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第446.5話 (閑話)

「……という訳なんですよ」


「成る程。それは有益な情報ですな。エイトの為にある様なネタですよ」



S級冒険者クランにして劇団である『啼哭(ていこく)過激団』の主要構成員は緊急会議を執り行っていた。理由は簡単。ドワーフ族の商人カーン=エーツが最新ネタを持ち込んだからだ。


陽炎(かげろう)ユミル』

聖騎士(ホーリーナイト)シュケー』

守護神(ガーディアン)カーク』

代官(ガバナー)アーク』

苺屋(いちごや)ベリー』

ご隠居(ハーミット)ミック=ニー』

道化師(クラウン)エイト』

投擲槍(ジャベリン)のヤッシー』


この他にも町娘役やら茶屋の主人役やら旅籠の女将役やら沢山の劇団員兼クランメンバーが在籍しているのだが、クランの代表格にして主要劇団員の八人が目を白黒させながら新情報とそれに伴う演目の改編について真剣に話し合っていた。



「それで、その『反省』という口上が今ドワーフ領で流行りだしていると」


「製造で新商品を投下してくるドワーフにしたら珍しいですね」


「何でも先日、飴を開発したドワーフの発案だそうです」


「あの【黄金虫(スカラベ)印の飴】の作者か」


「それ、苺屋(いちごや)が “ 黄金色の菓子 ” と間違って “ 黄金虫(スカラベ)印の菓子 ” をアーク代官に渡して『反省』…って使えないかしら?」


「それなら土産物売り場で【苺屋(いちごや)の黄金色クッキー】の隣に【黄金虫(スカラベ)印の飴】を並べましょう」



それこそ様々な意見が上る。



「明日の演目はまだカークの遅刻編よね? どこに『反省』を組み込もうかしら」


「エイトが屋台で串焼肉を食べ過ぎて『反省』するか?」


「カーク待ちの最中に『反省』しますか。そこで解説をいれつつ何度かあっしが『反省』を繰り返し、新ネタである事を観客に伝えると」


「遅刻編を公演する残り三日間、やっつけ仕事でもつのかね?」


「二日間は新ネタ解説に徹しましょう。三日目はカークが合流した時に『反省』ネタを披露して、カークに何それ? って戸惑わせてみてはどうですか?」


「【黄金虫(スカラベ)印の飴】は何時から土産物売り場に置きます?」


「では来週から予定を差し替えして苺屋(いちごや)・密輸編を公演しましょう。飴は初日から売り場に出しておき、何日か目に間違って飴を渡して『反省』すれば飴の宣伝にもなりますよ」


「これから全演目の洗い直しか……」


「ネタが広まったら全員が反省する特別編もいいと思いません? あっし以外にもやらかしまくってもらって、それこそ『反省』祭りです」


「たまには良いでしょう。それこそ年に一回か二回程度ですかな」



確実にウケるネタを得たからには一刻も早く演目に組み込み、ヒト族に向けて真っ先にネタ披露をする必要が有るのだ。それが

S級冒険者クランにして劇団である『啼哭(ていこく)過激団』のやり方であり矜持でもあった。



「何ならオレが投擲槍(ジャベリン)に『反省』と書いた紙を括り付けて投げますよ」


「そりゃぁいいな」



ははは…と何処からともなく笑い声が上がる。



「そうそうご隠居、この『反省』には続きがあるのよ。テイマーの協力が必要になるわ」


「続きですか?」


「何でも、 「『反省』だけならゴブでも出来る!」 とテイマーが言いながら従魔のゴブリンに『反省のポーズ』をさせる派生ネタに繋げるそうよ」


「それ又凄いな」


「現在だとテイマーは馬車のシーンの御者役かダンジョンのボス役で出てくる程度だが、今度からは『反省』のライバルのゴブリンを使役する役で活躍しまくりか」


「テイマーはサンシャイン氏でしたね。今直ぐここに呼んできて下さい」



ものの五分もしないうちにテイマーのサンシャインが姿を現した。



「お呼びでしょうか?」


「お疲れ様です。サンシャイン、あなたの職業(クラス)はテイマーですが、ゴブリンは使役出来ますか?」


「ゴブリンですか!? まぁ多分出来ます。滅多に従魔契約しない種ですが、魔獣である以上、テイムは可能です。それがどうかしましたか?」


「実は……」



「そう言う事でしたか。それなら子供のゴブリンをテイムして育てた方が良いかと思います。ゴブリンは犬猫と比べても寿命の短い種ですから、ネタを続けるのであれば繁殖も考えた方がいいでしょうね」


「繁殖ですか?」


「一匹に『反省』させてもいいですし、複数、それこそゴブ軍団に集団で『反省』してもらってもいいかもしれません」


「可能ですかな?」


「そこはまぁ、テイマーの腕の見せ所と言う事で」


「それなら演目が切り替わる間の休演日のうちにゴブリンをテイムしに出掛けましょう。メンバーは私とエイト、ヤッシーとカーク、後はサンシャインでいいかしら?」


「そのメンバーなら戦力も十分でしょう。念の為、ポーションを多目に持つ程度です」



ちなみに、ユミルは盗賊(シーフ)、エイトは避け盾役(タンク)兼・付与術師(バッファー)、ヤッシーは斥候(スカウト)兼・暗殺者(アサシン)、カークは大盾を装備し簡単な治療術の使える守護者(ガーディアン)だ。


カークが大盾を構えて盾役(タンク)をするより、エイトの避け盾役(タンク)の方がよりヘイトを集める事が出来るのは彼の本来の職業が道化師(クラウン)だからだ。戯けた仕草で敵のヘイトを集めつつ、仲間には軽業でバフを掛ける。ヤッシー曰く 「エイトは下手な暗殺者(アサシン)より危険人物」 なのだった。



そして、エイトが『反省ポーズ』を広め、サンシャインがテイムしたゴブリンに『反省だけならゴブにも出来る』を流行らせた後、サンシャインのゴブ軍団が結成され、『啼哭(ていこく)過激団』が演劇とゴブ軍団芸との二本柱でエンタメ界のトップに立つのはもう少し先の話。


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