第512話
「よいしょ、よいしょ」
「寄せろ寄せろ」
「ハインツのが前でいいか?」
「ポールのが後ろだ」
「斜め上から魔導ランプで照らしてくれ」
食堂前のロビーが騒がしい。何かを展示する為に作業してるんだな。
「ハインツのチェーンメイルは相変わらず凄ぇな」
「ポールのも手間が凄いだろ」
鎧、それもチェーンメイルらしい。食堂前に展示って事は新作お披露目かな?
(共)「オロール先生、あれはなんだと思います??」
(共)「多分、卒業製作のお披露目だろうね。チェーンメイルは鍛冶師でなくても作れる鎧だから鍛冶をする職人の間では可否が分かれるけど、それを言ったら布鎧、革鎧職人の立場が無くなるだろう?」
(共)「確かにそうです」
(共)「チェーンメイル職人になるには腕利きのクルラホーンと懇意にならなきゃいけないから、あの二人もそっちの方で苦労したんじゃないのかねぇ」
(共)「クルラホーンですか」
(共)「質の良い鎖の素を作るにはクルラホーンの協力が必須だからね。後ろの方の鎧、鎖を布に縫い付けてある鎧、あれはレプラコーンの協力も必要だよ」
鎖の素、つまり丸カンや楕円カンと呼ばれるパーツの切り口の処理にはクルラホーンの技術と協力が必要不可欠だったという事実。ドワーフだけでもやれなくはないけど、苦労の度合いが三百パーセント増(当社比)らしい。手間も時間もお金も掛かるところをクルラホーン一人が居るだけで楽々作業になるなら協力を仰ぐ他はないわな。
チェーンメイルと銘、作者名が二つ。ドワーフとクルラホーンと二種族の名前が書いてある。布に縫い付けてある方には名前が三つあるから、ドワーフ、クルラホーン、レプラコーンなんだろう。どんな種族であれ仕事が認められるのって嬉しいもんだよな。
ドワーフ領でお披露目された後はヒト族領内を巡回展示するんだって。そうして職人と仕事ぶりを売り込むんだな。
お酒飲みたさに姿をくらますクルラホーンと、仕事にムラのある事で定評のあるレプラコーン。その二種族の信頼を勝ち取ってチェーンメイルを作り上げるのは中々に苦労が絶えなさそう。
(共)「ミーシャも懇意にしているクルラホーンが居るんだろう?」
(共)「あ、はい。今はお酒をプレゼントして色々お願いしている程度ですが」
(共)「腕利きだったら仲良くしておくんだよ。妖精達に繋ぎをつけるのは意外と手間だからね」
(共)「そうだったんですか?」
(共)「彼等は陽気で気まぐれだからね。それより無糖練乳は上手に出来たかい?」
(共)「あ、はい……多分。純正品を持ち帰りました。加糖練乳も売り出されていたので入手してみました」
「加糖練乳だば、飲めばめよん」
(訳:「加糖練乳は飲んだら美味しいよ」)
(共)「オロール先生、言葉、言葉!! それと「加糖練乳は飲み物ではないのでは?」
(共)「いや、あの濃いのをキュ〜ッとだね……」
そう言えば前世でコンデンスミルクのチューブを一本飲む奴がクラスメイトにいたわ。
(共)「今日は無糖練乳でカクテルを作ろうと思っています。オロール先生、夕飯の後は時間は大丈夫ですよね?」
「けねけね!! 酒コの為だば 寝ねくてもいいはんでな」
(訳:「大丈夫、大丈夫!! お酒の為なら寝なくても平気だよ」)
(共)「オロール先生、落ち着きましょう。そして飲んでもいいから寝てください」
(共)「ははは……つい、な」
カトリーヌとコカちゃんの事はアンディーにお願いしっ放しになっちゃうんだよなぁ……。コカちゃんがもう少し大きくなったら三頭一緒に連れて来れるんだけど。教育には宜しくないけどな。
オロール先生はエールを二杯空けると【翻訳コニャック】の瓶を開け少量を口に注いだ。数滴でも効果はてきめんだ、ってか。
「これで安心だよ」
「数滴でも効果が出るんですね」
「流石に授業で酔っ払ってると追い出されるからね。ここは大事な稼ぎ口だよ」
「普通、講師も生徒も酔っ払ってませんから」
「毎朝、コカコッコに突いてもらいたい気分だよ」
「もう少し大きくなったら養鶏場に預けに行かなくてよくなるので、その時はコカちゃんにお願いしてみて下さい」
「いや〜、今朝コカコッコに突かれてから身体が軽くてね、今しがたも何時もより美味しくエールが飲めたんだよ。この爽快感の為にコカコッコの飼育を検討したいものだよ」
なんて不純な理由だろうか。そして益々ホーク=エーツさんにコカちゃん効果を試してみたくなった。
毎度の如くオロール先生の部屋で飲み直しになる。食堂でエールは一人二杯まで、支払いは誰でも可というルールは秀逸なシステムだ。その気になったら作業に協力してくれたクルラホーンにエールを奢る事も出来る。食堂を利用するほぼ全員が二杯飲むので利益も出てるだろうしな。そして日に銀貨二枚程度の支出は職校内で作業していれば工賃として受け取れると言う事でもある。それが取っ払いなのか月払いなのかは不明だが。
何処かで聞いたことがあると思ったけどあれだ、地下工場で得られる一日の賃金がキンキンに冷えた缶ビールに化けるシステムじゃないか。飲んでなくなるその日の儲け。
ミケヲさんと会うのは五の日になった。手紙には 「吾輩、何時でも無問題なのである」 と想像通りの内容が書かれていた。まさか無問題にモウマンタイと振り仮名を振ってくるとは思わなかったが。大丈夫、読めますんで。
三の日は梁の修理の見学だし、四の日は天気次第で松茸狩り。あまり遅くなるのも申し訳ないので五の日という事で。商業ギルドの小会議室を借りる。あそこなら施錠も出来るし防音の魔道具も使えるからな。まぁオロール先生は謎の呪文で防音出来る訳だけど。




