第92話
「【鉱滓包み】を店で出すなら、一緒にポーションも売れば儲からないか?」
「ただ、【鉱滓包み】を食べさせるだけなのに、冷却魔法と回復魔法を使える者を常勤させないといけない食堂か…」
って、どんな店だよ!!
「冷却魔法も回復魔法もドワーフにはスキルの発現が厳しいのがなぁ…」
「この世界の創造主の悪戯か、はたまた試練か……」
「回復魔法はポーションでどうにでもなる。問題は冷却魔法の習得だ」
諦めて冷蔵庫的な魔道具を開発して下さい。
「でも何で個々に冷却魔法を覚えようとするんですか? 大型の魔道具とかでは駄目なんですか? 家や酒場に据え置きタイプなら、そこそこのサイズの物が置けるのでは?」
「ミーシャは分かってないな。何時でも何処でも冷やしエールが飲めるのがいいんじゃないか」
「何時でも何処でも何処までも!!」
………。 パパラ パッパ パ〜〜 何処でも冷やしエール (ダミ声)
動機が不純な理由だったよ。
「冷やしエールもいいですが、そろそろ【渓流鰮】の尾ビレ酒を試してもらいたいです」
「いかんいかん、冷やしエールに溺れてしまった」
「ダン=カーン、【血の海】にも溺れてもらわないとな」
「今日は無理なんだよな?」
「明日、三人分ならギリギリいけるかな?【血の雨(仮称)】の試飲は微妙かもしれないけど」
「そればかりはマリイン=リッジ頼みだ」
「では【渓流鰮】の尾ビレを干した物を火で炙るぞ。素焼きのコップを人数分頼む。『生命之水』を注いでおいてくれ」
炙り担当はリンド=バーグさんか。火加減をみるのは得意そうだから丸投げしてしまっても安心だね。
「皆さん、まだ料理はお腹に入りますか? 食べ足りないならボクが今から肉饅頭を作ります。蒸し肉饅頭と焼き肉饅頭です」
「余れば明日の朝飯に回せばいい。ミーシャ頼む」
手に『汎用魔法』のJSSトリプルコンボを掛け、大麦のパン生地を千切り、餃子の餡を包む。蒸す肉饅頭は上部を絞った、いわゆる前世でお馴染みの形状にした。焼く肉饅頭は平べったく形成。前世で言うならカレーパン的な形状だな。数が要るので気持ち小振りなサイズにした。焼き用は油で揚げてピロシキにしてもいいけど……ピロシキにするなら餡に芋麺炒めを刻んで混ぜたい。うん、妥協は無しでいこう。
という訳で、焼き用は小判型に、ピロシキ用は平たいラグビーボール型に修正した。少しだけ二次発酵させたいところだけど、間に合わなさそうなら無視して加熱しちゃおう。
「捨てるだけの尾ビレを酒に入れるとは」
「香ばしく炙れたら、『生命之水』に浸す。数分して魚のエキスが酒に移ったら飲み頃だ」
………………、
「美味い!!」
「干した尾ビレを炙ってあるから生臭くないんだな」
「足りなーい!! おかわりー!!」
「ホーク、そこに『生命之水』を足して竈の灰に刺すんだ。熱燗にしてみろ」
「あ、リンド=バーグさん、【サモントーヴァ】から剥がした皮も軽く炙って下さい!! それも【渓流鰮】の尾ビレと同様に『生命之水』に浸して飲んでみて下さい」
「コップが足りないぞ!!」
「待て、俺が土魔法で作る」
「兄貴、おかわり酒も美味いんだけど!! 何杯まで飲めるの?」
「知るか!! 試せ!!」
ホーク=エーツさんって、只のダメ飲み野郎だったのか…。しかも酒乱だし…。
 




