第443話
今回はカーン=エーツ視点の回です
【ハニー・バニー】の売り込みに行ったんやけど、何時もご贔屓にさせてもろてる宝飾店の店長はんに捕まったわ。
宝飾店『星の流れる夜』。店長はんと店員はんがヒト族で、職人はんはドワーフにクルラホーン。着用モデルは種族も様々やね。指輪は指の関係でヒト族やエルフが担当やけど、ヒト族向けの店で兎の人や狐の人をモデルに起用したのはこの『星の流れる夜』が初めてなんやて。それも、女性モデルだけでなく屈強な虎の人や熊の人の男性モデルもおる。初めて商談した時は、何やこの店カオスですやん! と思うたわ。
店長はんの名前がミーティア。産まれてきて直ぐ死に掛けたんで、流れ星の様に儚い生命の子って意味でミーティアって名前付けられたんやて。 「この流れ星、天に還れなかったので今 地上に居るのです」 これがミーティアはんの挨拶口上。ミーティアはんは下級貴族の出なんやけど、死んだと思われて産まれて三日目に除籍されとった…って、運がエエのか悪いのか分からへん。それでも平民以上貴族未満って扱いなんやって。身分的に宝飾店でいい立ち位置が取れるって言うてたわ。そりゃそうやわ、平民も下級貴族も買いにこれる宝飾店なんてそうそう有らへんもん。
お貴族様向けの洒落たデザインの装身具も有れば、強化石モリモリの冒険者用のアクセサリーも取り扱っとるん。婚約指輪・結婚指輪は勿論、使い捨て用の “ 終わりかけ ” のペンダントも扱うさかい、口の悪い人には節操なしって言われてるみたいやけど。自分としては仕事を選ばないんやなくて間口を広く取ってるだけやと思うてん。明朗会計やし変な仕掛けもせえへんから自分は好きな相手やけどね。あ、商売相手として好きなだけやで。自分、男色の趣味はないさかいに。
そうや、啼哭過激団はんの『投擲槍のヤッシー』はんも着用モデルやったわ。アクセサリーを装備して舞台をこなすだけでええんやて。
「おやおや、カーン=エーツさん、儲かりまっか? 今日は珍しい裸石はお持ちでなかったです?」
「ミーティアはん、ボチボチでんなあ。いや、そんな都合良く持ってへんよ」
「先日、『ネオ=ラグーン』領の『スワロー』の魔道具店のラルフロ=レーン氏から面白い石を仕入れましてね」
「面白い石?」
「磨いた石に物語が添えられてましたよ」
なんや、知ってる所が出何処な気もするんやけどな。まぁそこまで珍しい話でもないやろ。
「どんなん話ですの?」
「研磨の時に原石に起きたことを物語に仕上げてましたよ。ありふれた石言葉とも違って目を引きましたね。見ますか?」
「折角やし、後学のために見させてもらいましょ」
……って、コレ、こないだ見たわ。コレ、ミーシャはんの石やがな。ここで製品化されたモンに遭遇するとは思わへんかったわ。ちゃんとアクセサリーに加工されるとこうもオシャレになるんやなぁ。これ、一流の職人はんの仕事やわ。それでいて安からず高からず。これ、口説く方も口説かれる方も嫌な気分にならへんのとちゃうん?
地金はシルバーね。なになに、
“ 石が黒くなるのが早いか、銀が黒くなるのが早いか ”
が売り込み口上なんやな。で、その意味なんやけど、
石=当人同士の気持ち
外枠=周りの人達の気持ち
成る程、それはそれで面白いわ。シルバーも放ったらかすと黒くなるし、それを人間関係に擬えて…ってええやん。取り扱い数も少ないから特別感もバッチリやし、シルバーが黒くなったか確かめる目的や…って言うてデートも取り付けられるわ。で、あれやろ? 「周囲が何と言おうとも、僕達/私達の気持ちは変わらない」 って盛り上がれるんやろ? シルバー磨いて黒さが減ったら 「皆が認めようとしてくれてる」 なーんて言うんやわ。黒くなる前提で売り買いしとるからトラブルにもならへん。これ、ミーティアはん考えはったわ。
「どうでしょうか?」
「これ、ええですわ。自分も恋多き男を自称してますけど、自分がヒト族やったら買うてますわ」
「カーン=エーツさんにそう言ってもらえると作った甲斐があります」
「ミーシャはんの石がミーティアはん の…」
「ちょっと待って下さい、今、名前が」
「えっ、名前?」
「ミーシャとミーティアと」
「あっ、アカン!」
「つまり、カーン=エーツさんが研磨師の方を存じ上げていると判断してよろしいでのでしょうか?」
「秘密にしといて。石磨いてくれてる子は学生やねん。カリキュラムの合間に磨いてるんやて」
「おや、研磨師の方は学生さんでしたか。つまり職業訓練の一環として石を研磨し魔道具屋に卸して販売の為の勉強もされていると」
うわっ、ホンマはだいぶ違うけどな。そう言う事にしといたろ。
「せやねん。だからこっちから大っぴらに依頼は出せへんねん。どうしてもって言うんやったら外部委託の形を取って、単位に上乗せしてやらんとね」
「その手が有りましたね」
あかーん、墓穴掘ったわ。ミーシャはん、堪忍して。その代わり、材料費タダで研磨出来るさかい許したって!!
「凄腕の商人、カーン=エーツさんにお願いします。その研磨師さん、ミーシャさんとおっしゃいましたか、当社でミーシャさんに一つ研磨依頼を出したいのです。『スワロー』商業ギルドと職業訓練校、双方に正式依頼の書類をお渡しすればよろしいですね?」
「あ…、それでお願いしますわ。一粒二粒にしといてやって」
「 “ 終わりかけ ” を研磨した方に依頼したくて寄せてあった原石です」
提示されたんは綺麗な半透明の水色をした【テンガ】の原石。【テンガ】って強化石やったよなぁ。ほなコレ、強化値の無い綺麗な【テンガ】やろな。チラッと鑑定したら強化値=ゼロって出てたわ。
「これ、綺麗なだけの【テンガ】ですやん」
「はい。これで一つお願いします」
「しゃーないわ。ミーティアはんの顔を立てましょ。ミーシャはんにお願いしてみるわ」
「ありがとうございます。ただ、商業ギルドと職業訓練校に依頼票を出す関係上、ミーシャさんに渡る賃金が少くなってしまいます」
「そこは職校の単位になるし、商業ギルドの覚えもよろしくなるからええんやない? その辺り、学生はんは割り切ってはるよ」
「そう言っていただけると恐縮です」
「イベント合わせやから、納期の方はそこそこ早目に言うとくわ」
って、アカン、ポロッと情報漏らしてもうたわ。ミーティアはんは外に漏らしたりせえへんやろうけど。ミーシャはんの事や、面白いからってサクサク磨きそうで怖いんやけど。あ、後でラルフロ=レーンにも報告せな。
せや、折角やから【銘菓・ヒドラ饅頭】も送ったろ。付属のドラゴンスレイヤーって書かれた木ベラで饅頭切ったら、中からジャムがドバ〜っと出てくるんやて。ミーシャはん、このノリ喜んでくれはるやろか? ついでや、ラルフロ=レーンにも送ったるわ。
この饅頭で可愛い姪っ子との距離が広がってしまう事をその時の俺は気付かなかった訳で……。




