第58話
巫山戯すぎるとパイク=ラックさんが天国の扉を開けちゃいそうなので、そろそろ通常運転に戻そう。
「パイク=ラックさん、その木賊って栽培するのに品種ごとに差ってあるんですか?光量とか肥料とか灌水とかで」
俺でも育てられるなら、その木賊を育てたいもん。
「特に差はないのう。差が無さ過ぎて困るともいうんじゃが…。育てたいのならば儂の手持ちを株分けしてやろう。そこからミーシャ仕様に育ててやるんじゃ」
「ボク仕様ですか?」
「たかが木賊じゃがな、使う者によって用途も研磨のクセも違うからのう。使う者の都合がいい様に調整して育てやるのが一番なのじゃよ」
育て方はそれほど難しい訳でもなく、直射日光の当たらない明るい日陰で育ててやり、水切れさせなければ構わなかった。特に肥料は無くても良いけど、魔力を含む水を与えてみたり、魔力を含む腐葉土を使ってみたり、底土に魔鉱石の砕石を混ぜてみたり、そんな工夫をすることで微妙な差が生まれるんだとか。本当は露地植えがベストだけど、パイク=ラックさんはこの『関所の集落(仮)』に赴任する関係上、鉢植えで管理しているとのこと。
「ありがとうございます!! ボク、頂いた木賊を大事に育てます。 “仕上げ砥” と “仕上げ砥の上” を中心に育てる予定です」
「ミーシャの育てた木賊がどんな風に仕上がるか楽しみじゃ。スワローに向かう前に分けた株を梱包して渡すから楽しみにしてるんじゃな。そうじゃ、 “仕上げ砥” と “仕上げ砥の上” の乾燥木賊をプレゼントする故、中砥仕上げまでのメノウ類を磨いてみたらどうじゃ?それを元に木賊をどう育ててみるかを考えてみるとよいじゃろう」
後でマリイン=リッジさんにも栽培に関しての意見を聞いてみよう。研磨繋がりでリンド=バーグさんとガルフ=トングさんにも普段木賊を使っているかどうかの話を聞いてみないと。
「ありがとうございます。パイク=ラックさんはやっぱり優しいおじいちゃんです。」
照れるパイク=ラックさんにもう一つお願いしなきゃいけない事を言わないと。
「パイク=ラックさん、もう一つお願いがあるんです。【緋茄子】を何個か冷凍してもらえますか?新しい料理…と言うか、新しいお酒の飲み方を試したいんです」
又か……な表情を浮かべるパイク=ラックさん。
「仕方ないのう。皆で試食の最中に儂を捕まえて、いきなり【緋茄子】を冷凍しろと言われるよりはマシじゃからのぅ」
そう言いながら苦笑いするパイク=ラックさんだけど、エールを冷やしすぎたせいなのか、最近、魔力の最大値が増えたらしい。




