第415話
商業ギルドに【魔増っぽ草】が入手出来るかを聞こうと思って行ってみたら、 [【苦行草】 入荷しました ] そう書かれた張り紙を発見した。
マゾの次はサドなのかい? 苦行草って名前がもう危険な臭いがするんだけど。
「すみません、そこの張り紙にある【苦行草】って何なんですか?」
「能力値を底上げしたい時に使う薬草です」
「底上げですか?」
「はい、トレーニングを行う時に服用すると能力値の底上げが出来ますが、それに伴う苦痛が中々の物でして……」
「トレーニングって言う事は体力系ですよね?」
「いえ、魔力やその他能力値も底上げ出来ます」
「えっ!?」
「ただし、苦痛を伴います」
「苦痛を伴う代わりに短時間で確実に能力値の底上げが期待できるという認識でいいですか?」
「はい。その認識で間違いありません」
苦行というか修行というか。つまり、魔力欠乏を起こして【魔増草】を飲んでも魔力の底上げはされないけど、【苦行草】を飲んでから魔力欠乏を起こせば魔力の底上げが出来るって事なの!? そして【魔増草】で魔力を整える……と。それって一人SMじゃねぇか。
どんな草なのか気になるけど、知りたくない気もする。一つ買っておいた方がいいのか謎だ。
「その【苦行草】って頻繁に入荷するものなんですか?」
「ヒト族領で人気がある草なので、ドワーフ領には中々入ってこないですね。勿論、注文頂ければ取り寄せは可能ですけれども」
これ、レアもんかー。買って仕舞っておくか。俺、謎の草マニアになりつつあるな。
「すみません、一つ下さい。それで、『キーボックス』に仕舞っておいても問題ないですよね?」
「一月以内に使われないのであれば、錬金術ギルドに薬品加工処理を依頼して下さい。ポーションに加工しておけば数年単位で保存は可能です」
「そうなんですね。それならもう少し買っておこうかなぁ…。在庫って何本あります?」
「現在、二十株ございますが、数日中に売り切れますね」
「そうなんだ……だったら三株下さい」
「ありがとうございます。使い方は各種ギルド及び学園で説明が聞けますので初めてであれば必ず説明を受けてから使用をお願いいたします」
もしかしたら【魔増草】もポーション加工が出来るのかもしれない。そのうち錬金術ギルドに行ってみるか。
鍛錬をする訳ではないので【苦行草】の味見をする訳にもいかないか。でも、ちょっとだけなら……。
ぱくっ。葉を一枚摘み取り口にする。仄かな甘みと酸味、軽い苦味が感じられる。何だ、言うほど酷い味じゃ……あ? あ、あれ? 俺、こんな事してていいの? 鍛錬したい、鍛錬したいぞ……。ちょっと待って!!
「鍛錬したい、鍛錬したいな、鍛錬する? 鍛錬するぞ、思いっ切りハードな鍛錬してみる? 鍛錬するぞ。鍛錬、鍛錬うれしいなー!! こんな技いいな、できたらいいな、空も自由に飛んじゃうぞ!! はい、風魔法〜〜!!」
ムキュウ!! ムキュウ!!
(「ますたー!! だいじょぶ!? ますたー!!」)
「あはは、アンディーどうしたの? アンディーもボクと一緒に鍛錬する?」
ムッキューーウ!!
(「だめなの!!」)
「どうしたの? 修行しよ?」
ムキュウ ムキュムキュ キュウキュウ
(「ますたー だいじょぶ? ますたー!!」)
「あ、もしかして試食しました!? 生の【苦行草】を摂取すると幻覚を見るんです!! この状態回復薬を飲んで下さい!!」
「あは、ありがとうございます。そーれ一気、一気、一気!!」
トリップ中の記憶が無かった。【苦行草】怖ェェ……。基本的な使い方は煎じて飲む。ポーション加工された物は薄めて飲む。ちょっとアブナイお薬っぽかったのか……。
ムキュウ?
(「ますたー だいじょぶ?」)
「アンディーありがとう。あ、お騒がせしました」
「まさか葉を口にされるとは思いませんでした」
「あのハイテンションで鍛錬しちゃうんですね」
「煎じ薬やポーションだとあそこまでにはなりませんのでご安心を」
「そうなんですね。あの…この【苦行草】って、葉っぱを一枚食べさせて強制労働とかさせたりするのに使ってるんですか?」
「それはさせていませんよ。危険ですし、下手に覚醒してパワーアップされても困りますので」
「それもそうですね」
「尤もヒト族は分かりませんが、風の噂で上昇効果が出る直前に状態異常回復薬を飲ませて【苦行草】を無効化させるやり方で不法労働をさせている所もあると聞いたことがありますね」
「それは鬼畜ですね」
「はい。基本、その様な労働を強いることは禁止されてますので」
はい、出たよ、ブラック労働。疲労がポンと取れるオクスリではなくて、疲労を感じられなくなるオクスリだな。危険な事を覚えておこう。そして俺、【苦行草】を鑑定しないで口にしちゃってたよ!!




