら階段を駆け下りる。そしてようやく外の明かりが見えてきた時だった。

「きゃあっ!」

 うーちゃんが足を滑らせた。真っ逆さまに落ちていく。僕はうーちゃんを助けなければ、と前のめりになって右手を伸ばそうとする。だが、今更気づく。僕の腕は縄で縛られていることを。上体を前に傾けた僕はバランスを崩し、空中に投げ出される。

 ダン、ダン! と派手な音を立てて僕とうーちゃんは頭をコンクリートに打ちつけた。

 うーちゃんが頭から血を流して力なく倒れている。僕も頭から血を流して朦朧とした意識の中、それでもうーちゃんに近づこうと身体をずるずると引きずる。

「うーちゃん、うー……ちゃん」

 僕が必死に呼びかけても、うーちゃんは反応しない。僕は涙がこみ上げてきて、自分の無力さを思い知る。僕が守るって言ったのに……うーちゃんを守れなかった。意識が霞んでゆく。

 バタバタと数人の足音が聞こえた。

「……おい! 大丈夫かいっ!? しっかりするんだ!」

 拳銃を携えた男が僕に呼びかける。

(あ、お巡りさんだ……これで、もうだい、じょうぶ……うー、ちゃん……)

 そこで僕の意識は途切れた。




「う、痛い……」

 僕は包帯の巻かれた頭をさする。お母さんから聞いたのだが、僕は家の階段から派手に落ちたらしい。そのときの事はともかく丸一日の記憶がぽっかりと抜け落ちているのが気持ち悪い。

 僕は幼稚園に向かうバスの窓から外を見る。呆れる位の快晴だった。今日も身体に纏わりつくような暑さだ。僕は手で顔を仰ぐ。

 それから十分もしない内に幼稚園に着いた。僕はバスから降りて、自分の組に向かった。チューリップ組の部屋に入ると、僕と同じく頭に包帯を巻いた、見知らぬ黒髪の女の子がちょこんと座っていた。その子は僕を見ると目を細めて微笑んだ。立ち上がり、僕の方へと近寄ってくる。

「……良かった。もう大丈夫なんだね。私も大丈夫だよ」

 その声からは親しみが滲み出ていて、僕は困惑する。

「今度、公園で遊ぶときは気をつけないとね」

 気をつける? 何を? この子は一体何なんだ?

「……ねえ、君、誰?」

 僕の声は自分で思ったより冷めた響きを帯びていた。その声を浴びせられた女の子は目を見開いて硬直している。それから十数秒経ったか、もっと長かったのか分からないが女の子が口を開く。

「誰って……私だよ? うーちゃんだよ?」

 女の子の声は震えていた。そして瞳を潤ませて僕を見つめている。僕は女の子の言葉を反芻する。うーちゃん、うーちゃん? 誰だそれ。

「知らない。もうあっち行ってよ」

 僕が吐き捨てると、女の子は涙を浮かべながら、でも口角だけを上げて微笑んでいた。僕は女の子が何で笑っているのか理解出来なかった。ただ、妙に印象に残ったのだけは確かだった。

「そっか。……そっか。あはは」

 うーちゃんと名乗った女の子はそれだけ言うと、僕から離れて行った。


 そして次の日にはその女の子はいなくなっていた。


 こうして僕はうーちゃんを忘れた。今思えばなんて大変な事をしでかしてしまったのだろうと思う。あの日の事を覚えていれば僕はうーちゃんを傷つけずに済んだのに。





















































































































































































「助けて」


「助けて」

大変だけど二つの作品です。

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