第446話
あ、明日なんだけど、ハーレー=ポーターさんが研究室に居るならコタツの話を伝えられるかもしれない。先にアポ取りしておかないと駄目だな。今ならまだ職校内に講師の誰かが残っている時間だ。簡単に手紙を書いて預けておけばいいな。ミケヲさん発案で恒温調理器に似た機構で局所暖房器具が登録された事、俺が派生案を出すのを一任された事、三の週の打ち合わせ可能日を書いておいた。早くて明日、遅くても五〜八の日のどこかで打ち合わせだ。ちなみに九の日はコカちゃん(仮)のお迎え日だよ。
スモーク臭がほんのり漂う室内でアマゾナイトを研磨する。カトリーヌは半分寝てるしアンディーはケージ内でモゾモゾしている。
特に変わったこともトラブルも起きずいい感じに研磨が進む。気を付けないと各面の角度が変わってバランスの悪い四角錐になっちゃうからなぁ。とは言え、ファセットカットを施す訳ではないのでビシッと角を出さなくてもいいのが救いかな。ジェラートアイスをヘラで整えながら食べた時の形状に見えなくもない。
ドングリならエイコーンだけど、尖塔と言う言い方もあるな。上手い具合に意味合い付けるならドングリの方が面白みがあるけど。
半透明で少し尖った形状のせいか、前世の琥珀糖を思い出した。それもラムネ味だ。確か硬めの寒天菓子だったよな。京都を旅行した時に入ったカフェっぽいお店で出てきた記憶がある。あの時は 「コーヒーに琥珀糖かよ!」 って心でツッコミを入れた様な……。まぁ、ブラックコーヒーに琥珀糖は口に合ったので許したわけだが。でもね、京都で和菓子でしょ、普通だったらお抹茶を連想するじゃない。そうか、【魔増歪ジュース】に琥珀糖を添えれば名物になるかもしれない。その為には寒天を探さないと駄目だな。材料は天草だっけ? 煮溶かすと固まる海藻を探せばいいのか。コンニャクを食べるくらいだから、もしかしたらエルフが何か知っているかもしれない。
砥石と木賊を使い分けながらアマゾナイトを研磨する。アマゾナイトって鉛を含むんだったか? まぁ、微量だろうから廃水に気を付ければいいか。念の為『汎用魔法』の『有害金属除去』を使うか……。あ、研磨滓の微粉末が空気中に飛んだりする? それこそ採掘中の坑内と違って微量だから気にしなくていいの? それを気にしたら全ての研磨滓をきにしなくちゃいけなくなるよな。やはり集塵の魔道具を手に入れるのが……。
未処理は環境的に駄目だと思うけど、意識し過ぎも駄目だろうと思う事にした。前世でも年間摂取量の限度とか有った訳だからな。大丈夫、鉛のコップでワインを飲む訳じゃない。
アマゾナイトの研磨廃水は『有害金属除去』を掛けてから木賊に与える事にした。よく考えたら天然砥石にだってどんな金属が含まれているか分からない訳だし。何事も程々だよ、程々。きっと煙草の副流煙の方が危険だ。そうだ、鑑定さんを鍛えれば危険な金属の含有率が高い鉱石を見分けられる様になるかもしれない。研磨の神様とか、鉱山の神様にお願いしてもいいかもしれない。何か美味しいものでもお供えしとこう。
とまぁ、鉛怖い思考に囚われつつもアマゾナイトの成形は完成した訳で。ちゃんとスクエアのシュガーローフカットになってる。後は木賊を使い分けながら仕上げていけばいい。この状態で鑑定をかけたけど、特に特記事項も無し。敢えて言うなら、
削り出ししただけの【テンガ】。四角いドングリ型の【クアド・エイコーン】に成形されている。強化値=ゼロ。半透明の緑みを帯びた水色。絆を求める者の後押しをしてくれる。
そして添える言葉はこの前考えた通り、
このドングリを模した形に磨き上げられた【テンガ】は貴方の想いを伝える為に献身的に手助けをしてくれます。この石は強化石にはなれなかったけれど、この色合いは心を支える色。引っ込み思案な貴方に行動を起こさせてくれます。ドングリが注ぐ愛情で貴方に素敵な日が訪れます様に。
そうだ、カードにドングリの絵を添えて【石物語】の文章を書こう。
今夜の作業はここまで。アマゾナイトの設定も決まったからお風呂で溺れる事もない……ハズ。明日は特に出席必須な講義も実習も無かったハズだ。確認の為に掲示板を見てくる必要は有るけど。いきなり落花生掘りが発生してたけど、農作物は育成状況が関わってくるから仕方ないよな。数日間は掘り上げるみたいだから炭焼き実習組もタイミング良く抜けてきたら参加は可能だ。バターピーナッツをツマミにしながらエールが飲みたい。あー、ピーナッツと言えば柿の種だよ。キャラメル掛けのコーンスナックも思い出したけど。柿の種って無限エールになるんじゃ……? おかきって原材料は米だよね。まぁ、米でなくても小麦粉で甘くないクッキーを作ってピーナッツと合わせれば柿の種風になるんじゃない?
そうそう、お風呂から戻ってきたら、茹で【蔓野豆】モヤシと茹で【増筋豆】を試食せねば。たとえ従魔の餌喰いとかの二つ名を付けられようが、前世の食材を求めてしまう心は止められないのだよ。




