第413話
パイクお祖父さまにミケヲさんから届いた紋章と印章とを届けにいった。ネコ車の説明はまた明日にでも…という事になった。俺のコタツと蜜柑も気になるらしい。まぁ、必修科目の実習があるわけでもないのでいいかな。
こんな事なら外泊許可を取っておけば良かった。まだ終業時間まで余裕があるので冒険者ギルドに寄っていく事にする。ただ食いオヤツが本当に認められているかの確認と、野草クッキーの補充が目的だ。【弩魔増草】、【超弩魔増草】、【魔増っぽ草】、の納品依頼も出しておく。
「【弩魔増草】、【超弩魔増草】でしたらこちらで依頼を出さなくとも、機織りドワーフが購入する品質のものであれば商業ギルドでお求めになれますよ」
「そうなんですね」
「【魔増っぽ草】は取り扱いが無さそうですが」
「情報提供ありがとうございます」
そうか、織物関係の草だから素材として取り扱いがあるんだな。どんな織物なのか気になる。
ムキュウ
(「ますたー おやつなの」)
「あら、アンディーさん、今日のおやつはお口に合うかしら?」
キュウ?
「今日は【増筋塊】なのよ」
取り出されたのは紫色をした不気味な塊。これのどこがケーキなんだよ。
ムッキュウ
(「あたち たべるの」)
アンディーが興味深げに手を伸ばす。それをサッと鑑定する。
(鑑定)
【増筋塊】: 【増筋豆】を加工して作ったケーキ。ケーキと呼ばれているがスコーンに近い。
あ、プロテインバー的な何かなんだな。響きが雑巾っぽくてアレだが。プロテインバーなら食べてみていいかな?
ムキュウ
(「すこち あまいの」)
「美味しい?」
キュウ!
(「すき!」)
「アンディーは気に入ったみたいです」
「それは良かったです。従魔の体を整えるオヤツです。魔獣の種類によっては与え過ぎも良くないので調整してお出しするオヤツですね。アンディーさんなら五日に一度ぐらいが丁度よいかと思われます」
「【魔増草クッキー】は毎日でも大丈夫なんですよね?」
「そちらは最低でも一日おき、出来れば毎日与えたいオヤツですね」
「教えてくださりありがとうございます。ボク、【増筋塊】が気になるんですけど、ドワーフが食べても大丈夫ですよね?」
「あっ…、まぁ大丈夫ではありま……す」
「では一つ下さい。後、【魔増草クッキー】を二十枚お願いします」
従魔の餌を食べようとしてドン引きされるのにもすっかり慣れてしまった己が怖いな。
毒ではない様なので一口噛る。あ…確かに仄かに甘味を感じる……んだけど青臭いというか、いや豆臭いのか。生の豆をすり潰した様な味が際立つオカラクッキーというか凄い豆乳スコーンというか。これは出来の悪いプロテインバーって感じだ。まぁ食べられなくはない。モソモソ感が強いのでのど詰まりしそう。って言うか、飲み物無しだとかなり厳しい。
チャイとか抹茶ラテとか合いそう。
「これ、モソモソしていて、のど詰まりしそうですね」
「そうですね。何か飲まれます?」
「【魔増歪ジュース】って有りますか?」
「はい、ございますが……飲まれます?」
「はい、お願いします」
ムキュウムキュウ
(「あたちも ほちい」)
「すみません、アンディーの分もお願いします」
【増筋塊】を食べながら【魔増歪ジュース】を飲む。これの組み合わせは当たりかもしれない。【増筋塊】の豆臭さを【魔増歪ジュース】の苦味が消してくれる。
「【増筋豆】を使った従魔のオヤツってこれだけですか?」
「【増筋豆】はそれだけ……、いや、すり潰したジュースもあります。大型種には与えたりします」
「流石に今それは無いですよね」
「はい。【増筋の絞り汁】は予約していただかないと準備に手間がかかりますので」
何その嫌な響きのジュース!! 何というか、悪意の塊としか思えないネーミングだぞ!!
「【増筋豆】だけって取り扱いは有りますか?」
「はい」
「在庫があれば一キーログラーム程購入したいです」
「アンディーさんですと一回あたり乾燥豆で五十グラーム程与えればよいですね。水で一晩戻してから軽く茹でたものを与えて下さい」
「そんなに少なくていいんだ。だったら三百グラーム下さい」
ちょっと研究の余地ありだよね。味の感じからすると、もしかしたら大豆の代替品になるかもしれない。
受け取った【増筋豆】、パッと見は何だか斑模様の大豆っぽい。パンダ柄……じゃなくて、どちらかと言うとホルスタイン柄の大豆か? もしかしたら大豆かもしれない。これ、試食するだけでなくモヤシ実験をしてみてもいいかも。もし大豆に近かったら豆乳とオカラが取れるよね? もしかしたら【増筋豆】と【魔増草】を合わせたら、オカラケーキ抹茶味が作れるんじゃないのか!? そしてそれに添えるのは豆乳ドリンク抹茶味。ヤバい、楽しみになってきた……。
「あ、この【増筋豆】って、コカコッコに与えても大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「【運魔】は?」
「【運魔】には育てた草体を与えて下さい」
「ありがとうございます」
「そういえばミーシャ=ニイトラックバーグさんは複数の従魔持ちでしたね。コカコッコも飼育予定ですか?」
「はい。あと十日程で雛が孵化するんです」
「雛には茹でた【増筋豆】をすり潰したものの方が良いですよ。雛に与えるのは二〜三日おきで一回に二〜三粒で大丈夫です」
「あの、注文するのは冒険者ギルドがいいんですか? それとも商業ギルドですか?」
「どちらでも大丈夫です。農業ギルドでも注文はできます。どこで購入してもお値段は変わりませんので」
「だったら冒険者ギルドで注文します。毎週一キーログラームでお願いします。毎週、一の日に受け取りに来ます」
受付のお姉さんは 「ありがとうございます」 と営業スマイルで返してくれるけど、若干引きつった笑顔に見えるのは気の所為ではないな。それでも大豆かもしれない豆を手に入れたのは嬉しいです。




