第518話
早上がりの理由が一応、強化石の取り扱い店に相談に行くと言う内容なのでタイムカードを通す時に学生課の講師に相談した。
学生課とは言うものの何かしらの講師が兼任しているので、たまに知らない講師に当たる事もある。
まぁ、俺が知らないだけで向こうは俺の事を知っている訳だけど。
「すいません、強化石の相談で外に出ます。今日の職校内の作業は修了でお願いします」
「強化石? 校内でどうにかならない?」
「コレなんですけど……」
そう言いながら【シリマ石】と【ウォーター・ゴブリンの皿】を見せる。貰いっぱなしで何も手を付けていない。それこそスケッチすらしていない。よく考えたら皿は強化石じゃなかったわ。
「これ? これって……あっ…えっ、ウォーター・ゴブリン素材?」
「はい。刺し子の非常勤講師の古代エルフのオロール先生から頂きました」
「これだったら職校は止めておいた方がいいね」
「分かりました。九時方面にある強化石の取り扱い店に行ってきます。店主はジョンノ=レーンさんと言います」
「はい了解。あそこに行くんだね」
「それと、【手持ち豚】のカトリーヌが校内の集団作業に参加してるんですけれど、ボクが戻るまでの間、少しだけ預かっていてもらえます? そこまで遅くならないです。夕飯の開始時刻までには戻ってきます」
「それだと仕方ないね。ここで預かっておくよ」
「ありがとうございます。極力早目に戻ります」
先にリンド=バーグさんの家に向かう。アリサお姉ちゃんも在宅していた。バトルアックスの試作品の完成待ちなんだろうな。
「やっほー、ミーシャちゃん、久しぶり」
「お久しぶりです。タロール茸の件ですけど」
「チーウから聞いてたよ。四の日でいいんだよね?」
「それでお願いします。今回はカトリーヌの潜在能力を試す目的で……」
「トリル探し? あ、匂い繋がりでタロール探しもするんだ」
「そんなところです」
「トリルは買取額が美味しいけど、タロールは止めといたら?」
「タロール茸は三毛皇閣下に献上するんです。閣下が前世時代に過ごしていた異世界に似たキノコがあるそうでして、それならタロール茸を試してもらおうかと思ったんです」
「そう言う理由かー。異世界に繋がるモノなら将来的に人気が出るかもしれないぞ」
「なので、カトリーヌには頑張ってもらいます」
「流石にマンバは出ないと思うけどね。私としては猪の方が危険な気がする。でも猪肉はギルドに高く買い取って貰えるから出てきて欲しいかな」
「買い取りですか」
「猪肉は錬金術で処理するとミノタウシ肉に変化するんだよ。そしてミノタウシ肉はヒト族にめっちゃ高く売れる」
ミノタウシはミノタウロスを家畜化した魔牛だ。人っぽさは消え牛の姿をしているのでその肉を口にしても忌避感というか罪悪感が生まれないのがいいよね。都会ならではの猪肉の利用法。関所の集落(仮)ではあり得ない利用法だよなぁ。
野生の動物の肉を錬金術処理すれば歩留まりは悪いものの畜肉化出来るのだとか。豚肉を牛肉にするだけじゃなかったんだ。鹿肉だったら馬肉に変換出来るんだって。
と言う事で魔鹿の肉は【運魔】肉に出来る。魔鹿、マジか!!
そして魔獣肉は食用というよりは飼育されている魔獣の餌に回される。グリフォンとかワイバーンとかドラゴンとか、そういった魔獣の餌用だ。
「まさか、全ての豚の仲間が……」
「あ、【手持ち豚】は食用にも餌用にも回らないから安心していいよ。本当に極限状態に陥ったら食用に回されるって聞いたけど、今の所食べた人の話は聞いたことがないよ」
よかった、カトリーヌは錬金術目的で攫われないんだな。尤も捕まったとしても睡魔の煙を吐き出して逃げてきそうだけど。
そして作業を終えたリンド=バーグさんも居間に合流。ここのところずっとバトルアックスを打っては潰しを繰り返しているのだとか。小鍛冶師としてのランクが上がったのにタワシばかり作らせられているガルフ=トングさんとどちらがいいんだろう。
「リンド=バーグさん、こんにちは。今日はちょっと見てもらいたい物がありまして」
「お、ミーシャか」
「ちょっと変わった強化石を手に入れたんです」
「私も見たい!!」
「これなんですけど……」
テーブルの上に【シリマ石】、【ウォーター・ゴブリンの皿】、ついでに研磨途中だけどアリさんから貰ったガーネットこと【蟻石】を置いてみた。
「うわっ、レア石だ」
「これは…ウォーター・ゴブリン素材か。甲羅以外は始めて見たな」
「こっちは?」
「アリ? アリ由来か!?」
「ウォーター・ゴブリン素材はオロール先生から、【蟻石】は畑でアリさんから貰いました」
「ミーシャちゃんってアリからも素材を貢がれちゃうのか」
「アリの石は強化石ではないんですけどね」
「しかも研磨途中」
「研磨し始めたら忙しくなっちゃって」
「私の強化石もまだだよね」
「はい、ごめんなさい」
「慌てなくていいよ。リンドもまだ取り付けの技術がイマイチで」
「バトルアックスを鋳潰す前に取り付けの練習はしてるんだがな。強化石の取り付けはどちらかと言えば金工細工師の仕事に近いんだ」
「でも、前にボクに【バサルトタートル】の甲羅の装備品を作ってくれましたよね? あんな感じでやれないんですか?」
「あれは防具に取り付けるパーツの一種だからな。あの技法は柄に着けるのならいいが、アリサの希望は斧本体に取り付けだからタチが悪い」
「え〜、私が悪者なの?」
「いや、大鍛冶師なら武器本体に強化石を取り付けるのは職人としての目標だ」
間違っても宝石キラキラ七星剣とかは頼んじゃいけないらしい。実戦用ではなく儀礼用でも刀身に宝石を取り付けた武器を作り上げるのは困難なのか……。




