第451話
魔石の爆弾発言は一応聞かなかったことにしておいたけど、実のところはめっちゃ研磨してみたい。……んだけど、基本使い捨ての小さい魔石をどうこうして需要と供給のバランスを狂わせるのはどうかと思うので、今のところ手を出す予定は無いかな。チャンスがあれば試すけど。前に研磨して魔力を籠めてしまった小さな魔石滓の再現検証で錬金術ギルドに呼ばれる可能性があるか。
そして全魔道具職人と錬金術師が冷しエール研究をしているだなんて知らなかった。
プープー プープー
カトリーヌが甘酸っぱい香りの薄い色をした煙を吐き出していた。これ、煙を鑑定出来るか!? ダメ元で試してみようかな。
(鑑定)
集中力が高まる効能がある香り。
おお、ナイス。今度俺もリクエストしてみよう。そして煙も鑑定出来るのか。
「カトリーヌちゃん、ありがとうねぇ〜。今度来た時は除虫もお願いしていいかなあ?」
プピプピッ
尻尾を振り振りしているカトリーヌにスライムバッグに入ってもらった。今日はこの後、ラルフロ=レーンさんの工房に顔出しに行く予定だ。【テンガ】の話とか、ミーティアさんの話か、カトリーヌ用の紅茶の話とかをするのが目的だ。
「そうだ、アンディーちゃんってカーバンクルだよねぇ。やっぱり回るのお?」
「はい、アンディーは回転して遊ぶのが好きです」
「んふ〜、カーバンクルってやっぱり種類に関係なく回るんだぁ。それなら農業ギルドで【鼠衆の番】って道具を買えばいいと思うよお」
「ありがとうございます。見に行ってきます」
「あ、でも【双子豆】の収穫前だから売り切れてるかもねぇ〜」
「どんな道具なんですか?」
「鼠がそれを見たら入らずにはいられない道具ぅ〜。鼠がカラカラカラカラ延々と走ってるよお〜。それを捕まえてバンって駆除するねぇ」
あ、ハムスターが走るアレか。つまり、落花生の収穫時期なので落花生畑の周辺に仕掛けておいて、畑を荒らしに来た鼠を捕獲してるって事でいい?
そのカラカラこと【鼠衆の番】は鼠の大きさに合わせて様々なサイズが作られているとか、籠罠と組み合わされている物が有ったりと幾つかのバリエーションがあるんだって。とても大きな桶の枠サイズのカラカラが鼠の人の住んでいる地域にはあるらしい。それは捕獲用ではなくランニングマシーンの一種なのだとか。運動不足解消を兼ねてトレーニングも出来る道具って事か。前世の浮世絵で大きな桶の中に職人さんが入って作業してる物があったよね。一瞬それを思い出したわ。
「ちょっと寮の部屋だと置き場に困りそうです」
「それもそうかぁ〜。ミーシャ、【双子豆】の収穫に行くう?」
「はい、参加してきます」
「お願いがあるんだけどねぇ〜、収穫したての【双子豆】を買ってきて欲しいなあ」
「ハーレー先輩、食べるんですか?」
「うん。茹でたての【双子豆】を摘みながらエールを飲むんだよぉ〜」
「それ、美味しいやつじゃないですか。分かりました、買ってきます」
「んふんふ、楽しみ〜〜」
ハーレー=ポーターさんもドワーフだったよ。あ、アルチュールさんも食べるかな?
ラルフロ=レーンさんの工房に行こうとしたらアンディーに冒険者ギルドに寄って欲しいと言われた。
(「ますたー ぼうけんの ぎるど おやつ ほちいの」)
それもオヤツの催促だよ。クッキーの補充もしておかないとな。なんだかんだ言って結構食べてるんだよね。何というか、【魔増】関係の請求額が怖い。ついでに豆の専門店【ママの豆・豆のママ】に行って水戻し済の【鶏遭遇豆】も入手しておこうか。コカコッコ達の様子も気になる。
「こんにちは、ラルフロ=レーンさんいますか?」
「んー、ミーシャか? 開いてるから入って来い」
「おじゃまします。色々と聞きたいことがありまして…」
「ん〜? スリーサイズか? オッサンのスリーサイズなんか聞いてどうするんだ?」
うわぁ、ギャグですらない。
「どうせなら、預金残高とか登録案件数とか年商を教えて下さい」
「ああ、それは結婚する相手になら教えてもいい内容だな。ミーシャ、俺と結婚する?」
「遠慮しておきます」
「それがいい」
「ミーティアさんって装身具屋さんを知ってます?」
「【星の流れる夜】か? 一流の販売店だぞ」
「店長さんのミーティアさんから研磨依頼が来たので、ラルフロ=レーンさんが一枚噛んでるのか確認しに来ました」
「まぁ、噛んだって言やぁ噛んでるな。それよりミーシャ、ストレートに聞き過ぎだ。もう少し言葉を濁すと言うか、薄衣を着せるというか……」
「あ……それは。でも、ラルフロ=レーンさんが卸したんじゃないんですか?」
「俺は知り合いの商人に卸しただけだぞ。そいつが何処に流したかまでは……」
「そうですよね」
「まあ、少し時間を貰えれば追跡は出来るが、知りたいか?」
「いえ、正規ルートでしょうから気にしませんよ」
「たまには調べておいた方がいいけどな。自分の卸値が幾らになったか知っておくのも大事な事だぜ」
「そうですね。今度カーン=エーツさんに頼むことにします」
「何でカーン=エーツに?」
「カーン=エーツさん、ボクの専任商人になってました」
「おいおい、でもそれだとそれ程値段が釣り上がらないな……。試すんなら別の商人ルートにしとけ。目指せ【十回卸】だな」
【十回卸】、その名の通り十回売り買いのやり取りがされる事で、人気商品のバロメーターでもあるらしい。
「十回やり取りされたら売値は納品価格の千倍ぐらいになるんだぜ」
「せっ…千倍!?」
「ほら、金貨一枚で納品した物が、次の所では金貨二枚、その次は金貨四枚、八枚、十六枚……って増えるだろ? 十回倍々ゲームでやり取りされたら、まぁ千倍だな」
あ、二の冪乗ってやつか。
「それって最新に納品した人が損しませんか?」
「そこは対策を取るんだよ。案件の登録じゃないけど作者や職人の情報の痕跡が有れば追跡が出来る。品質についての責任も付きまとうけどな、売り上げの極々一部がリベートというか割戻しで返ってくる。しかも累積するぞ」
「それって、例えばリベートが売値の一%だとしたら、十回売られて最終価格が金貨千枚ならボクに金貨十枚入るって事ですよね?」
「違う違う。一回毎の会計にかかるんだ」
「えっ、だったらさっきの例だと……大体金貨二十枚です?」
「まあ、そういうこった。まぁ一%かかる事はそう無いけどな」
「それでも制作の励みになりますね」
「安い物でも数が出れば儲かるぞ。確かそれで隣の『スリーストライプ』の小鍛冶師で “ 鉛貨の帝王 ” って呼ばれてる奴がいるらしいぜ」
それ、多分ガルフ=トングさんだ。タワシやら何やらでリベートの小銭が入ってきてるんだな。本業無視してタワシ職人やってるんだ。




