第514話
夜だと言うのにオロール先生は職校の学生課の講師に明日の朝イチで俺を連れて商業ギルドに向かう話を取り付けてきた。まぁ、職校は夜十時ぐらいまでは誰かしら職員が残っているので夜間の相談も特に珍しい話でもなかったみたいだけど。
戻ってきたオロール先生から 「一応、簡易登録だけはしておいたからね」 と言われた。
「ミーシャ、まだ材料があるからもう一回試飲しよう」
「まだ飲むんです?」
「飲むよ!! どんなカクテルか確認できたからね。完成したからには神様にもお供えしないといけないだろう?」
「あっ、そうですね」
流石に試作品では奉納する訳にはいかなかったからなぁ。
「お偉様と酒の神様には奉納しないといけないだろうね」
「地母神レミ神にも奉納しましょう」
「レミ神かい?」
「ボク、レミ神の加護が付いているし、レミ神の名を冠したスキルも持っているので」
「それで面白い料理やお酒が思い浮かぶんだね」
「はい」
嘘です。全部前世の知識の受け売りです。上様が許可してくれているだけで、本来だったら多分神を騙した罪で神罰を食らっています。
三種類のカクテルを改めて作り、その一部を神様にお供えした。上様は日本にいた頃はどんなお酒を飲まれていたんだろう。そんな事を考えながら奉納したよ。なので上様、なる早で日本酒を下さい。原料のお米を下さい。
あっ、ミケヲさんから頼まれてるリモンチェッロも作らないといけなかった。そんな事より手持ちの石を研磨したいんだけど……。
翌朝、早目の朝食を済ませると商業ギルドに向かった。コカちゃんを預けるのはその後だな。もしかするとホーク=エーツさんが確認のため試飲するかもしれないし。その時はコカちゃんのツンツン攻撃を試してもらおう。
カトリーヌには職校で合同の駆虫作業の参加依頼が出てたので戻り次第仕事に回ってもらう。【手持ち豚】を飼育している生徒職員が全員手を貸して行われる大仕事らしい。理由は明日の梁の修理の前処理だとか。
豚さん勢揃いとかメッチャ気になる。茶色い毛並みのビッツ種とか黒い毛並みのアグー種とかいるんだろうなぁ、何頭ぐらいいるんだろう。カトリーヌのプリマ種は野菜が好きで、ビッツ種は根菜類、アグー種はイモ類がお好みなのだかとか。それでプリマ種は吹き草って言われてるのか。
「おはようございます。ミーシャが……でいいんですよね?」
「そうだよ」
「あれ? オロール女史ってドワーフ語が堪能でしたっけ?」
「今は秘密の酒の効果が効いてるからね。貴方も飲んでみるかい?」
オロール先生、下戸のホーク=エーツさんに翻訳薬だとは言えお酒を勧めるのは止めてあげて!!
「ホーク=エーツさん、おはようございます」
「朝イチで登録が有るって連絡がきたからね。カーン兄が居なくて残念だ」
「昨日は職校で講演会でしたよね。毎日お忙しいんですね」
「今はヒト族領で追い込み作業をしているよ。ほら、あのカチューシャが売れ始めたんで嬉しい悲鳴を上げてるところ。例のクッキーも増産中だし。猫の人のイベントもあるから春先まで大変だと思うよ」
「でも、それだけの能力があるから任されているんですよね?」
「それは……ね。氏族の間では坑道を掘らないカークウェイの再来とか言われてるみたいだけど」
多分それ、何でも 「よっしゃー!!」 って引き受けちゃうからそう言われてるだけです。
「忙しいから手短にいくよ。内容は昨夜簡易登録された通りでいい?」
「それで頼むよ。製作者はミーシャ=ニイトラックバーグで登録するのは新しいカクテル三種類だよ」
「ボクは思いついただけなので。試飲してブラッシュアップしたのと名前を着けてくれたのはオロール先生です」
「殆どミーシャが作ってたじゃないか」
「だったら、いつものでいった方がいいかな」
いつものアレ。そう、登録を合同名で出すとか作者名を隠すとかのアレです。ナナシーさん出動です。
「表向きはまたナナシーで登録する?」
「でも、【血祭り】ってナナシー登録ですよね? またお酒をナナシー登録したら怪しまれません?」
「それは有るかもしれない。真実を知っている関係者はまたミーシャか…ってなるだけだけど」
「新しい名前を作ってもいいですか?」
「個人名に無さそうな氏名ならね」
「あの、ミレーヌ=ワンダーって名前は存在していますか? ノン=ダーク=レインでもいいですけど」
「調べるね……」
待つこと十分少々。結果としてはどちらもイケたよ。
「ミレーヌは女性名では珍しくはない。氏族名としてのワンダーは未登録だね。女性名の氏名不詳に使えると思う。それと、ノン=ダーク=レインはエルフ系の名前の感じだよね。これも普通には存在しない系の名前みたいだよ」
「その名前って匿名に使用する用に登録って出来ますか?」
「名前を?」
「はい」
「ミーシャは面白い子だねぇ」
「ミーシャ以外が名乗る様になってもいいのなら」
「ボクとしては謎の人物名として使われる様になってくれた方が後々詮索されなくて有り難いです」
と言う訳でカクテルの前に新規の匿名用の名前を登録する羽目になった。ミレーヌ=ワンダー、ノン=ダーク=レイン、ついでにノン=ダーク=レテルも登録しておいた。今回はエルフに受けそうなお酒と言う事で、エルフっぽい名前のノン=ダーク=レインでホワイト・ルシアン三種を登録する事にした。
「どうする? 最初に登録したから今後その名前の利用者が出たら暫くの間は権利金が入ってくるけど」
「そのお金は匿名者の保護に使って下さい」
「いいの?」
「回り回ってボクも守られますから」
自分の事は自分で守るってだけの話なんだけどねぇ。自分で使用料を払ってそこから自分に何割か取り分が来るって何が楽しいのやら。




