第477話
被服科の講師に髭飾りを作ってもらう予定だったのに、俺は今、皮革科の教室に居ます。
手抜きをするはずが結局、コカコッコの羽を使った髭飾りの作り方を学ぶことになってしまったよ。三つ編みや編み込みをした髭や髪の毛先を束ねて纏めた箇所に取り付けるタイプの装飾品ね。被服科でも皮革科でも同じ髭飾りの作り方を学べるんだけど、被服科の講師が皮革科に丸投げしちゃってたよ。という事で今回は皮革科で学ぶ訳です。革に研磨した石を取り付けたり出来るんだから、こっちの講義も実習の選択肢に入れよう。
裁断した革に羽を取り付け、革紐を通して毛先に縛り付けて固定する、一番単純な作りの髭飾りだった。縛るタイプのベルトを連想したら分かりやすいか?
これが体験コースだったら髭飾りキットで楽々体験なんだろうけど、職校の実習なので甘くはなかった。流石にヌメ革を専用刃物で削って厚みを落とすとかは勘弁してもらえたが。まぁ使う素材は牛革じゃなかったんだけど。
素材を奮発された訳ではなかったけれど、手渡されたのは【バサルトタートル】の革だった。これ、亀革なんだ……。
水濡れに強く軽くて丈夫。魔力の通りも良い素材なのでコカコッコの羽とも相性が良い。そして一番の理由は、価格と品質が安定している養殖個体の革だから。養殖モノの欠点は魔石が採れないだけだから、養殖しない理由が無いのだ。
「それ、コカコッコの番の羽根なんだな。よし、ミーシャ=ニイトラックバーグ、髭飾りは二つ作ろうじゃないか」
「二つ作るのはいいんですけど、髭を一本で纏めた時に余るのが困りますけど」
「重ね使い出来るデザインがあるから大丈夫だぞ」
「それなら二つ作るのが普段使いしやすいですね」
「ミーシャ=ニイトラックバーグは髪も二つ縛りだからな。気分次第でそちらに着けても良いだろうな」
作り方は様々なのだが、簡単に作るのなら以下の通り。先ずは表面になる革と裏面になる革を外表、つまり完成した時と同じ状態になるように二枚を重ね、作業机の目打ち台に置く。次に菱目打ちという工具を革に当て、木槌で垂直に叩いて革に針を通す穴を開ける。次の針目を付けるときは直前の作業で最後に穴を開けた場所に菱目打ちの端を合わせておき、木槌を打てばズレることなく次の針穴の列が開くという算段だ。縫い合わせる箇所全てで同様に菱目打ちで針穴を開ければ準備完了。この菱目打ちも串が一本のものから四本、五本あるものもあり、革の大きさや作業内容により使い分けなければならない。
次に、表面の革に切れ目を入れ羽根の軸を差し込み裏側で接着剤を使って軸を固定。表面の革、裏面の革双方の裏側に薄く接着剤を塗り二枚を張り合わせる。接着剤がある程度乾いて動かなくなったら縫い合わせる。革縫い専用の針に麻糸を通し蝋を引く。今回縫う平縫いには二通りあって、本格的なのは左右の手に一本ずつ糸を通した針を持ち、ミシン目っぽく見える様に左右からそれぞれ針を通し糸を引いて縫っていく。両手が針を掴んでいる関係上、縫う革を掴めないので革を固定する工具もある。もう一つは並縫いをしていき一周したら反転させて縫い目を埋めるやり方。今回はサラッと行くという事で並縫い方式。革のサイズが長さの短い絆創膏くらいだし、限りなく体験コースの様なものなので俺が本格仕様を求めなかったこともあるけど。
最後にハトメで革紐を通す穴を開け、紐を通せば完成。ここも様々なパターンで差別化出来る。俺は簡単な仕様にしましたよ。
「羽根の軸を固定する時にもやり方は幾つもあるし、革紐の取り付け方も色々なやり方がある。今回は二枚の革で挟んで作ったけど、革紐を編み込んで作る場合もあるし、金属パーツを使う方法もあるな。デザインで言ったらそれこそ幾つもある。単なる装飾品の場合もあるし冒険者用の装備品としてのアクセサリーも作れる。材料の処理も有るし、とにかく皮革は面白いぞ」
「ボク、鉱石を研磨して裸石を作るのが趣味なんです。革と組み合わせたりしたいので、全ての作業は学べないかもしれないですけど、必要な知識と技術を学びに来てもいいですか?」
「知識も技術も全部吸収してもらいたいところだが、必要箇所だけ学ぶ事は可能だぞ。まあ、初歩の技術は学んでもらう事になりそうだが」
「ポニーの馬具は専門職人さんの仕事ですよね?」
「そうだな。専攻にしてここで毎日、そうだな……五年も学べば作れる様にはなるか」
「あ、無理です」
「そう言わずに。何でまたポニーの馬具を作ろうと思った?」
「ボク、従魔として二頭飼ってるんです」
「あ…そりゃあ作ってみたくなるか。本職製の馬具じゃないと危険なこともあるから止めておいた方がいいな」
「装飾用の布製の馬鎧にしておきます。あ、そうだ、強化石を嵌め込んだ装具って革製なんですか?」
「ポニーって言うか【運魔】用だろ?大抵は革製だな。軍馬なら金属製の時もあるが」
「今、強化石を研磨したりしてるので、構造を学ばせてください」
「前日までに申請してくれたらいいぞ。それなら宝飾科にも顔出しだな。それで専攻は何を取ってるんだ?」
「ボク、今年の後期で入校したので模索中なんです。今は古代エルフの刺し子を習っています」
「魔導刺繍の系統か……。アレは革とも宝飾品とも組み合わせられるぞ。後は……【ホヤッキー】か。【ホヤッキー】が何か知ってるだろ?」
皮革科の講師が両胸に手をやりホタテビキニ(胸部)を連想させるポーズを取る。
「はい、古代エルフのオロール先生から貰いました……」
「いいなぁ。羨ましい!!」
ホタテビキニ、ここでも人気素材なのかよ!!




