第503話
オロール先生にコカちゃんの話を伝えた。
「コカちゃんと言うのは昨日お迎えしたばかりのコカコッコの雛なんですけど、どうしても早寝しちゃうのでそのうち紹介しますね」
「それは仕方ないねぇ。下手に起こすと育成に悪いからね、朝にでも会わせておくれ」
「毎朝、養鶏場に預けに行くので会うにしてもそれなりに早いですよ」
「早いと言っても朝食の前後ぐらいだろう? 一日ぐらいなら少し早起きするよ」
「それなら明朝にでも紹介します。それと明日なんですけど、ボクは午前中は牛の乳搾りと無糖練乳作りの実習、午後は商人のカーン=エーツさんの講演会を聴講するので刺し子の指導は無しにして下さい」
「いいよ。それなら私は他の生徒から回収した課題をチェックするだけだね」
【食用マンドラゴラ】と【マンナ芋の練り物】を千切りにして炒めた物をツマミにエールを飲むオロール先生。ニンジンとコンニャクのきんぴら(塩味)ってところだな。
「冬になるとね、根菜類と【マンナ芋の練り物】を賽の目切りにした物を大鍋いっぱいに煮た汁、【ケネッコ汁】と言う汁物を食べる風習が西側の古代エルフにあるんだよ」
根菜類の粥の汁で【ケネッコ汁】。古代エルフにしたら珍しく身体に良さそうな汁物だよなぁ。
「古代エルフにしたら随分と身体に優しそうな汁物ですね」
「まぁ、身体には良いかもしれないね。そもそもが新鮮な野菜も無く穀物も無い時期に細く刻んだ根菜類を煮て食べたのが始まりだって言うからねぇ…」
「そんな成り立ちなんですね」
「これを食べたら春までもう一踏ん張りって感じだよ。東側の古代エルフに振る舞うと嫌な顔をされるから注意が必要だね」
塩味で汁の少ない肉無し豚汁って感じなの?
そのままオロール先生の部屋に移動。今日は紅茶を出してもらった。古代エルフは紅茶好きなのだとか。理由は価格的な関係。コーヒーとおぼしき【コピ】は飲むとシャッキリするけど流通量が潤沢ではないので結構お高い。その点、紅茶は流通量が多いし一匙分の茶葉から何杯か抽出する事が出来るので費用対効果が良いのだ。野草や木の葉を煎じてお茶にする事も出来るけど、健康茶はイマイチ美味しくないしね。
出涸らしの茶葉がゴミになるんだったら貰って帰ろう。
「明日、無糖練乳の作り方を学んできたらチョクチョク私に作っておくれ」
「はい。牛乳さえ用意していただければ」
「濃く出した紅茶を無糖練乳で割って飲むと美味しいからね。樹液を加えてもいいし、スパイスを加えてもいいよ。無糖練乳を【コピ】で割っても美味しいよ」
「美味しそうです」
いや、美味しいのは知ってますよ。そう言えば前世だとコーヒーに練乳を加えたベトナムコーヒーってのが有ったよなぁ。あ……、無糖練乳を作る時に最初から水飴を入れて煮詰めたら甘い練乳になるよね? 煮詰めるから程良く水飴の水分も飛びそうだし。
そして甘い練乳が有ればかき氷や苺に掛けれるな。そしてエビマヨだ。イイ感じのエビマヨが作れるよ。エビマヨを作る時にマヨネーズと練乳を合わせると独特のコクが生まれるんだよ。爽やかにするならオレンジジュースをチョイ足しするといいらしいけど。
あれ? オロール先生ってカクテルのホワイト・ルシアンを知らないんだな。もしかして異世界では知られていないとか? 蒸留酒があって、コーヒーがあって、無糖練乳があれば似たものが作れるじゃないか。そこに好みでシロップを垂らしてもいい。コーヒーが高価なら濃く煮出した紅茶で作ってももいいし、それこそ抹茶エキス代わりで【魔増歪ジュース】を使ってもイケないか?
「おや? また何か美味しい企みでも浮かんだのかい?」
「あはは、そんな所です」
う〜ん、俺が何か企んでる時って顔に出てるんだろうか? 即バレしてるんだが……。
「それより、知り合いの重魂の件なんですけど」
「あ、今日の本題だね。会話の漏れを遮断するかい?」
「あ、大声を出さなければ大丈夫だと思います。その方が過去の記憶持ちなのはそれなりに知られているので」
「おや、そんな御仁がいたかねぇ?」
「猫の人のトップの方です」
「有名人じゃないか。それだったら間違いなく重魂持ちだよ。封印済みかは分からないけどね。でも何でまた?」
「色々あってボクが従名誉猫獣人になりまして、その関係で色々とお話する事があり、たまたま重魂の話になりました」
「流石に猫の人トップなら対策済みだとは思うけどね」
「他にもオロール先生に聞きたいことがあるみたいです」
「『ブルー=フォーレスト』に行ったときに腕輪は補充してきたからね、どちらを使う場合でも問題はないよ」
ミケヲさんって転生者として有名人だったよ。そりゃそうか、現在唯一の転生者って事になってるもんなぁ。
「後ですね、今『スワロー』の郊外が開発される事になってまして」
「久々に戻って来たらやたらガチャガチャしてたから何事かと思ったよ」
それ、俺の所為なんですけどね。言わんけど。
「その郊外が新興開発地区ということで、農地や宅地として取得が可能になるんです。それでボクがそこに家を建てる話が上がりまして、もしオロール先生がよろしければ、オロール先生が遊びに来る時のための客間を作ろうかと思ってるんです」
「わい〜!!」
(訳:「あら〜!!」)
「オロール先生、言葉、言葉」
「どでんしたじゃ」
(訳:「驚いてしまったよ」)
「ボク、従魔も増えてきたので寮生活も厳しくなってきた様に思ってまして、その時に家を建てるための土地が格安で手に入れれる話が舞い込んだんです」
「ポニーは馬車組合に預けておけるけど、カーバンクル達はそうもいかないからねえ」
「折角なので、厩も作って家庭菜園も作ろうかと思ってます。【プルモニア】の挿し木も植えなきゃいけないですし」
「それで私の部屋を?」
「はい。お酒を飲みに来る部屋ですね」
「狭くていいからね。素泊まりさせておくれ」
「後、敷地内にクルラホーンの為の小屋も作ると思います」
「懇意にしてるクルラホーンがいるならいいんじゃないかい? 何なら相部屋でも構わないよ」
それはただの飲み部屋なのでは……。




