第506話
コピョコピョ
コカちゃんが鳴きながらオロール先生を嘴でチョンチョンと軽く啄く。可愛いご挨拶だな。
「ボクの従魔のコカコッコのコカちゃんです。スキルで性別を判定してもらって雄だと言われました」
「わい、めごいの〜」
(訳:「あら、可愛いねぇ〜」)
(共)「オロール先生、言葉、言葉」
「おろ?」
(訳:「おや?」)
コピョッ
(共)「あ、解毒してくれたのか。まさか酔い覚ましされて言葉が戻されるとは思わなかった」
コ…ピョ?
(共)「あ、怒ってないよ。どうせ酔いを抜かなきゃいけなかったからね。状態異常を解除する手間が省けたよ。ありがとうね」
コッピョ コピョ
コカコッコの解毒能力って酔っ払いを素面に戻すんだ。状態異常回復ポーション要らずだ。ホーク=エーツさんがお酒を飲んだ直後にコカちゃんが突いたら悪酔い回避とかある?
「コカちゃん凄いね」
コッピョ ピョ
(共)「う〜ん、腰の辺りが軽くなったかな? 今だったら幾らでも飲めそうだ」
(共)「オロール先生、朝からお酒は控えてください」
コカちゃんが酒酔いだけでなく肝臓の代謝を上げたとか? それとも解毒効果で肝臓の不調を治した?
準備を終えたので農場に向かう。農場と言ってもそこまで大規模ではないんだけどね。乳牛メインの農場。肉牛は別の街で育てているらしい。まぁお肉の錬金術で豚肉を牛肉にチェンジする技術があるから無理に肉牛を育てなくてもいいって話だし。
先にコカちゃんを預けてきてカトリーヌも養豚場に預けてくる。お迎えしてから十日が経つから体調をチェックしてもらう。アンディーは定位置の背中ね。
今日から郊外開発が本格化するので、現場に出ている生徒や講師は申し出れば食事量が追加されるのだとか。そこは【増筋豆】だろ、プロテをインするんだよ。
最初に旧『スワロー』外輪部を馬用の道路にしてしまい、市街と郊外の境界と輸送路を兼ねる構造にするんだったな。回転寿司の新幹線レーンみたいな扱いなのか?元々、ポニー達のトレーニング場とかになっていたので若干の仕様変更で済むのもいいよね。
土魔法持ちは最低一回は何かしらの魔法を使う様に通達が出ているので、俺もそのうち『掘坑路』でも撃ってこよう。
農場に着くと一連の消毒作業の後に牛舎や施設を見学するところから研修が始まった。魔法とスライムが存在しているとお陰なのか前世の牛舎よりもずっと清潔で快適。中でも牛糞の回収には気を使っているそうで、それも衛生云々とかの理由ではなくスライムとの戦いなのだとか。フレッシュな牛糞を消化したいスライムと乾燥飼料の材料にしたいドワーフとのせめぎ合いでした。と言っても材料にするのは全体の二割程度だ。魔法とスキルで衛生的に加工処理しているので素手で触っても問題無いんだって。まぁ触った後は手を洗うけどね。
加工時に何かしらの成分が失われるらしく、乾燥牛糞と水のみではスライムは健康に育たない。あくまで応急処置的に与える餌だった。赤スライムが牛糞を処理し、【スライムの死核】を肥料にして牧草が育ち、その牧草を食べて牛が育つ。見事に循環している。
乳搾りのやり方を聞き、いざ実践。牛に声掛けをしてから程良い温度の蒸しタオルで乳首を拭いてやり、最初の数滴は採取容器とは別の容器に受け確認した後に廃棄。親指と人差し指で乳首の付け根を固定、残りの指三本でリズミカルに搾り出す。……って、一応知識だけは前世でも聞いたことがあるんだけどねぇ。見ると聞くとは大違いシリーズの一つ、それが牛の乳搾り。
四人一組で搾乳体験を開始。大人もいれば髭無しもいる。牛が予想以上に暴れないと思っていたけど実は搾乳体験用の乳牛はテイムされている個体なのだとか。とは言え乱暴に扱うと反撃される。一度に大量の牛乳が採れる訳ではなく、更に手早く搾乳しないと牛に負担が掛かるので一人一回五分が目安。二巡目までは搾らせてもらえた。
続いて生乳の殺菌。殺菌には魔法を使う方法と加熱方法がある。あ、温泉玉子を作る時の温度が殺菌の温度と同じぐらいか。それなのに恒温調理の魔道具が普及していなかった理由は魔法の存在だ。前世だったら牛乳の低温殺菌って六十三度で三十分だっけ? 魔法で一瞬なら皆魔法に頼るわ。一応、魔法の使えない環境の事を考えて本来のやり方は伝えられているけど。エールの為なら頑張るのに牛乳の為には頑張らない、それがドワーフクオリティー。
そして、無糖練乳を作るのには先程採取した量では足りないので 「ここに今朝搾った牛乳があります」 とスタッフの手により追加の牛乳が出される。前世の料理番組の様だ。
「これから牛乳を煮詰めていきます。今日は基本の無糖練乳の他に、水飴を加えて作る加糖練乳も作ろうと思います。水飴は最近スカラベ印の飴で名前が知られてきたので皆さんご存じかと思われます」
おおっ、水飴!! スカラベさんありがとう……って、それは俺だよ、俺。
無糖にしろ加糖にしろ、牛乳を鍋に入れ加熱しながら半量になるまで煮詰める。前世だったらテフロン加工のフライパンでシリコン製ヘラでかき混ぜればいいんだろうけど、ここで使うのは銅鍋に木ベラだ。火力調整があるので薪ではなくて熾き火になった炭で加熱していく。これはコンロが欲しい。
最後に膜やら固まった諸々を麻布で濾して取り除けば完成。そう言えば湯葉作りに似ているよね。加糖練乳は固まった部分込みでも美味しいオヤツになりそう。やはり完成した量が少ないのでお土産としてポーション瓶に詰められた無糖練乳を手渡される。加糖練乳はまだまだ生産量が少ないので購入しないと駄目なのね。
俺の分とミケヲさんに渡す分の加糖練乳を購入した。苺と一緒に渡してサプライズしてやるのだ。




