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第449話

コタツ開発は放っておいても進みそう。そんな中、ハーレー=ポーターさんが予想外の質問をしてきた。



「ミーシャは石研磨が専門だっけぇ?」


「専門というより趣味です」


「それならさぁ〜、魔石磨いた事ってあるう?」


「えっ、魔……石?」


「そう、魔石」



魔石研磨って、やっちゃ駄目!って念押し釘刺しされた行為だよね? 俺の場合、魔力の抜けた魔石滓を研磨しちゃって止められた訳だけど。



「魔石は無いです」


「そっかあ……残念」



俺、魔石研磨はしてないです。魔力の入った状態の石は磨いてないって意味だけど、多分嘘はついてないよね。



「魔石って磨くものなんですか?」


「たま〜にねぇ。大きい魔石だったら魔力を通りやすくするのに表面を整えたりはするよお」


「それならボクとは無縁そうです」


「だ・か・ら、小さな魔石を磨いた事がないか聞いてみたけどぉ、無いんなら仕方ないなあ〜」



言えぬ、言えぬぞ。魔石滓を磨いた事がある為にストップを掛けられているとは言えぬのだ。



「小いさな魔石だとねぇ、下手に表面を整えたら目減りしちゃうからねぇ、磨いちゃいけないって言うのが定説なんだよねぇ……。ミーシャだったら定説を無視して磨いてそうだったから聞いてみただけだよお〜」


「それは勿体ないです。魔石も採りにいく人がいるからこそ使える訳なので」


「うんうん。採るか買うかしかないからねえ。魔石を使った後に残る魔石滓は加工に使うから無駄になる事はないけど。そこそこの大きさの魔石は使い勝手はいいけど研究用には頻繁には使えないしぃ……」



あ、開発にお金が掛かるのって主に魔石代なんだ。



「それと小さい魔石の研磨とどんな関係があるんですか?」


「う〜ん、出力が上がらないかなあ〜? って思っただけだよお」


「それって試していいものなんですか?」


「んふふ…多分駄目だよお〜」


「ええっ!! 駄目なのにボクに聞きますか?」


「そこは、ほらぁ、背徳行為は蜜の味って言うしぃ……」



駄目じゃん!! まぁ、枠に嵌って大人しく開発してたら技術の躍進は無いのは理解出来るけど、その違反行為の片棒を俺に担がせないで!!



「だったら職校の講師陣や学園の教師陣に質問してみます」


「駄目!! や〜め〜て〜〜!!」


「分かりました、質問するのは止めておきます。それで、ハーレー先輩的には魔石を加工して何をしたいんですか?」


「ミーシャ、これさぁ、二人だけの秘密にしておいてくれるう?」


「秘密ですか?」


「秘密にしてくれるんなら話す」


「そんなに危険な話なんですか?」


「わたしの仮説だけどね」



ハーレー=ポーターさんの口調が真面目になってるんだけど……。つまりお巫山戯ではない本気の内容って事なんだろう。




「聞くだけ聞いて、ボクが受け止めきれないと判断したら忘れた事にしてもいいなら聞いてもいいですけど……」


「うーん、それでもいいかな。忘れた扱いにされたとしても、わたしの仮説を誰かに知っておいてもらいたい伝えたい気持ちは揺るがないんだ」


「分かり……ました」


「じゃあ、施錠して防音の魔道具を稼働するから待ってて。従魔ちゃん達はわたしの話を聞いてて構わないよ。どうせ他人に教えないでしょ?」



いや、アンディーは条件があるものの会話出来なくはないんだけど……。



「先ず、何故わたしがミーシャにこの話をしようと思ったかと言うことから話すよ。その前に、大きな魔石は魔力を再充填して使うことがある話は知ってるよね?」


「聞いたことはあります。その再充填した魔石を使っている魔道具は見た事はないですけど」


「それと、さっき話した大きな魔石は表面を整える為に研磨する事がある、この二つが前提条件。魔道具師、錬金術師、一部の高位魔法使いの間では知られている内容だよ」


「そうですね。一般市民というか市井の者にはあまり関係ない話ですよね」


「今はそこまで大きい魔石を使わなくても魔道具が動かせる様になってるからね。今使われてる大きい魔石ってオーガから採れる物を指すかな。中型はオークの上位種なんか。よく出る魔獣の上位種は殆どが中型扱いだね」




一昔前は魔獣も多く敵対していた魔族との間で争いも絶えなかった時代で、その頃は強大な魔獣や魔物から今よりも大きな魔石が採れた訳だけど、平和になったら住みやすくなった代わりに採れる魔石が小さくなってしまった。平和=軍神トオルが表向きは失業状態だ。


現代だとミノタウロスが狩れない冒険者でも何も恥ずかしくないのだとか。まぁ、ミノタウロス自体が珍しくなってしまったから仕方ないのだけれど。ミノタウロス、実は絶滅危惧種なのか!?



「それでね、最近様々な魔道具案が持ち込まれている訳だけど、どうしても色々試したくなるじゃない。計算上は小さい魔石、せいぜい中型魔石で動かせるのは分かるんだけど、大きい魔石で派手な機動って研究者の夢と言うかロマンというか、それはとってもスリルでサスペンス」



いや、魔道具開発にスリルとサスペンスを求めなくていいですから。そして原因は俺なんですか? 俺のせいなんでしょ?



「それで、その魔石の話がボクとどう関係するんです?」


「ふふ…、問題児が学生に増えたから」


「へっ?」


「ミーシャもわたしもそうだけど、学生の大義名分って何だと思う?」


「そうですね、チャレンジしても怒られない事でしょうか? 社会や工房、商会に縛られる前に色々試せるというか」


「そう。そんな感じ。わたしが職校を卒業しないでギリギリまで粘っている理由もそんな感じだからだよ。わたしは開発費は自腹を切る代わりに変なものを作り上げても怒られない様にしてもらってるんだよ」


「それが魔道具開発の天才ハーレー=ポーターの秘密ですか?」


「まぁ、多分そう。でも、わたしは天才でもなんでもないよ。自分で発案しないからね。頂き物の案件を形にしてるだけ。ミーシャの方がよっぽど凄い」


「いや、ボクも思いつきを垂れ流しているだけなので、それを形にできるハーレー先輩ってやっぱり天才だと思います」


「ありがとう。お世辞でも嬉しいな。それで、ミーシャの事を職校や学園が何て噂しているか知ってる?」


「ボク、噂になってるんですか?」


「んふふふ、ミーシャ=ニイトラックバーグの出現で悪夢の五年間が出現したって言われてるよお〜〜」



何その悪夢の五年間とか。俺、そんな言われ方されてるの? 心外だ。



「悪夢の五年間ですか?」


「そう。わたしが卒業するまでの五年間、悪夢でしかないんだってえ〜。んふふ、ふはっ」




いや、俺だけが悪夢の理由じゃないじゃないってば。そもそもハーレー=ポーターさんが問題児だから俺まで一緒に見られてるだけなんじゃ……。

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