第433話
少し形を整えたところで作業を止めた。目的は刺繍の資料の在庫確認。有れば買うし無ければ注文だ。教科書の良いところは購入すると私物になる点。そうだ、ランディ=ストーンさん、ミハイル=ジョイソングさんにお礼の気持ちを込めて食堂でエールを一杯ずつサービスしておこう。
刺繍の柄の教科書の在庫が切れてたので注文した。ゴーレム写本なので数日で届くんだけどね。教科書というか書物は印刷技術がそこまで発達していないのでいいお値段がするのだけど、ゴーレムにかかる経費の方が人件費より安かった。
「厳密にはゴーレム版木の印刷物だよ。絵の部分は版木を使っているんだけど、その版木の複製をゴーレムに代行させているだけなんだけども」
「教科書って版画だったんですね」
「版画はそれなりに大量生産できるからね。本物のゴーレム写本は魔法陣なんかの厳密さが求められる時に使うものだよ。誤字があったら困る時も使うよ。まぁ表現が面倒臭いからゴーレムが関わる写本の事を皆が “ ゴーレム写本 ” と呼んでるだけだね」
つまり、一番最初の版木を彫る職人さんがいるって事だな。
時間的に職校も学園も図書館はアウトなので、見たいなら各ギルドの資料室行きなのか。比較的閲覧時間の融通が利くのは商業ギルドと馬車ギルドで、深夜帯以外での閲覧が可能なのは冒険者ギルドだ。まぁ、農業ギルドや錬金術ギルドはそろそろ閉まる時間だ。そして馬車ギルドは資料が少ない事も判明した。
「馬車ギルドには資料があるけど、馬車組合には無いから気を付けてね。馬車組合はポニー管理と馬車の貸し出し、そして転送の荷出しと荷受けがメイン業務だから」
「ありがとうございます」
馬車組合は営業所で、馬車ギルドが本社って感じなのか。
あ、もしかしたらパイクお義祖父さまの家に資料があるかもしれないぞ。お義祖父さまは本来は木工職人であって籠職人はオマケの様なものだって言ってたじゃないか。灯台下暗しだな。
まぁ、ドングリの樹木言葉は分かったので部屋で研磨を進められる。後は適当なストーリーを添えて……だ。ヒト族のお客さん、ごめんなさい。貴方の背中を後押しする為の文章は中身がおっさんのドワーフが適当に決めて書いています。
慈愛もしくは献身。これをアマゾナイトの持つ意味合いと合わせる訳で。強化石だと身体強化か精神強化の効果がある。
アマゾナイトは前世だったら “ 強化 ” 、 “ 行動 ” 、 “ 聖なる愛情 ” 、 “ 約束の日 ” とかの石言葉が有った記憶がある。パワーストーンの効果だったら “ 心身のバランスを整える ” だったか。いい感じに強化石の項目とドングリの樹木言葉と被ってくるな。
うーん、ここで考えてても考えが纏まらない。先にお風呂に入ってこようかな。アンディーは脱衣所で待っててもらうか? アンディーも一応女の子だから女性風呂の脱衣所に入ってても問題ないか? もしくは従魔の待機場所に居てもらうか。
「アンディー、どうする?」
ムキュウムキュウ
(「あたち ぶたさんと まつの」)
「だったらカトリーヌと待っててね」
ムキュウ!
さて、お風呂だ。考えすぎて逆上せて倒れる事だけは避けないと。ヤーデさんだっていつまでも見守ってはくれないかもしれないし。お風呂の逆上せも三度まで…かもしれないし。
………、無事、生還!! のんびりお湯に浸かっても考え事さえしなければ逆上せたりしなかったよ。
晩ご飯の後はカトリーヌ達の仕事を拝見する事にした。専用ハーネスを着用した【手持ち豚】達が四頭、食堂の入り口脇で待機している。カトリーヌはソワソワしているものの、先輩の三頭は慣れたもので短い尻尾を左右に振っている。【手持ち豚】は犬と同じでご機嫌な時は尻尾を左右に振り、警戒時は上に立て、警戒中もしくは不機嫌な時は股下に向かって下げるそうなので、この三頭はご機嫌という事だ。黒い子、白い子、色合いは様々。カトリーヌは全身薄ピンク。所謂イメージ=豚さんカラーの別嬪さんだ。
状況をよく分かっていないカトリーヌが小首を傾げると、先輩三頭が プキッ プー 等と鳴き声を上げながら何か伝えている模様。暫くするとカトリーヌも尻尾を振り出したので【手持ち豚】達の間で何らかので意思疎通が出来たに違いない。カトリーヌともお喋りしてみたいけど、従魔と念話だらけになるのも大変な気がする。そもそも、従魔石を受け取る事で念話が発生している訳であって、俺に念話スキルがある訳じゃないしな。
厨房のおばちゃん達が【手持ち豚】の前に新鮮な【虫来ず草】を置く。一頭に一盛り、大きな葉を摘み取ったものなんだな。それを食べ終えたのを確認するとおばちゃん達がハーネスを持って【手持ち豚】を運ぶ。なんだか提灯みたいだ。
「さぁ豚さん達、駆虫の煙をお願いするよ」
おばちゃんがそう告げると【手持ち豚】達は口を大きく開け、モワ〜と煙を吐き出し始める。 「はい、送風」 と言う掛け声が上がると煙が拡散し始める。これはおばちゃん達が『汎用魔法』か風魔法を使っているんだろう。飲食スペースに煙が薄く広く回ったら次は厨房内だ。洗い場脇の台に一旦【手持ち豚】が降ろされる。そして追い【虫来ず草】が提供される。尻尾が千切れんばかりにブンブンと振られているのでおばちゃん達からのサービスなんだろう。
おばちゃん達が再びハーネスを掴むと【手持ち豚】達が口から煙を吐き始める。 「下向きに送風」 という掛け声が掛かり、駆虫の煙が床に向かって流れてゆく。厨房内を一巡したら終了だった。
「はい、お疲れ様でした。豚さん達もありがとね。また来月もお願いするよ」
プープー
プキッ
プー ププー
プキップー
【手持ち豚】達にしたら【虫来ず草】を貰って煙を吐くだけの簡単なお仕事だしな。厨房は駆虫が出来、飼い主は職校の環境保全に協力出来る。そして飼い主には貢献ポイントも付くよ。




