第481話
その日、『スワロー』錬金術ギルド支部に『ネオ=ラグーン』領内にある各ギルドのトップ達が集結していた。
商業ギルド、農業ギルド、馬車ギルド、冒険者ギルド、錬金術ギルドのギルド長と支部長。それと二つある学園と職校の学長と校長。
集結理由はミーシャ=ニイトラックバーグについてだった。勿論、悪い意味で集められたのではない。数ヶ月前に忽然と姿を現した一人のドワーフ娘がもたらした大量の登録案件と言う名のパニック劇場に対する対応策と言う名の対策会議が今始まろうとしている。
「皆の衆、大会議ぶりだな」
「いやはや、たかだか百日も経たないうちにまた皆と顔を合わせる事になろうとは」
「仕方あるまい」
「それで『スワロー』校長、彼女はどんな感じなのかね?」
「どうもこうも、大会議後にも登録続きですよ。実に有望な若者ですよ。ねぇ、商業ギルド支部長」
「そこで私に振りますか」
ある意味、一番の被害者とも言えるのが商業ギルド『スワロー』支部長だ。
「よっ、未来の『ネオ=ラグーン』商業ギルド長!!」
「商業ギルド長、何を巫山戯て……」
「いや、商業ギルド中では君が次期ギルド長だろうって噂で持ちきりだよ」
「いいんですか? ギルド長の役職を奪うことになりますが」
「その時は私は商業ギルド長補佐に回るからね。よっ、次期ギルド長!!」
軽口を叩く商業ギルド長を横目に錬金術ギルド長が口を開いた。
「ところで、ミーシャ=ニイトラックバーグの裏は取れたのかね?」
「それが全くもって分かりませんな」
「どこの氏族出身か未だ持って分からずか……。ダークドワーフの可能性は?」
「鑑定上は純ドワーフでした」
「ハイブリッドの可能性は低いという事か。しかしあれだけ発案を提供しているのだ。ドラゴン系かエルフの血が混じっていてもおかしくはなさそうだが」
「そう言えば、古代エルフと懇意にしておりましたな。どうも全てではないものの言葉も通じている様ですし」
「まさか古代エルフの血が!?」
「それは困りますな。古代エルフは稀に見る短命種ですからね。それが本当ならば彼女は二百歳まで生きられないでしょう」
混血種は双方の種族の優れた面が発現するものの、寿命は両種族の寿命の平均値になる。故に短命種の血が入った場合極端に寿命が短くなってくるのが欠点となる。そして代表的な短命種はヒト族と古代エルフであり、長命種の代表格は竜人族とエルフであった。
何が発現するか分からない混沌の混血を畏怖と憧れをもって “ ダーク ” と呼んでいるのだ。
「まぁ、ダークにしろピュアにしろ、この数ヶ月でドワーフ界に多大なる貢献と影響力を与えたことは間違いないですね」
「経済効果が恐ろしいことになっていますな」
「『スワロー』の開発もさることながら、次はチューブワームの養殖問題が出てきましたからね」
「【伸縮環】問題が解決したと思ったら、次の【履帯】の派生問題がでてましたね。【ネコ車】でしたか?」
「いや、最新で【霧誕砲】に接続する案件が出てますよ」
「ちょっと待ってくれ、それは初耳だが」
『スワロー』から遠い地域の支部長達が慌てるのも無理はない。
「それで、養殖問題ですか」
「ええ。養殖場と餌の問題で頭を悩ませているところですよ」
「それこそ拭き草の茎が使えなくなりましたからね」
「俺も先日シロップ漬けの茎を口にしたが、あれは確かにヒト族の貴族向けに売れると思ったね」
「しかしチューブワームの餌に転用出来なくなってしまった。代わりの餌は見つかったか?」
「今の所は麦穂の籾殻、紙芭蕉の廃棄部分、間引きした魔物の肉等を与えておけますが、早急に追加の餌を考えねばならぬでしょう」
チューブワームを素材とする商品はこれからどんどん作られ、その全てが売りに出されていく物である。特に車輪に履かせる【履帯】の需要はとどまる所を知らぬであろう。指摘された軍事転用を防ぐためにも今暫くはドワーフ領内で安定生産を続ける必要があるのだ。
「ワイン生産で出るブドウの搾り滓も餌に回した方が良いかもしれませんな」
「種からは油を搾っておりますが、皮の滓はチューブワームに与える方向ですか」
「酒の材料といえば【白濁酒】の原料が有りましたな。【濁穀】でしたか」
「ええ。【白濁酒】以外では糊に使うので『フイッシュスワンプ』で生産しております」
「糊ですか?」
「織物用ですね。海藻から作る糊も使いますが。蟲人達の機織りには無くてはならない物ですので」
「その作付け面積を増やすとかは可能ですか?」
「善処しましょう」
「他には?」
「デンプンを採った後の【茄子花芋】の滓がそれなりに出ますね」
「それも餌に回しましょう。処理用にスライムばかり増やすのもいけません」
ミーシャが切望している穀物が意図せず増産されることになった訳だが、ここに居る全員が誰一人としてそれに気付いてはいなかったという。
「それより魔石の再生問題ですが、錬金術ギルドで何か進展はありましたか?」
「謎が深まるばかりです。可能性としては魔力の抜けた魔石を研磨する必要がある事と、スキル発動による魔力の干渉を無効化する必要がある事ぐらいでしょうか」
「つまり、ミーシャ=ニイトラックバーグは意図せずその両方を行っていたと」
「まだ検証段階ですが、その可能性が非常に高いですね」
「それが判明したら魔石再利用によるエネルギー問題は進展に向かいますかね?」
「いや、その条件で作業出来るドワーフが何人居るか……。ゴーレムでは魔力干渉が消せませんし、そもそも研磨師は数が少ない」
「やはり当人に実証実験に協力してもらうしかないということか」
「何れはそうなりますな」
「しかし、エネルギー問題は安易に手を出しては後々面倒な事に巻き込まれます故……」
「それより、『スワロー』に定住してもらえそうなのですか?」
「褒賞と称して新興地区ですが 土地の所有を認めましたので。従魔の件もあり快諾してもらえましたよ」
「それよりも何故テイマーでもないのにあれ程従魔が懐くのか……」
「やはりダークドワーフなのでは……」
「もしや三毛皇様のご落胤…………」
「冷やしの魔道具の確認も兼ねて一息入れましょう」
「よいですな!!」
確認作業という名で冷しエールが飲み干されてゆく。どうやら年内に運用が可能になりそうとの事で、初夏を迎える前にヒト族領に売り込めそうだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
―― side 天界 ――
「上様、どういたしましょう。下手に真実を伝えるわけにもいけませんし、かと言って誤解をもたれたままも……」
「うむ。面白いから許す」
「上様、それでよろしいので………!?」
「いや〜、コタツとタンスが楽しみでねぇ。米もいいねぇ。そのまま日本酒も造ってくれないかな……」
「上様!!」
騒動を巻き起こした原因なのにマイペースの上位存在なのであった。




