第487話
「すみません、ボクはミーシャ=ニイトラックバーグと言います。昨日、所有しているラパンが返却されたと聞いたので会いに来ました」
「どうぞ。長期移動から戻った【運魔】は必ず一番端の個室に繋ぐ決まりがありますので、そちらに向かってください。検疫確認中なのでお連れの従魔は事務所でお預かりしますね」
「ありがとうございます。アンディー、カトリーヌ、野草クッキーでも食べながら少し待っててね」
ムキュウ
(「わかたの」)
プープー
こういった時の野草クッキーは便利アイテム。俺だってクッキー食べながらお留守番したいぐらいだし。
一番端の厩舎の隣にはポニー用のお風呂があった。薬湯で疲れを癒やし、個室で数日のんびり過ごさせる訳か。検疫、つまり感染症の罹患の有無も確認もする。後、牝馬に限り妊娠チェックもあった。【運魔】は家畜系魔獣の中でも強い部類に入るけど、ごく稀に移動先でワンナイトラブする/される事もあるのだ。その前にラパン、ワンナイトラブしてきていないだろうな?
「ラパンいた? ボクだよ、ミーシャ」
ヒヒーン ヒヒーン
(「慌てないで!! 時々念話を使いながらで」)
ヒヒーン
(「ミーシャ? マジでミーシャ?」)
「おかえり。いい子にしてた?」
ブルルル……
久々に見たぞ、ポニーのヘドバン。そして鼻水擦り付け攻撃な。
「まだワギュとは会ってないの? 会ってたら色々聞いてると思うけど」
(「まだだ」)
「そっかー、まだか。ねぇラパン、撫でていいかな?」
ヘドバンからの鼻水擦り付け。見ないうちに甘えたさんになってないか?
よーしよしよし と言いながらゆっくり首筋に触れて撫でてやる。気分は試される大地にある動物王国の主宰者。もしくはライオンに噛まれたことのある大御所女性俳優だな。
「ラパン、大変だったでしょう?」
(「いや、それほどでも…」)
(「だってオロール先生が相手だよ」)
(「それは……」)
「ちゃんと長期のお仕事してきたんだからね。自慢していいよ」
ブルッ ブルル……
「ラパンがお出掛け中に色々あって、仲魔も増えたし、皆で住むお家を建てる話も出たんだ」
ヒッ、…ヒン?
「今は受付に預けてきたけど、カーバンクルと【手持ち豚】が家族になったよ。今日はコカコッコの雛が家族になるよ」
ヒ……ヒーン?
(「えっ? ええっ?」)
「ビックリしたでしょ? オロール先生もビックリしてたし。ボクも成り行きについて行けてないくらいだから」
(「おっ、おおう」)
(「ラパンの検疫期間が終わったら紹介するからね。そうそう、『ブルー=フォーレスト』の他には何処に行ったの?」)
ヒヒーン
(「『ロック=ハンド』を沢山巡った。二刀流のオーガが怖かった……」)
(「二刀流のオーガ?」)
(「あいつら、トゲ付きの鉄球を投げつけて来たり、金棒を振り回してきたり……」)
なにそれ怖っ!! どんな過激な野球だよ……そんな二刀流は嫌だ。詳しい話はオロール先生から聞いた方がよさそうだな。
「ラパンの体調確認が終わったらボクを乗せて欲しいな。『襷着る』を覚えたいし」
ヒヒーン
(「わかったぜ、任せろ」)
前脚で地面をトントンして任せろアピール。やっぱり自信タップリのラパンは見ててホッとする。
自前でJSSトリプルコンボを掛けておいた。まぁ事務所に入る前に足元だけ消毒される訳だけど。養鶏場より簡素だな。そうか、おれも家を建てたら消毒について考えておかないと駄目なんだろうなぁ。俺の為というよりご近所さん対策って意味で。前世ほど気にされないとは思うけど、隣の家に馬や豚や鳥が住んでたら俺だったらチョット引くもん。引くどころか引っ越しを検討しちゃうよねぇ。更に屋根裏からムササビが飛び出して地面に落下する……誰から見てもイロモノ屋敷じゃねぇか!!
俺がラパンと触れ合っている間に、カトリーヌは事務所で煙を吐き、アンディーは梁の破損が無いか確認作業をしていた。先日の職校の作業場の梁の破損を見つけて以来ハマったか。まぁ、天井付近はアンディーの遊び場だしなぁ……。ご迷惑をおかけしない程度に作業員してください。
ムキュウ
(「こわれて ないの」)
「アンディー、梁や天井を見てきたの?」
キュウ
(「なの」)
「おや、破損がないか見てきてくれたのですか?」
ムキュウ
「先日、職校の作業場の梁の破損を見つけてくれました。それからチェックするのにハマったみたいで」
「そうでしたか。リス系やネズミ系の従魔なんかは梁のチェックをしてくれますものね。モモンガ・ムササビ系もそうだったんですね」
「流石にボク達ドワーフは天井付近に上がるのは……ねぇ」
「エルフもリス系従魔に依頼するくらいですからね」
エルフの大工さんも破損箇所の確認は従魔頼みだったよ。これ、地下は地下で探査に適任な従魔がいそうだ。……アリとか?
折角馬車組合に来たので、【運魔】用に調整された野草クッキーを食べさせて貰ったよ……俺もね。野草クッキーと言うより飼い葉クッキーが正しい。
流石に藁味と言うか雑草味を感じる。これ、何処かで食べた事が有るなぁ。何処だ何処だ……クッキー、せんべい、藁入りせんべいを手にしたら動物達がヘドバンしながら寄ってきて……って奈良公園!? これ繊維質満点の鹿せんべいっぽい!!
ここでも職員さんにはドン引きされる。俺も目の前に鹿せんべいを食べる観光客がいたらソッと目を逸らすわな。
飼い葉クッキーは食欲旺盛な【運魔】用に手配するとして、俺とアンディー達には野草クッキーでいいな。飼い葉クッキーは最終兵器という事で決定。




