第479話
あぁ、疲れた……。パイクお義祖父さまに階段タンスをお願いしにいかないと……。
まさか午前中いっぱい拘束されるとは思っていなかった訳で、予想外の疲労が襲いかかる。まぁ、皮革作業も習って損はないので研磨品が貯まったら実習しに行こう。
食堂の貼り紙によると、マヨ玉乗せトーストが今日明日まさかの一割引きサービスをやってたよ。商品名は『迷ったらマヨ玉』になったんだ。でも皆、マヨ玉乗せトーストって呼んでるけど。
一割引きにするか、定価で三枚目まで頼めるかの二択か……。結構悩んでる生徒がいるよ。……って、講師も悩んでるじゃないか。悩むなら今じゃなくて夕飯でしょ。今マヨ玉を頼んでもエールは飲めないよ。
そして、厨房のおばちゃん達に手玉に取られている事実は何方を選んでも変わらない訳で。
玉ねぎの甘みと程良く塩味の効いたオニオンスープにマヨ玉トーストは合うんだよなぁ……。オニオンスープに付いてくるのは大麦パンなんだけどな。俺は餌用マジックバッグから野草クッキーを取り出したけど。特徴的な苦味がスープと合うと思っているのは多分俺だけだな。
これはアンディーとカトリーヌの餌なので……。餌なんです。俺も食べますけど……。
食堂に【手持ち豚】と【加護の鳥】は持ち込んでも怒られない。【加護の鳥】は厨房の奥に一羽いるらしい。
ザックリと描いたデザイン画を手にパイクお義祖父さまの家に向かった。
「ミーシャの打診はいつも突然じゃのう」
「パイクお義祖父さま、申し訳ありません。突然デザインが思い浮かんだので……」
「ほう、特殊形状の収納棚じゃな」
「はい。ボクは収納棚と言うよりケージ的な使い方をする予定ですが」
階段状になっているので登る事が出来るとか、階段下や屋根裏といった斜めに狭い場所にも設置出来るといった本来の使い方を説明しつつ、収納棚以外に従魔や猫の生活スペースにも出来る事をアピールしてみる。まぁ、他所に売れなくても俺専用で作ってもらうからいいんだけどね。
「面白いのう」
「寮の部屋が手狭になったので苦肉の策です」
「開放的な収納棚として使っても良じゃろうし、箪笥として引き出しを付けてもよいわけじゃな。収納棚だけではなく階段代わりに使えば梯子要らずじゃ」
「パイクお義祖父さま、ボクにこの階段式収納棚を作っていただけますか?」
「これは面白い形じゃし、猫ウケしそうじゃな。三毛皇閣下が目にしたら友人の猫達にプレゼントしそうじゃ」
「そうですね。猫達が棚の天板でお昼寝しそうです」
「そうじゃな……、今から設計図を引くからのう、それを持って一緒に商業ギルドじゃ」
「えっ?」
「儂が気に入ったんじゃよ。そして儂が見たことのないデザインじゃからな、ならば登録するしかないじゃろうて」
そしてパイクお義祖父さまは、釘を使わずに木組みだけで作り上げるバージョンと、補強金具を使うバージョンと二通りの設計図をサラサラと描き上げた。
「二通りのパターンを描いたんですね」
「総木組みじゃが、純粋に職人としての力量を試されるからのう。木工職人冥利に尽きるのじゃ。それにエルフに売るなら総木組みがよかろうて。補強金具を使う場合は更なる頑丈さを得られるのう。金具には金工細工師に紋章を彫らせてもよいじゃろう。補強金具には良質の鋼材を使い、飾り金具に金やミスリルを使えばヒト族の貴族にも売れるじゃろうな」
「さっきの今でそこまで浮かぶなんて、流石パイクお義祖父さまです」
「それとじゃ、従魔や猫だけでなくクルラホーンやレプラコーンも住めるかもしれんのう……」
あっ、アルチュールさんの家というか部屋というか、その発想は無かった。そうか異世界だと階段タンスが妖精アパートになるんだな。ドールハウスのギャラリーみたいなものだろうか?
そして階段タンス的な発想が浸透していなかった原因は日本と違って部屋が広いからとかではなく、次元収納やマジックバッグがあるからだった。確かにお店のディスプレイ用でもなければ不要だわ。
なので、収納以外に従魔や猫のケージ&休憩場所に使えるとか、妖精が暮らせるとかといった本来の目的と違う利用方法がある事は結構重要だった訳で。
「これを登録したいんじゃがな」
「これまた面白い仕様ですね」
「発案者はミーシャじゃな。儂がしたのは図面作成じゃよ。それで肝心の使い方なんじゃが……」
「それでは共同登録しておきます」
と言う一連のやり取りにも慣れてしまったよ。
「この、クルラホーンやレプラコーンといった妖精種の住居として利用可というのが斬新ですね。下の棚でしたらスライム甕を置いても不快感はありませんね」
「ミーシャがじゃ、手持ちの小型従魔が増えたのでケージ代わりに使うと言い出してのう……」
「これはヒト族の極小住宅にも良いかもしれませんね。梯子を掛けて屋根裏に行かなくとも、この階段式収納棚を登れば屋根裏に安全に上がれますし、収納にも椅子付き机代わりにも使えますね。それこそ貴族や商会の階段下に設置したら……」
「箒置き場に困るかのう?」
「警備兵の仮眠スペースが奪われますかね?」
こういった新しい商品の使い道を考えている時のドワーフって、めっちゃ生き生きしてるよねぇ。
「フェアリーハウスにするなら、中に彼らのサイズの階段式収納棚を作ってあげないといけませんね」
「それは見本用にもなるのう。尤も儂らドワーフが作らなくてもよい訳じゃしな」
まさかの階段タンス、クルラホーン用アパート化計画が爆誕するとはな。




