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第513話

ミケヲさんの日程を決めている最中も、早くカクテルを飲みたいオロール先生の圧をビンビン感じる。カクテルをくれなきゃお前を取って食う、とでも言う感じな。



「オロール先生、まだ【コピ】は有りますか? 濃い目に抽出したいんですけど」


「まだ有るよ。二人分の豆を一人分の湯で抽出すればいいかい?」


「はい。お願いします」



本来使うのはコーヒーリキュールだし、コーヒー液を使うにしても濃縮〇倍の市販品がある訳は無いし、となると蒸気で抽出するエスプレッソの濃いコーヒーが嬉しいんだけどそれも無理か。錬金術師のスキルや魔道具で抽出する能力のものがあるかもしれないな。今度調べてみよう。


部屋に漂うコーヒーの香り。夜明けのコーヒーならぬ夜間のコーヒーカクテルだよ。


魔導ガラスの三角ビーカーにゆっくりと滴り落ちる濃い目のコーヒー。細い粉とネル風の布フィルター。少しくらい粉っぽくてもカクテルになれば気にならないだろう。



「焦れったいね」


「錬金術の技術で抽出出来れば良いんでしょうけど」


「流行ると言うか、そのカクテルに皆がハマればその方式が使われる様になるだろうね」


「それはそうです。抽出し終わったら冷やしたいんですけど、オロール先生って冷却系の魔法って使えます?」


「いや、使えないよ」


「寒い地域の出だから使えそうなイメージだったんですけど」


「寒いから使わなくてもいいんだよ。冬なら外に置いておけば氷魔法要らずだよ。むしろ保温の魔道具を使わないと食材が傷むね」



マジか!! そう言えば前世で北海道旅行に行った時に民宿の女将さんが 「真冬だと廊下に置くより冷蔵庫の方が暖かいんですよ」 って言ってたな。



「美味しく飲むには【コピ】を冷たくした方が良いのですが」


「仕方ない、【冷め鮫(さめザメ)】の革を使おう」



冷め鮫(さめザメ)】は『ブルー=フォーレスト』の沖合で獲れる鮫の一種。肉は食用、肝からは油を採り、骨は【魔(ニカワ)】の材料の一つで、歯は(ヤジリ)になり、革は保冷剤や冷却材として使われるのだという。対象物を冷やす以外にも様々に使える鮫、様々鮫(さまざまザメ)が訛って【冷め鮫(さめザメ)】と呼ばれる様になったとか、そうではないとか。



「これは便利な鮫なんだよ」


「革で冷やせるとか、不思議な鮫なんですね」


「これを敷物に使うとうえに置いた物が冷えるんだよ。エールを飲むのに丁度いい温度ぐらいにまで冷やせるよ」



そう言いながらオロール先生が次元収納から鮫一匹分の革を取り出す。



「でも、その革ってコースターにするにはやけに大きいですよね」


「これは夏場の寝苦しい夜に敷布の下に敷くものだよ」



鮫革の油団(ゆとん)って事なの? エールに嬉しい温度って事は油団(ゆとん)より遥かに冷えるんだろうけど。



「それでサイズが一匹ままなんですね」


「そうそう。真冬の寒さが厳しい時にも使うけどね」


「へっ?」


「何もかもが凍りつくぐらいの温度の時だったら【冷め鮫(さめザメ)】の革の上の方が暖かく感じるからね」



でたな、真冬の廊下より冷蔵庫の中の方が暖かい理論。



大きな鮫革の上で冷やされるビーカー。この革でコースターを作れば何時でも冷やしエールが飲めそうなイメージが湧くけど、オロール先生が指摘しないってことは効率が悪いんだろうな。


何とも贅沢な冷やし方のアイスコーヒーだろうか。気付いたらお酒の瓶も何本か冷やされていた。しまった、無糖練乳も冷やしておけばよかったな。



「いつの間にお酒を置いたんです?」


「さっきだよ。【コピ】を冷やすって事はお酒も冷えてた方がいいんだろう?」


「そうです。流石はオロール先生です」



さほど時間も掛からず鮫革の上に置いた物が冷えていた。



「ミーシャも体験してみたらどうだい?」


「ボクがですか?」


「何事も体験だよ」


「はい。それではお邪魔します」



冷め鮫(さめザメ)】の上に乗る。確かにひんやりとしていて……確かに寒いな。何で初冬にひんやりした床に座らなくてはいけないのか……ってレベルで体が冷えてくる。



「これ、本当に冷えるんですね。冷えると言うか寒いです」


「そういう時はね、 「(サメ) (さめ)ェ…」」  と言うものなのさ」



これ、夏だったら欲しいかもしれない。



グラスに無糖練乳を注ぎ、その上にコーヒーを。水飴を少しだけ垂らし最後は【生命之水(蒸留酒)】。ここにバニラアイスが加わっても美味いんだがなぁ。氷も入って無いから冷えない代わりに薄まらない。まぁ、(ぬる)くなる前に飲み干しちゃうんだけどね。



「これが【コピ】を使ったカクテルなのかい?」


「はい。軽くかき混ぜて飲んでください」



「うん、これは濃厚なのにサッパリとした感じが面白いねぇ。甘い方が好みならあらかじめ【コピ】を甘くしておくか加糖練乳(スアダー)を使うといいだろうね。牛乳で割ったら安上がりか。それより【コピ】に加糖練乳(スアダー)だなんて、エルフにでも教わったのかい?」


「いえ、ボクの思いつきです」



嘘です。本当は前世の知識のベトナムコーヒーです。



「これはドワーフ向けと言うよりはエルフ向けかもしれないねぇ……。【コピ】の代わりに濃く煮出した紅茶でもよさそうだね」


「【コピ】や紅茶の代わりに【魔増(マゾ)ひずむジュース】はイケると思いますか?」


「それはイケると思うよ。全部試してみようか」




結果としては全部美味しかった訳ですよ。



「明日の朝イチで登録に行くよ。名前はどうしようかねぇ……」



流石にホワイト・ルシアンは駄目だな。さてどうしよう。



「エルフ好みなら、いっそのことカクテル名にエルフをいれちゃいます?」


「それがいいかもしれないね。白エルフ、黒エルフ、草エルフ……」


「黒エルフだと種族名のダークエルフと被りませんか?」


「ああ、そうか。それならば、里エルフヴィラージュ・エルブン山エルフモンターニュ・エルブンの方が混乱しないね」


「それって混乱しないんですか?」


「大丈夫、里エルフヴィラージュ・エルブン山エルフモンターニュ・エルブンと言った単語は存在しないからね」


「もう一つは?」


雪エルフ(ネージュ・エルブン)だろうね」



オロール先生曰く、里エルフはダークエルフ、山エルフはエルフ、雪エルフは古代エルフを連想させるから面白いんじゃないか……だって。


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