第424話
【天河石】ことアマゾナイトを手に入れた。残念ながらただの綺麗な鉱石だったけど、次に本物の強化石を入手した時の為の研磨練習だと思えばいいし。
これも何かストーリーを添えてやればいいのか? 多分、ウサ耳イベントで売るつもりで仕入れたんだと思う。だったら適当にでっちあ……いや、心に沁み入る物語を添えてやるのが恋人達の為というものよ。いっそのこと火打ち石で “ リア充爆発しろ!! ” アクセとかどうよ? うーん、いくらなんでも不謹慎か……。
「ミーシャ、また何か企んでいるのか?」
「えっ? 何のことですか?」
「ほら、左の口角が上がってるからな。その顔をしている時のミーシャは何か企んでいる時だ」
「えっ、ええっ!? ボクそんな顔してましたか?」
「ああ、冗談だ」
「そんな、酷いですよ」
「左の口角云々は嘘だけどな、それ以外で分かりやすい表情になってるから気を付けろよ」
「ふふ…」
ジョー=エーツさんのみならず初対面のカー=エーツさんにも表情の違いの何かに気付かれた模様。マジで気を付けよう。
「だってほら、鉱石研磨は楽しいじゃないですか」
「そうだな。そう言う事にしておいてやる」
「それでミーシャ、その【テンガ】は研磨するの?」
「はい。早々に研磨しちゃいます。これ、カーン=エーツさんに渡せばいいんですか?」
「ここに持ち込んでくれれば俺が渡しておくよ」
「ありがとうございます」
「ほら、担当官から担当官に手渡すだけだから…。今からカーン兄の引き攣った笑顔を見るのが楽しみだなぁ……」
「そうだな、カーン兄貴にはバリバリ仕事させてやってくれ」
「それと、ナオのギルド見習いの手続きの件だが」
「それは支部長の権限だから直接交渉でお願い。それに俺はミーシャ専任だから……」
ジョー=エーツさんご一家はセキュリティの関係と称して商業ギルドの来客宿泊部屋に泊まる事になった。ナオ=エーツさん一人になったら三兄妹の借りている家に泊まるそうだけど。カーン=エーツさんが戻って来たらホーク=エーツさんと一緒に来客宿泊部屋に泊まってもらうことも検討しているとかなんとか。家から全員出払う事は無さそうだけど、その時はナオ=エーツさん一人で商業ギルドに泊まる事になる。過保護と言えば過保護なんだけど、エーツ氏族の本家のお嬢さんなので独り立ちするまでは保護対象になる模様。ドワーフ領内だとそこまで気にしなくていいんだろうけど、悪意のある人は何処にでもいるからなぁ。
「それよりカーン兄貴はこの【ヒドラ饅頭】と【テンガ】にいくら使ったのかな?」
「さあ? どうせお小遣いで買ったんでしょ? 散財好きだからいいんじゃない?」
「いや、ミーシャ専任になってからだったら経費で下ろせたんじゃないか?」
「あ、そうだね。金額にもよるけど経費対象になるね。カーン兄、損益出したって悲しむんだろうなぁ…。見たいなあ……」
「あらあら、それだったらホークが経理担当しないと駄目じゃないの? これ幸いと経費計上しまくりそうじゃない」
「いくらなんでも、それは無いんじゃないです?」
「いや、過去にいたぞ」
「鉱帝カークェイ=エーツもロッキー商会に利便を図って諌められた事件もあったわよ。これって身内の恥だからあまり言いたくないんだけど……」
ちょっと甘い汁を吸っちゃう輩は何処にでもいるんだな。…って、鉱帝カークェイ=エーツも何やらかしてるんだよ!!
「またエーツ氏族がやらかした! って言われたくないからカーン兄の動向はチェックしとくよ」
「出世を取るか、目の前の小銭を取るかなんだがな」
「そうなんだよね。このままミーシャに頑張ってもらったら、功績が貯まって商業ギルド支部長コース一直線じゃない? それを蹴って目の前の小銭をちょろまかすものなの? 俺なら絶対やらないけど」
「カーン兄貴だからなぁ……」
うっわー、身内に信用されてねぇし。そして輝かしい未来が約束されてるのかよ。
「未来の商業ギルド支部長って凄くないです?」
「凄い事だよ。でも、支部長になったらなったで外回りが出来なくなるって文句を言いそうだけどねぇ」
「カーン兄貴は管理したくもされたくもないって常日頃口にするからな。自称=自由なツバメらしい」
「俺には自称=幸せを運ぶツバメって言ってたよ」
「現地に巣があるのかしらね?」
「いいかナオ、定住せずふらふらしている男性には気を付けるんだぞ」
「パパもなの?」
「はあっ?」
「パパ、何年もお家に帰って来なかったし、帰ってきたらみんなで旅行してるし……」
「違う、パパは違うぞ」
「パパは違うの?」
「違う。パパは悪い奴が来ない様に関所を護っていたからな」
「そうなの?」
「そうよ。パパは関所に籠もってたのよ。ママが怖くて逃げてた訳ではないの」
真実はいつも秘密ってか? カー=エーツさん、毒吐いてませんか?
「あの……、ジョー=エーツさんが『関所の集落(仮)』にいてくれたお陰でボクは今ここに居るんです。あの時助けてもらえなかったら、ボクは多分死んでました」
「パパ、本当?」
「あんな何も無い所で何年も警備するだなんて、責任感と強い意志が無ければ無理だと思います。多分ジョー=エーツさんはエーツ氏族としての責任感で他の人達より余計に警備任務に就いていたんだとボクは思います」
「うん、まぁ……そんな感じだ」
「パパ、凄いお仕事してたんだ」
「そうね。ナオはパパの事を自慢してあげないとね」
多分、ジョー=エーツさんは家に戻りたくなくて単身赴任を続けてたんだと思うよ。でもまぁ、話を盛ってあげよう。関所のパパはチョット違う、関所のパパは漢たぜ、ってな。前世のシンガー・ソングライターで 忌野キワ の歌にそんな感じの歌詞が有った様な無かった様な。娘の前で格好つけたい恐妻家には逆効果かもしれないけどなぁ。前世の俺は独り身だったけど、おっさんの気持ちは分からなくもない。




