第436話
流石にアンディーがカトリーヌのハーネスを掴んで持ち上げるのは無理でした。寮の部屋にいる時はアンディーがケージに登ればカトリーヌがベッドの下に潜らない限り、かくれんぼしてても上から見つけてくれる訳か。まぁ、部屋は狭いから迷子にはならないと思うけど。それに、隙間に挟まって身動き出来なくならなければ、お腹が空いたら出てくるものよ。トカゲだったら部屋の中で脱走しても窓辺で日向ぼっこしてるしな。魚は干物になるから水槽から脱走させたら駄目だけどな。
【スキルオーブ】で確認してないけど、絶対に『動物王国』のメンバー数が一つ増えていると思う。あの分母の6256って数字、増えるんだろうか? それより大量に仲魔が増える条件って、……蜂? 蜂か!? よくあるミツバチ系が仲間になりましたってやつ? 女王蜂と仲良くなってコロニーが漏れなく付いてくるんでしょ? 俺、知ってる。うん、蜂には気を付けよう。
アンディーに洋梨の芯をあげようとしたらカトリーヌが見つめて来た。ここは仲良く半分こするか。梨の芯だけど……。
今日は水に漬けた豆は無い。安心して出かけられる。カーテンを半開きにして木賊と【プルモニア】の挿し木用の枝に光が当たる様にしておく。水もあげた。
プピッ?
「カトリーヌ、木賊は食べ物じゃないよ」
プープー
尻尾が揺れる。説明したら分かってくれるみたいだ。カトリーヌは豚さん印の付いたスライムバッグに入ってもらった。喜んで入る辺り、養豚施設で躾けられているに違いない。バッグの口からちょこんと顔を出して外の様子を伺っている。かっ、可愛い!!
予定より少し早いけど商業ギルドに向かった。目的は【手持ち豚】の健康的な食事について質問する事だ。養豚施設では雑食なので植物性の餌を中心にバランスよく与えて下さいと説明されたけど、よくよく考えたら物凄くザルな説明だよな。
商業ギルドで今日使う食材の確認をする。全部届いているので一安心。ドジョウはアリサお姉ちゃんに任せる手筈なので俺は十一時頃からきんぴらゴボウと柳川鍋の準備をすればいいな。あ、【銘菓・ヒドラ饅頭】を出してもらわないと。それに合わせるのは【渓流鰮】のヒレ酒だ。熱燗にした『生命之水』に炙った【渓流鰮】の尻尾を浸すだけの代物ね。ドジョウの柳川もきんぴらゴボウも和食系だからヒレ酒が合うでしょ。日本酒も焼酎も無いから仕方ないんだよ……。
「【手持ち豚】のカトリーヌも一緒です。大丈夫ですよね?」
「スライムバッグに入れておくか、リードを着けて繋いでおけば大丈夫ですよ。後、許可なく煙を吐く草を与えないでくださいね」
「分かりました。煙を吐く草をって何が有りますか? カトリーヌは様々な草に興味を示すので、【手持ち豚】の餌に適した植物と、食べさせると煙を吐く植物を教えてください」
「毒草や一部の薬草は避けて下さい。植物によっては食べさせた後の体臭が気になる場合もあります」
「体臭ですか?」
「体臭というか呼気ですね」
「あの、【手持ち豚】って拭き草って食べるものなんですか?」
「未使用ですよね?」
「勿論、未使用の拭き草です」
「食べる個体もいます。そもそも拭き草は菊の仲間です。【虫来ず草】も菊の仲間なので、個体によっては拭き草を食べたりもします。ですが、本来の拭き草の使用目的が使用目的ですので、積極的に与えている所を目撃された場合、従魔を虐待していると勘違いされる場合があるのでお気を付け下さい」
「ありがとうございます。少しぐらい口にさせても大丈夫なんですね」
「拭き草を口に出来る個体は駆虫に対して優秀だとも言われていますよ」
「そうなんですね。昨夜、カトリーヌが安眠を誘う香りを放ってきたんですけど、何か条件はあるんですか?」
「あら、懐かれてますね」
「そうなんですか? 昨日、お迎えしたばかりなんですけど」
「それは気に入られた証拠ですよ」
「そうなんだ。カトリーヌ、これからも仲良くしてね」
スライムバッグから覗かせた頭を撫でてあげると プー という鳴き声で応えてくれた。
「【手持ち豚】用には複数のクッキーが有ります。定番の野草クッキーの他、スパイスを練り込んだスパイスクッキーや、花弁を練り込んで低温で焼いたクッキー、潰した【増筋豆】を加えて焼いたクッキーに【魔増草クッキー】、フスマを使ったクッキーなど様々有ります」
「うわっ、沢山あるんですね」
「吐かせたい煙の種類で食べさせるクッキーも変わります。リラックス効果のある煙、安眠効果のある煙、やる気の出る煙、集中力を高める煙、優しい気持ちになれる煙、等々……」
「あれ、ボク昨日そんなクッキーを与えませんでしたよ」
「ですので、それが懐かれている証拠なのです」
意外を通り越して結構な種類があるじゃないか。【手持ち豚】はアロマ従魔って事?
「紅茶のクッキーって無いんですね」
「紅茶ですと飲み終わった後の茶葉を与えればよいので、わざわざクッキーを作る必要が無いのです」
あ、そうなんだ。
「紅茶以外のお茶の茶葉も与えていいんですよね?」
「はい。淹れ終わった後の茶葉はその日のうちに与えて下さい。薬草も煎じ滓は与えられますよ」
動物性の餌は全体の二割程度で良かった。豆類を十分に与えていれば動物性の餌は与えなくても大丈夫らしい。動物性の餌に関しては飼い主の食事を少し分けてあげればよかった。
カトリーヌ、アールグレイの香りにしちゃう? あ、ベルガモットが無いと駄目だ。妥協案で紅茶と柑橘類の皮でいいかな?




