第511話
「学長先生、分離魔法もしくは除去魔法について質問したいのですが」
「それは鉱石から金属を分離するといった目的かね?」
「いえ、実はボク、十日ほど前に不純物混じりの岩塩から鉄分、多分鉄錆なんですけど、それを分離しようとして倒れました」
それを聞いた学長先生の顔がサッと曇った。やっぱり普通はやらない行為なんだな。
「岩塩かね? 大きさはどれくらいだったのかな」
「岩塩ランプを掘る為の素材だったので、それなりの大きさです」
更に学長先生の表情が険しくなる。それ、やったらアカンやつ……って感じだよ。
「分離は初めてだったのかね?」
「『汎用魔法』で『有害金属除去』は持っています。小さな岩塩では成功していたので試しました」
「成る程成る程。そこは魔法学でも様々な指摘が入るカテゴリーでね、『汎用魔法』で使われる事もあるので過小評価されがちだが、実は空間魔法であり……」
何だろう、この難しい物理学の講義を聞かされている様な説明。まだ除去魔法の方が簡単だった。そして不純物は物理的に分離する方が遥かに楽な事が確定。
「あ、料理と同じなんですね」
「と言うと?」
「塩味を足すのは簡単だけど抜くのは困難なので」
「確かにそうだね。分離魔法を使えば入れ過ぎた塩も取り戻せるし、除去魔法なら塩味は消える。尤も、そこに至るまでが大変なのだが」
「分離魔法は気を付けながら修めていこうと思います」
「分離魔法の第一人者を目指して励む様に。ライバルも少ない。百年も励めば分離魔法にこの人ありと呼ばれる様になるだろう」
いや、百年も分離しませんから。それこそ世間から分離されてしまうわ。
「それと、髭を浮かせるコツって有りますか?」
「それも空間魔法の一つだね。それ以外にも浮かせる手段は多々あるので……」
何故、髭を浮かせるだけなのに、これほどまで多岐に渡っているのか? 上様は髭に恨みでもあるのか?
「それこそ『髭魔法』というカテゴリーで纏めててもいい位には種類がある。そして研究も進んでいないので」
「もしかすると、これも研究すると第一人者になれる可能性が有ります?」
「勿論だ」
誰得だよ。『髭魔法の全て』って著書を書けとでも?
でも、様々な魔法をかじって広く浅く属性魔法に触れることが出来るという意味では面白いかもしれない。それが何かの魔法の入り口になるかもしれないし。あ、だったら『髭魔法』じゃなくて『入り口魔法』じゃないのか?
薬味園の管理人になる為には薬草学を後何回か聞かないと駄目だった。そしてかなりお高価い薬草学の教科書を購入する事がもう一つの条件。植物学の教科書はそこまで高価ではないので一安心。育てた植物を魔導標本にしてファイリングしなきゃいけないとか、様々な約束事もあるけど。
それでも薬味園をゲット出来たのでテンションは上がる。ショウガを植えてショウガ焼き定食を食べるんだ。あ、春の七草を寄せ植えした鉢植えをエルフ領に輸出したらウケたりする? でもハコベが入っていた様な……【鶏餌草】だよなぁ。前世と違う七草を作ればいいんだよ、多分。
薬草学の講義の日程を控えたので早目に回数をクリアしないと。職校の炭焼き実習みたいな扱いなんだな。クリアしておかないと詰む授業。
カーバンクル効果なのかアンディーは学園だと人気者だ。パンダもビックリのアイドルですよ。
どうやらカーバンクルは錬金術のシンボル的な存在。額から【カーバンクル石】が採れる事と、回転移動をする事を錬金術を象徴する “ 生産と循環 ” に準えているからで、別にカーバンクルが錬金術の素材だからという訳ではない。アンディーはレア種な事も手伝って超モテモテだ。
ムキュウ〜ン
少し困惑気味のアンディー。都市でも野生下でも追いかけ回されたら、そりゃあ逃げ出したくもなるな。
薬味園は俺の家の完成より先に出来上がりそうだと言うことなので、やっぱり講義を受けなきゃ駄目だ。今月中に無理するか……。樽風呂は嫌なので職校の学生寮から通おう。そして薬草学の教科書は在庫が有った。売れないからだな。マジで高い。分割払いでお願いしておいた。俺の場合は権利金が毎月だったり毎年だったり入金されるので特に審査もなく了承されたよ。
そしてアンディーに “ カーバンクルの生態観察 ” と言う依頼が来た。学生に普段の姿を見せるという内容だ。まぁ、授業一コマ分、適当に過ごすカーバンクルを観るだけという謎授業だけど。ちなみにその授業、俺は免除されてる…と言うか既に単位取得済みになってたわ。
ムキュウ
(「あたち やるの」)
「アンディー、参加するの?」
ムキュウ ムキュウ
(「やるの やるの」)
と言う事で俺が薬草学の授業を受ける間、カーバンクル触れ合い実習が急遽設けられる運びに。カトリーヌは連れてきたら学園の駆虫作業に加わるだけだし、職校で働いてもらっててもいい。何ならパイクお義祖父さまの家でアッシュちゃんと遊んでもらうか、商業ギルドに預けて駆虫の合間にナオ=エーツさんと遊んでもらっててもいいしな。
そしてコカちゃんも成鳥になったら学園デビューを依頼された。コカトリスからどう進化したか観察したいんだって。
カトリーヌもコカちゃんも特に生育に異常なしだった。帰りに餌類を補充して寮に戻ろう。オロール先生が俺の財布から飲むエールを待ってるだろうしな。




