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第447話

完成一歩手前の【テンガ】を『キーボックス』に仕舞い込み職校へ向かった。アンディーとカトリーヌも一緒だ。カトリーヌは午後から寮の空き部屋を燻蒸する仕事が入った。初めてなので一部屋だけだ。【手持ち豚】的には仕事で駆虫・燻蒸をするとオヤツが貰えると思っているらしい。


昨日の夕方、ハーレー=ポーターさん宛の手紙を預けた訳だけど、もう返事が返ってきたよ。あの(ドワーフ)、あの部屋に住んでるとかじゃないよね? 下手にコタツを与えてしまったら、部屋から出て来なくなる予感。


今日は何時会いに来て大丈夫だと書いてあった。ならば午前中に済ませてしまおう。



それと、カーン=エーツさんから渡された【テンガ】、あれって一種の指名依頼だった。学生に対しての指名依頼を出すという事は、職校の単位もしくは商業ギルドの貢献点に加えるからこの仕事を請けては貰えないだろうか? って訳よ。


指名依頼は自分で取ってきた外の仕事を単位申請するケースの何倍も単位に計上される。それだけ重みがあるって事だ。卒業までに一・二件の指名依頼を熟しておくことが職校の卒業条件らしい。らしいと言うのはこれが隠し条件だからだ。何でも俺がそんな事を知っているかと言うと、さっき俺に【テンガ】が指名依頼だと伝えてくれた講師の人が 「卒業条件おめでとう」 とコッソリ教えてくれたからだ。いやいやいやいや俺、この前入校したばっかりだよ。まだまだ卒業しないからな。それこそハーレー=ポーターさんはどれだけ指名依頼を請けてるんだろう?



依頼票を見せてもらったけど、ヒト族領にして最大領地の『イースト=キャピタル』領内にある宝飾店『星の流れる夜ナイト・オブ・ミーティア』から俺宛の指名依頼だった。条件は渡した素材を研磨する事。依頼料は銀貨四枚。この手の依頼だと気持ち安めの料金だそうたけど、職校の単位と商業ギルドの貢献点、両方に加算されると書いてあった。実はこれ、破格の報酬らしい。普通はどちらか片方しか加算されないからだ。



「 ミーシャ=ニイトラックバーグ様


先日、貴方の研磨した “ 終わりかけ ” の【愛の囁き】を仕入れた者です。あの石を研磨した職人さんに当方で保有する【テンガ】の原石を研磨して頂きたいと思っていた矢先、出入りの商人より貴方の話を聞きました。


お会いしたことも無い相手にいきなりの依頼で不躾な事は承知しております。【テンガ】の研磨、何卒宜しくお願いします。



星の流れる夜ナイト・オブ・ミーティア』  


店長 ミーティア 」



同じものが商業ギルドにも送られている模様。って俺、その話の事は知らなかったんだけど…。次にカーン=エーツさんに会ったら確認しておこう。手紙の中にあった “ 出入りの商人 ” ってカーン=エーツさんだよね?



そして、講師からはこの指名依頼は()()()()()()()()念押しされちゃったよ。


いや、俺、そんな指名依頼とか知らないで研磨しちゃったよ。てっきりカーン=エーツさんからの差し入れとばかり思っちゃってたからなんだけど。それもこれも【銘菓・ヒドラ饅頭】が悪い!!



{ ―― ミーティアさんから原石着いた。ミーシャさんたら知らずに研磨 ―― }



ヤーデさん、その山羊さんのお手紙の歌みたいなツッコミは何ですか?



それと、面白がって石言葉と樹木言葉を合体させた解説を添えてみたけど、これって依頼主はそんな感じの物を求めてるって事でいい? だってロードナイトに【石物語(エルツェイル)】を添えたのを評価してるって事でしょ? まさか同じ店に卸されるとは思わなかった。つまり、ヒト族にこの中二臭いポエムが……!? そりゃそうか、バニーイベント用のアクセサリーにされるんだからヒト族の目に晒されて当然だ。



依頼票を仕舞いハーレー=ポーターさんの部屋へ向かう。部屋のロックが解除出来る様に学生証が魔改造されてしまったんだっけか。


ドアをノックすると 「どおぞぉ〜」 と魔の抜けた声が返ってきた。



「ハーレー先輩おはようございます」


「んふ〜、おはよう」


「急なアポ取りで申し訳ありません」


「アポ〜? 先触れしてくれたから許すよぉ〜」



あ、そうなんだ。



「それで、新しい道具の相談ってなぁに?」


「はい、これは猫の人のトップの三毛皇(みけおう)閣下からの依頼なのですが……」



俺が従名誉猫獣人になった話と、パイクお義祖父さまと俺に紋章が贈られた件、その紋章が異世界の道具モチーフであり俺の紋章を魔道具化して開発してもらいたいこと等々を説明した。



「ふふ…ミーシャも規格外だねぇ」


「ハーレー先輩には敵いませんよ」


「それで、そのコタツの仕様書って出来てるう? ついでにネコ車も」


「はい。ザックリとですが。流石に細かい所まで書き込んでないですけど」


「コタツは後のお楽しみって事でぇ、先ずはネコ車から確認しよっか」



いや、それは魔道具でなくてもいいやつですって。



「ハーレー先輩、それは手押し車なのでハーレー先輩の手を煩わせなくても大丈夫ですよ」


「ミーシャ、ノンノン。どんな道具も魔道具に出来る余地と可能性はあるんだよぉ!! それを否定したら改良も開発も出来なくなるんですぅ。まぁ世の中には魔道具化しなくてもいい道具もあるからぁ、その見極めの為にも一度は魔道具化しなきゃぁ……ねぇ」


「はい、それもそうですね」


「そうそう、それを無駄だとか道楽だとか言ってくる輩がいてさぁ〜、ほ〜〜んと迷惑!!」



いや、それはそうでしょ。そう思われても仕方ないよ。



「先ず、ネコ車ですけど、持ち手、台車、車輪、スタンドで構成されます。車輪に【履筒(タイヤ)】を使う関係上、馬車ギルドに開発依頼が回りました。馬車の荷台の派生扱いになるみたいです」


「ふ〜ん。だったら遊ばせてもらえるかなぁ……。馬車ギルドってさぁ、ポーター氏族の息が掛かってるもんねぇ〜」



あっ、そうだった。



「なので、ハーレー先輩が形にしなくても大丈夫だと思うんですけど」


「いやいやいやいや、そこはちゃ〜んと自走式とかぁ、手を離しても倒れない仕様とかぁ要ると思わないぃ〜? 思うよねえ?」


「あ、確かに言われてみればそうかもしれません」


「御者ゴーレムと組むとか良いかもねぇ……。コスト面で『走婆(ランバ)』でもいいかなぁ?」


「『走婆(ランバ)』ってあのお掃除ゴーレムのですよね?」


「そう。んふふ……『走婆(ランバ)』とネコ車を組み合わせたゴーレム機構の大会とかって良いと思わない?」


「大会?」


「学生、魔道具技師、錬金術師なんかがエントリーしてぇ、お題を攻略する大会だよお。改造コンテストって感じかなぁ」



ロボコンを魔改造する感じの大会かよ。これってマジで実現しそうな予感……。

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