第440話
食事会が終わった後は紋章に使われた異世界の道具の説明に移る。アリサお姉ちゃんはここで退席だ。ミケヲさんが柳川鍋を食べにやって来る時には解体役として指名依頼を出す契約を結んでいたよ。
「ミーシャ、【手持ち豚】を従魔契約したそうじゃな」
「はい。昨日お迎えしました。パイクお義祖父さまにケージ製作をお願いしたいです」
「手提げ籠にもなるケージが便利じゃよ」
「手提げ籠仕様ですか?」
「運ぶ時はスライムバッグに入れた方が安心なのじゃが、手提げ籠のケージじゃと泊まりがけの時に便利なのじゃよ。元々が鉱山で働いてもらう従魔じゃからのう」
手提げのケージから可愛い従魔が、それって憧れるやつだ。馬車からケージを下げて高原の避暑地に……、やってみたい。
「ネコ車、これは別名を一輪車や手押し車と言うのだが、主に土砂等を運ぶ時に使う物なのだ」
「カゴに車輪と持ち手が付いたけなのじゃな」
「三毛皇様、何故ネコ車なのでしょうか?」
「何でも、ひっくり返すとネコが丸くなっている姿に似ているからと言うことらしいね」
「現場向けじゃのう」
「これ、魔道具じゃないんですね」
「一輪車じゃから不安定じゃ。車輪を二つ使わないのには理由があるのじゃろうな」
「小回りが利くって事では?」
「魔道具にする必要もないと言う事か。吾輩、魔道ネコ車を乗り回してみたかったのだが…」
来たぞ、ネコ−1グランプリ。
「車輪に【履筒】を使えば最新技術を盛り込んだ道具として売り込めそうだね。魔道具でなくても【履筒】で付加価値を高められる。一輪車だからコストも削減出来るよ」
「麦粒の選別用の箕に似た形の荷台に持ち手と車輪、後は転倒防止の為のスタンドが着いているだけですよね。これは小鍛冶師に発注ですか?」
「荷台が鉄製なだけで、他は鉄に拘らなくてもいいかもしれぬのう」
「馬車ギルドに持ち込みでもいいかもしれないよ」
「輸送道具という意味ならば馬車ギルドがよいじゃろうな」
「これ、原案持ち込みが三毛皇閣下で決定ですよね?」
「そうじゃな」
「えっ、吾輩がか?」
「ボクとしては猫の人印のネコ車の方が分かりやすいと思うんですけど」
「それなら設計図を馬車ギルドに発注して、そのまま試作してもらう事にいたしましょう。登録者はマーダーナイン=ミケヲこと三毛皇様です。猫の人は馬車ギルドとは【黒猫印の配送便】で提携していますから話も早いと思います」
サラサラと書類を書くホーク=エーツさん。そう言えばこの為にヒレ酒飲んでなかったもんなぁ。
「続いてネコをダメにする炉だ。これは吾輩のいた前世世界ではコタツと呼ばれている」
「猫をダメにするじゃと!?」
「そう、この道具に潜り込めば易々と出て来られなくなるのだ」
「それは猫だけですか?」
「人もだよ」
「それはどういう意味なのじゃ?」
この道具はテーブルの中に火種が保たれており、布団状のテーブルクロスを掛ける事により効果的に身体、主に下半身を温めることの出来る局所暖房器具である事。ミケヲさんの暮らしていた国では屋内では靴を脱ぐ生活をしており、その為この道具は高さの低いテーブルであり、床に直接座って使うため、なし崩し的に横になる事が多く、そのまま寝落ちする事も珍しくない。また寝落ちしなくともなかなか外に出て来れなくなると言うコタツの仕様と魅力を得々と説かれた。そこにミカンが付き物な事もだ。
まぁ、知ってますよ。前世の俺の部屋にも有ったし。
「大昔は火鉢に炭を入れて暖を取っていたそうだから、魔道具でなくても再現は出来るだろうね」
「大昔と申しますと?」
「吾輩の暮らしていた国は歴史が長くてね。そのコタツも六百年ぐらいの歴史があるらしい」
「凄い歴史なのですね。簡単な構造なのにそれだけ効果的という事ですか」
「歴史を語るのもいいのだがね、吾輩、コタツに入ってミカンが食べたいのだよ」
結局はそこなのかよ。まぁね、利便性を求めて前世の道具を再現したくなる気持ちは良〜く分かりますけどね。俺もやっちゃったもんな。
「それで、三毛皇閣下の生活されていて時代でも炭火を使われてたんですか?」
「いや、吾輩の暮らしていた時代は電気式だね。電気というのは雷魔法が生み出す様なエネルギーの事だ」
「だとしたら、炭火は引火の点でも換気の点でも危険ですよね。保温の熱源は魔道具にした方が安全そうです」
「そうじゃな。ほれ、ミーシャが婆さんに伝えた保温の出来る調理器具、あれが似た様な感じじゃよ」
「あっ、あれか!!」
「あの魔道具は開発依頼を出したんじゃよな?」
「はい。ハーレー=ポーターさんにお願いしています」
「ならばコタツもお願いしてしまうのじゃ」
ハーレー=ポーターさん、またハイテンションになっちゃうんだろうなぁ…。
「このコタツも三毛皇様の発案品という事で登録…」
「ちょっと待ったー!!」
「どうかされましたか?」
「コタツは吾輩が発案、ミーシャ=ニイトラックバーグ監修にしてもらいたいね」
「えっ、ボクですか? 何もしてませんよ」
「吾輩、ミーシャ=ニイトラックバーグの閃き力に期待しているのだよ。バンバンとアイディアを出してくれたまえ」
うっわー、俺がコタツの進化系を知っているからっていい様に丸投げしてきたし。
「はい、ボク、三毛皇閣下のご期待に添えるように……ガンバリマス」
「という事は、コタツはミーシャ案件? あっ、カーン兄に押し付けられる!!」
「どういう事じゃ?」
「カーン兄、俺の兄のカーン=エーツがミーシャの専属商人になったんです。勿論、今までミーシャが登録した案件も担当になりますが、このコタツは専属化して最初の案件になるので、色々面倒…いや、色々気を回して貰うことになるんですよ。それこそ、仕入れから売り込みから」
「ヒドラ饅頭の御仁だな」
「はい。商業ギルドの平和の為にもカーン兄には頑張って働いてもらいましょう」
その専属化の真の理由を知っているだけに俺は苦笑いするしかなかった訳で。




