第508話
「ほな今日は、今流行のアイテムの話をしよと思います。はい、この中で【デンプン】もしくは【カルトープン】って聞いたことある人おるん? いたら手ェ上げたって」
うわっ、いきなりデンプンのネタ振りするの!? 誰よりも良く知ってるけど手を上げたくない。あ……、何人か挙手してるな。
「あ、知っとるんやね。ここひと月ふた月で出てきた新商品やさかい、知らなくても気にせんといてな。で、その【デンプン】なんやけど、何と材料が【茄子花芋】で、世に広めたのが髭が生え揃ったばかりのドワーフなんよ。ほんでその【デンプン】からメッチャ沢山派生商品が生まれとんねん」
知ってる話というか、身バレしないかドキドキしながら聞かなきゃいけない訳で、気分はとっても犯罪者。
「派生商品で今一番アツいんが飴ちゃんや。みんな【鉱夫飴】って知っとる? アレな、【デンプン】で出来とんねん。ほんで、飴ちゃんを作るだけでのうて包む紙やら何やらが要るやろ? 包み紙は芭蕉紙や。つまり紙芭蕉の栽培から製紙加工、湿気防止に蝋引きするからその加工。飴ちゃん一つでメッチャ仕事が生まれとんねん。仕事って事は職人の数も要るやろ? 紙芭蕉作りはそれなりのスキルが生えてくるし、修業しながらお金も稼げる。一つの商品だけ売るんやのうて、雇用に流通。どの種族に対しても確実に売れるハズやからドワーフ全体に仕事が生まれてお金も流れる。ついでに手にスキルも付いて、いい事ずくめや。 “ 白い粉 ” 様々や」
そこからも延々とデンプン話が続く。どうやらこのデンプンと飴の話は商業ギルド関係で使われている開発と派生を語るテッパンネタになったらしく、デンプン一つでこんなに産業も雇用も利益も生まれているという、一種の成功体験談にされてしまっていた。
俺が仕掛け人なので何を目論んでどう派生させたかを全部知ってる訳だけど、この話は初めて聞いたらアメリカンドリームだ。異世界にアメリカは無いからドワーフンドリームというかスワローンドリームというか。
「ほんでな、一番凄いのはこの【デンプン】の登録者が皆に利益を渡したいって事で権利の占有を拒んだ事にあるんや。初回の登録に伴う権利金は貰たみたいやけどね、派生品の販売に伴って入る権利金は辞退したんやて。まぁ、ナンボかはギルドが渡してるとは思うんやけど、そのお金が有ったら農地開拓やら工場にかかる資金、職人さんの工賃に回して欲しいんやって。これな、普通言えへんで。ドワーフ皆で、何なら亜人衆に妖精族も儲けまひょって言うてたって話や。自分も又聞きやからどこまでホンマか分からへんけど」
カーン=エーツさんが黒板に要点を書き出しながら熱弁が続く。どこからともなく聞こえてくる「白い粉の帝王」だの「白い粉の勇者」だの「俺も白い粉王になりてぇ…」といった呟き。マフィアじゃないんだし、白い粉の首領かよ……。
「でもな、この話は皆もイイ感じの商品や発案を登録して権利を捨てろ言うてる訳やないんよ。派生の凄さと恐ろしさを伝える話なんや。大きな権利を取らんでも派生の数が凄すぎてこの発案者には最終的には派生品の登録や販売に伴う結構な額の権利金が入って来るハズやろなー、ってところや。大元の権利を放棄してるさかい、誰でも【デンプン】を使うて新商品を発明品できんねん。飴もアレンジ出来んねん。水飴からはヒト族以外の種族で様々な植物から樹液を採って砂糖を作る事業が立ち上がったしな。ホンマに影響力の大きさが凄過ぎやわ」
俺、褒められてるんだよな? 一通りデンプンについての講演が終わり、引き続き質疑応答の時間になる。
「すみませーん、質問いいですかー?」
「ええよー」
「『スワロー』郊外の開発ってこれが原因ですか?」
「せやで。工場も農地も足りひんねん。でもな、開発理由は【デンプン】だけやないんやで」
「発案者以外から派生した商品ってもう有りますか?」
「先ず、この 「飴ちゃんあげるわ」 って挨拶代わりに試供品を手渡す行為やけど、これは自分が広めたんよ。掴みに丁度エエし、確実に食べて貰えるやろ? 包み紙に屋号やメッセージを焼き印すれば宣伝にもなりまっせーって提案もしたし。権利金は貰えんかったけど特別ボーナスは貰たでー。後は髭無しの子が【デンプン】使うて新規登録しとったわ。髭が生え揃うまで権利金は貰えへんのやけど、いち早く登録したいって事やね。この登録案件は認可されてたさかい、髭が生え揃って口座を確認したら、その子は腰抜かすやろな」
あ、これはアッシュちゃんのオブラートの話だな。それよりカーン=エーツさんって飴ちゃん渡してボーナス貰ってたんだ。
「カーン=エーツ氏は今現在、他にも何かプロジェクトを抱えていますか?」
「ええ質問やね。実は山の様に抱えとんねん。両手両足では足りひんなぁ……」
「具体的に教えて頂けますか?」
「流行を作るプロジェクトやね。ヒト族の祭りに便乗して新しい商品を売り込みに行ってるわ。この祭りにはこの商品を持って参加すると流行の最先端なんやで……って唆しとんねん」
「そのアイテムを教えてください!!」
「ウサちゃんや。男も女もウサギの耳着けて……ってなー。それでホーンラビットの余った毛皮を消費しとんねん」
「ありがとうございます。俺の実家で急にホーンラビットが…って言ってたのはそれなんですね」
「せやせや。親御さんや職人さん達には縫うてくれてありがとうって言うといてや」
あ、あの人の実家でバニーカチューシャ作ってるんだ。
「後な、【タワシ】って名前の新しいブラシなんやけど、小鍛冶師に製作依頼が持ち込まれて忙し過ぎて悲鳴上げとる話も有ったわ。販売単価が高くないから売れた事に対する権利金は少ないんやけど、とにかくバカ売れするから付いた二つ名が “ 鉛貨の帝王 ” やて。これは手に職が付いとったら持ち込みされて仕事に困らない例やね。勿論、工賃は別に払うてるよ。薄利多売やけど慣れたら量産出来る言うてたから工賃と権利金とでエエ思いしとるハズや」
出たな “ 鉛貨の帝王 ” 。権利金は版権や著作権みたいな扱いの後から渡されるお金全般をそう呼んでいるの。
う〜ん、全部俺の話なのに全部違うドワーフの話に聞こえるから凄いな。カーン=エーツさん、やるじゃん。




