第419話
そして今気付いた。このエルフさん、俺とドワーフ語で会話してたわ。あまりに自然すぎて言語問題をスルーしてしまってたぞ。
「グェン先輩って、綺麗なドワーフ語で話されるんですね」
「異国で学ぶのであれば、そちらの言葉を知らなければ正しく知識を得られませんことよ」
「尊敬します」
「ドワーフ語はまだ覚えやすい言葉ですので」
「もしかして古代エルフ語と比較してですか?」
「ええ。あれは難解ですわ。とても人の話す言葉とは思われませんこと」
酷ぇ……。確かにアレは難解だけどさっ。俺はスキル補正のお陰で判るだけだから「理解できるんだぜ!」 と大口は叩けないのだ。
「それよりグェン先輩、ボク、エルフ領の名物野菜に興味があるんですけど、ドワーフ領だとなかなか手に入れ辛くて……」
「ドワーフにしては珍しい嗜好ですこと。確かにその通りですわ。私も里帰りした時に持ち帰りますもの」
あ、これはグェン先輩経由を持ってしてもゴボウや蕎麦は簡単には入手出来ないのか。残念無念。
そしてアンディーに野草クッキーと【魔増草クッキー】を渡してくれた。口調は悪役令嬢っぽいけどグェン先輩はいい人だったよ。
ムキュウ! アンディーがお礼の鳴き声をあげながらクッキーを受け取り、半分ほどの大きさに割って俺に渡してくる。いつもの光景だ。俺もアンディーにお礼を言って口にする。それを目の当たりにしたグェン先輩の目付きが変わったのは言うまでもない。なんというか、ベジ仲間認定された感じがした。【魔増草クッキー】は野草クッキーと比べて雑味が少ない代わりに苦味が強い。抹茶三十%増量(当社比)って感じだ。
「ミーシャ=ニイトラックバーグさん、それを当たり前に口に出来る貴女を我々エルフは歓迎しますわ」
「えっ? あっ、ありがとうございます」
よく分からないけどエルフに認められた感有り。アンディーのお陰なのか【魔増草】のお陰なのかは不明。今度グェン先輩にスライムの死核を研磨した物をプレゼントしようかな。カラーイメージは青スライムの死核ってことで。
ん…!? ちょっと待って、野草クッキーと【魔増草クッキー】と二つ有るのか??? 俺、【魔増草クッキー】って買ってた!?
ムキュウムキュウ ムキュウムキュウ
(「ますたー さっき くっきー かったの あたち おへやで たべるの たのちみ ちてたの」)
あ…れ??? 買ってた? 職員さんにすんなりと渡されてたから気付かなかったよ。マゾ入りクッキーって二種類あったのか。野草の栄養豊かな野草クッキーと、【魔増草】たっぷりなクッキーとが。どうやらエルフの常備食って事で確定らしい。
年末が近付くと学園と職校の合同授業や合同実習が増える模様。十二の月・一の週・一の日に職校でビジネス言語の講義があると学園の掲示板に張り出されてた。講師は現役商人のカーン=エーツ氏って書いてあるんだけど。簡単にカーン=エーツさんの来歴が書いてある。あの人、実力もあってそれなりに偉い人だったんだ……。俺、てっきり胡散臭い商人なんだと思ってたよ。
微妙に時間が余ったので、ポニーや鶏の餌を買って厩舎や鶏舎に差し入れに行くとするか。直接給餌してやれなくても職員さん達に餌を預けておけばいいんだし。市場に行くと若干鮮度の落ちた野菜や穀類が餌用として売られるのでそれを購入する。マジックバッグや次元収納も時間経過で鮮度が落ちるからね。まぁ、餌用と称して安値で購入してきて普通に食べる人もいるけどな。たまにはワギュと触れ合わないと駄目だな。毎度のことだがラパンのことが心配だ。そろそろ戻ってきて欲しい。
餌用野菜類を大量購入したので配達して貰えることになった。有り難いな。こんな時にネコ車が有れば……って、あれはそこまでの量は運べないか。いかん、ネコ車に乗せられるミケヲさんが脳裏に浮かんだ。ネコ車に猫獣人を乗せてドワーフに競争させるネコ車レースをやるんじゃないだろうな? ピット作業とかタイヤ交換とかしてさぁ…ネコ1GPかよ。ネコ1……ネコ車に猫獣人を乗せて犬獣人が押すとネコ・ワンだな。そっちの方がウケそうだ。
◇◇ もわもわ〜 (ミーシャ妄想中) ◇◇
ナレーター
「ネコ1GP、『スワロー』!!」
BGM
♪チャラ ラ〜ラ チャチャラチャ〜♪
(ネコ1GPのテーマソング、全曲流れると長い)
ナレーター
「ここでミシュニャンがピットに入ったー!! そして続いてマクニャーレンもピット作業だ。タイヤ交換、マクニャーレン速い!! そしてマクニャーレンのネコ車がピット作業を終えて本線に戻る!! あーっとクラッシュだ、ウイリニャムズがクラッシュ!! そしてレッドフラッグ、出てる間は順位が動かない。その間にマクニャーレンが周回を重ねてゆく。そしてそのままフィニッシュ、優勝はマクニャーレンだーー!!」
後でミケヲさんにネタ振りしてみるか。
学生領に戻る前に商業ギルドを覗いて帰ろう。まさかとは思うがミケヲさんから返事が来てたら事だし。あの人、フットワーク軽すぎなんだよ。
「ん!? ミーシャか?」
不意に呼び止められた。誰…?
「パパ、知り合いなの?」
「ああ、辺境警備の時に保護したぞ」
あーーー!! 服装が違ってるから一瞬気付かなかった。そこに居るのってジョー=エーツさんだ!!




