第454話
お腹いっぱいのカトリーヌが目を細めて寝始めた。短い手足を目一杯伸ばしてリラックスポーズを取っている。カトリーヌ、マジ天使!!
「寝ちまったなぁ……」
「寝ちゃいましたね」
「紅茶の香る煙を吐くのを期待していたんだけどな」
「そこはカトリーヌの気分次第なので」
「ミーシャがカトリーヌちゃんに 「紅茶を食べたら煙だよ〜」 と教えといてくれや」
「いや、ボクは強制しませんからね。それよりお勧めの茶葉屋さんって有ります?」
「紅茶は買うだけなら商業ギルドか農業ギルドが手っ取り早い。種類に拘るなら『ティーチャー』だな。あちこちの都市に支店を出しているぜ。勿論、ここ『スワロー』にも出店しているから興味があるなら試してみな」
「情報ありがとうございます」
「紅茶は結構奥が深いぜ。それとジョンノが宜しく言ってた」
ラルフロ=レーンさんにお礼を言い、起きてくれないカトリーヌをスライムバッグに入れ工房を後にした。【ママの豆・豆のママ】に入るとデカデカと書かれた
[ 【双子豆】の新物入荷は未定。購入予約可能 ]
[ タワシ売り切れ中。次回の入荷未定 ]
の張り紙が目に入る。水戻し済の【鶏遭遇豆】を注文。そうだ、落花生って名前にナッツと付くけどアレって豆だったわ。
土付き落花生を洗うのにタワシが便利な事が分かり、ただでなくても品薄状態のタワシが売り切れている模様。タワシの登場前は水魔法の『射楽』や『超洗浄』、土魔法の『土取る』を使えない場合、従来は火口麻と麦藁を縄綯いし束ねた物で擦っていたとか。まだ暫くは縄で洗うんだろうなぁ……。
落花生は掘り上げ体験してくるけれど、期間限定の土付き新豆は予約しておいた方が入手は確実だろう。茹でたて落花生で冷しエール、茹でたて落花生と鶏肉の炒め物で冷しエール。多目に茹でておいて『次元収納』に隠し持っておくのが一番だけど、ここは一つお金を払って商業ギルドの冷凍保存の出来る魔道具に入れておいて貰い、次元収納のスキルを持ってない振りをする為に偽装工作を選択するのがいいんだろう。
「【増筋豆】も有るんですね」
「そりゃあウチは豆屋だからね。大抵の豆は取り扱うよ」
「まさか、【蔓野豆】も取り扱っているとか?」
「それは雑草の豆だろ?」
流石に取り扱ってなかった。という事は【粗相豆】も無いのか……ダメ元で聞いてみる。
「雑草と言えば、【粗相豆】は無いですよね……」
「莢の殻だけなら在庫は有るよ」
俺にとっては中身が大事なんだよ……。皆にとってはポーション瓶の代替品なんだろうけど。
「【増筋豆】は従魔用かい? 何なら鶏にもやれる挽き割り品があるよ」
「それ、挽き割りの豆を下さい。挽き割りはそのまま与えられますよね?」
「鶏は喜んで食べるよ。それなら向こうの穀類屋でバラした【穂先黍】も買っていくといいよ。来月には新物が入ってくるから安売りしてるよ。八百屋は休み明けで萎びた青菜を持て余してるだろうしねぇ」
「色々教えて下さりありがとうございます」
「いやいやアンタ、鶏に差し入れしに行くんだろ? 浮いたお金でお腹いっぱいたべさせておやりよ」
「ありがとうございます。助かります」
「いいってこった。アンタが差し入れた餌で育った鶏や卵がアタシらの食卓に上るんだからね、コッチだって有難いんだよ」
「また買いに来ます」
「はいよ。常連になっとくれ」
挽き割りの【増筋豆】、何というか挽き割り納豆が作れるんじゃないかという気持ちにさせられる。上手く炒って石臼で挽いたらきな粉になるんじゃない? 水で戻してから水煮した【増筋豆】は水煮大豆に似た風味だった。次は豆乳みたいになるのか実験だな。
養鶏場では通過儀礼、つまり入場の為の一連の消毒処理をされる。俺だけでなくカトリーヌとアンディーも消毒されましたよ。
コカコッコ夫婦も鶏達も俺の事は覚えた模様。まぁ、コカコッコ夫婦が俺に対して懐いているから鶏達も認めてくれているというのが本当かな。
「こんにちは。ボク、皆に餌を持ってきたよ」
コカコッコー!!
コッコッ
コケッ
ピヨピヨ
鶏達は餌という単語に反応してにわかに騒がしくなる。コカコッコの雌は抱卵中。雄が俺の足元に近寄ってきて俺の事を確認すると雌の側に戻っていった。
「今日はどんな餌も持ち込みしたのかね?」
「はい、水戻しした【鶏遭遇豆】をベースに挽き割り【増筋豆】と軸から外してある【穂先黍】と青菜です。青菜はここで軽く刻もうと思ってます」
「【増筋豆】は全体の一割程度がいいだろうね」
「そちらにお任せします」
餌を混ぜて餌皿に入れコカコッコ夫婦の前に出してやる。コカコッコの食餌は雄が雌に渡すから、今回みたいに細かい餌はどうするのかチェックしておかないといけない。
「はい、沢山食べてね」
コカコッコーー!!
コカッコカッ
雄が餌皿から餌を啄むと雌の前の地面に置く。コカッと一鳴きし雌に餌を食べるように諭した。それに応じて餌を啄む雌。雌が餌を飲み込むのを確認すると雄も餌を啄み始めた。雄は餌を一つ二つ飲み込むと餌皿を雌が食べやすい位置に押して移動していた。何時見ても仲良し夫婦だ。
そのうち雄が抱卵係に回る。雌は少し歩き回ると雄と抱卵を交代した。
「コカコッコは夫婦で協力して子育てをするのです。雛が孵化してからも協力して天敵から雛を守ります」
「コカコッコに天敵っているんですか?」
「野生下だと小型のワイバーンかバジリスク、ガーゴイルなんかがコカトリスを捕食します。コカコッコはコカトリスの下位亜種だから先述の魔獣に遭遇したら真っ先に狙われますね」
「いや、そんな魔獣は近くにいないのでは……」
「確かに居ませんな。それでも大型の猛禽類はコカコッコの雛を狙ったりしますからね。野外では注意して下さい」
あら、コカコッコって俺の持ってるイメージより天敵が沢山いたよ。勿論、成鳥だとキツネや狼より強いので夫婦で雛を守りながら鶏冠が見え始めるぐらいまではシッカリ子育をするんだって。




