第425話
ミケヲさんの来訪予定も分かったことだし、学生寮に戻ろうとしたらジョー=エーツさんが職校まで送ると打診してきた。送るも何もすぐ近くなんだが。
「久し振りだしな。それにミーシャを送った帰りにチーウに挨拶しに行く」
「あ、チーウさんにナオ=エーツさんの件をお願いするんですね」
「そういう事だ。後、さっきは助かった」
「さっきですか?」
あ、パパの顔を立てたアレか。だって、前世で家族サービスに奔走していた同僚を思い出しちゃったんだよ。小学校一年生の娘に「私と仕事、どっちが大事なの?」って聞かれちゃったよ…とボヤく同僚をね。
「ああ。父親のメンツが丸潰れになるところだった」
「ボクは両親の顔を知らないので羨ましいなぁ…って。あ、育ててくれた爺ちゃんも、庇護養親になってくれたパイクお義祖父さまも、庇護保証人のリンド=バーグさんにも感謝しています。そして最初にボクに声を掛けてくれたジョー=エーツさんにも感謝していますので」
「そう言えばそうだったな」
すみません、大人の姿で異世界転生したので俺にドワーフの両親はいません。親の気持ちは分からないけれど、おっさんの気持ちは分かるのですよ。
「だって、お嬢さんに嫌われたら悲しいじゃないですか。パパうざいとか、パパ臭いとかパパ飲み過ぎとか……」
その言葉を耳にしたジョー=エーツさんが嫌な顔をしているんだけど……。まさか、もう言われてるのか?
「それだけは避けたい。ところでさっきの礼をしたいんだがな、何か欲しい物とか有ったら言ってくれ。出来るだけ便宜を図るからな」
「え、そんな、いいですよ」
「そう言わずに」
「そうですね……」
急に言われても困るな……。集塵の魔道具は無理に決まってるし、持ち家も無いから家具とかもダメだし。野草クッキーを一年分とかどうだ?
「あの、従魔のオヤツの野草クッキーを一年分とかですかね?」
「野草クッキー?」
「はい。【魔増草】入りのクッキーです」
「何でまた?」
「アンディーが野草クッキーが好きなんですよ。ボクも食べますけど」
「はあっ???」
ヤバい、ドン引きされた!! よく考えたらジョー=エーツさんは俺が【魔増草】大好きなのを知らなかったわ。うっわー、しくじった。
「野草クッキーか…それだけの量なら保存のマジックバッグも要るじゃないか。いつもの事だが『エイドパス鉱山』関係なら簡単なんだけどな。入山権とか採掘権とか、入山時の従魔無料レンタル権とかどうだ?」
「入山時のレンタル従魔って、【手持ち豚】とか【加護の鳥】とかですよね?」
「【掘削獣】も居るな。モグラと蛇を足した様な姿の魔獣だ。見た目はあまり可愛いくないが、採掘の手助けをしてくれる便利な魔獣だぞ」
【掘削獣】、響きがとっても焼肉ですな。食いたいなぁ焼肉。白ご飯にワンバウンドさせて食べたい。
「そうだ、従魔の優先購入権って有ります?」
「優先購入権か? 従魔によるな」
「ボク、【手持ち豚】を飼ってみたいんです」
「そこかよ。それなら明日にでも購入手続きしに行けるぞ」
「えっ?」
「【手持ち豚】は飼育農場があるからな。大きい街なら大抵買える」
マジっすか? あのとても可愛い手持ちブタさんが飼育されてるの!? どんな農場なんだろう。見学したいな。
「ミーシャ、明日の予定はどうなってる?」
「特に無いです」
「授業も実習も入れてないのか?」
「先日、岩塩でやらかしまして、今週は無理しない週間にしました。来週は講義の予定が入ってますけど。そう言えば、十二の月・一の週・一の日はカーン=エーツさんのビジネス言語の講習会があります」
「そこでカーン兄貴の情報を入れてくるのかよ。ああそうか、作業を控えてるって事は、ミーシャは作業中にブッ倒れて【魔増歪ジュース】を飲んだクチだな。それ自体は珍しい話でもないから気にするな」
ドワーフあるある、【魔増歪ジュース】体験。つまるところ、オトナの階段ってやつか?
明日の午前中に【手持ち豚】の農場に行くことになった。今すぐ飼わない場合、予約でもいいよね。見学の後、午後からは採石場でアマゾナイトの研磨でもしようかな。となったら今夜のうちにスケッチをしておかないと駄目だ。
「【加護の鳥】はいいのか?」
「鳥は来週末にコカコッコが孵化するので、喧嘩されても困るので今回はスルーします」
コカちゃんがある程度大きくなったらお迎え検討してもいいか。カレーの匂いに反応しないんなら飼ってもいいよね。毒物・薬物は取り扱わないけどカレーのスパイスは取り扱う予定だからな。
明日は商業ギルドで待ち合わせという事で決定した。女性陣はチーウ=エーツさん込みの三人で買い物をする模様。
さて、夕飯の後はアマゾナイトのスケッチだ。
(簡易)
【テンガ】の鉱石: 普通の品質。半透明の緑みがかった水色の鉱石。いきなり【愛の囁き】を手渡す勇気の無い人にお勧めです。
(鑑定)
【テンガ】の鉱石: 品質=並。半透明の緑みがかった水色の鉱石で大きな内包物は認められない。
絆を得たい人を後押しするお守りとして使われる。内向的な人にお勧め。
なるほど、内気な貴方はこれを握ってアプローチ、って事ね。いきなり “ 終わりかけ ” の【愛の囁き】を渡せる人ってぶっちゃけナンパ師なんだな。右手でテンガを握ってアプローチ……響きが嬉しくねぇ。ミケヲさんに話したら、この何とも言えないセクハラネタって伝わるかね?




