第412話
『魔導細工の文様学』という本があった。幾何学模様に魔法陣と同じ様な意味合いを持たせた魔導文様というのが存在するのだ。前世で言ったら魔除けの模様みたいな物なんだけど、前世と違うのはちゃんと魔力が関与して効果が発動するという点。バフというかエンチャントのかかる模様と言えば分かりやすいかな。オロール先生の古代エルフの刺し子しかり、『プラスセレブレイト』の手鞠や指貫しかり。俺は知らなかったけど、鎧下に防御力アップの文様を刺繍したり、武器の鞘に軽量化の文様を施したりするのが一般的だったよ。そしてその文様の数がとんでもなく多い。ザッと流し見したけど、前世の “ ザ・世界の文様本 ” って感じ。和風もあれば中華風もあり、中世ヨーロッパ風も中近東風も南米風もアフリカ風もある。そして幾何学模様でない文様もあった。前世日本の着物がこの『ハポン=ヤポン』に持ち込まれたら大変なことにならないか? って気がしてきたぞ。アフリカの壺とか中近東のタイルや絨毯、古代中国の焼き物とかも……いやどこの地域の工芸品を持ち込んでも凄い事になりそうです。
これは片手間に勉強するものではないと悟ったので、ちゃんと資料や教科書を買って学ぶことにした。
そして一番最初に探したのが麻の葉柄こと【魔増草】柄だったのは言うまでもない。
【魔増草】には【弩魔増草】と【超弩魔増草】という大型種が存在していて、その茎から採れる繊維で作った糸で布を織り【魔増草】柄を刺繍すると良いのだと書いてある。そして偽物の【魔増っぽ草】には注意しましょうとも書いてあるよ。刺繍にはドMや超ドMを使って、偽物はマゾっぽいのね。う〜ん、三つとも味が気になる。
魔法陣や魔導回路は魔法の基礎を学んでからじゃないと理解不能だろうから今回は資料を読まない事にした。まぁ、そちら方面に進む訳ではないので必要最低限の知識を得るだけの予定ではあるけれど。でも、俺がポーター氏族に片足を突っ込んでしまった以上、ある程度の知識は得ておかないといけない気もする。
閲覧を終了した事を告げに行ったら商業ギルドから呼び出しが来ている旨を告げられた。ミケヲさんからお手紙が来てました。昨日の今日でもう手紙が来るのかよ。流石、配送便の元締めだけあって私用しまくりだな。
「三毛皇様よりミーシャ=ニイトラックバーグさん宛に荷物と書簡が届いております」
「ありがとうございます。今ここで内容を確認したいのですが大丈夫でしょうか?」
「少人数用の談話室が空いております。そちらを施錠してお使いください」
談話室で箱の中身を確認する。入っていた書簡は俺宛で二通。うち一通には日本語で [ 極秘 ] と書かれていた。どうやら一通は共通語かドワーフ語で書かれていて、もう一通は日本語で書かれている模様。先に普通の封筒を開封する事にした。
「 従名誉猫獣人 ミーシャ=ニイトラックバーグ へ
名誉猫獣人パイク=ラック、並びに従名誉猫獣人ミーシャ=ニイトラックバーグ、双方に紋章を与える。受け取った日をもってこの紋章を使用する事を認める。各種族の紋章登記所に告知済みである故、安心して使う様に。
三毛皇 マーダーナイン=ミケヲ 」
と書かれた便箋と共にパイクお義祖父さま用と俺用の紋章を描いた紙が一枚ずつ入っていた。パイクお義祖父さま用は『ネコ車』の絵で、俺用は『コタツに蜜柑』。『ネコ車』の絵には [ 土木作業用一輪車 俗称:ネコ車 ] と書かれてあり、俺用の絵には [ 猫をダメにする暖炉に果物を添えて 命名:ネコロノミカン ] って書いてあった。猫炉の蜜柑じゃなくてそれはコタツで蜜柑だ。猫でなくても入るとダメになる暖房器具だ。
え〜〜、俺の紋章ってコタツで蜜柑なの? パイクお義祖父さま用のネコ車はドワーフなら喜びそうだけど。
そして箱の中には封蝋を押す時の印章が入っていた。これを押すのか。俺、スカラベとコタツ蜜柑の二つ紋章持ちになっちゃったよ。
気を取り直して日本語で [ 極秘 ] と書かれた書簡を開ける。
「 ミーシャへ
コタツ紋は気に入ってもらえたかね? 先日はリモンチェッロが飲みたいと言ったものの、吾輩コタツに潜りたくなったのだよ。ミーシャ君もコタツ好きでしょ? コタツでミカン食べたいよね?
コタツを開発して上様に献上したら、吾輩の茶室にコタツが下賜されるかもしれぬのよ。そうしたらヌクヌクできる訳よ。上様呼んで三人麻雀とか良くない?
まぁ冗談はさておき、コタツとネコ車を開発してはくれぬかな? ネコ車はドワーフにプレゼントするから。
と言う訳で、コタツ夜露死苦
追伸:尚、この手紙は読み終わってから三分後に消滅する。
by. ミケヲ 」
うっわー、日本語の手紙の酷いこと。そして一昔前のスパイ映画や秘匿通信アプリじゃないんだから。
うげっ、手紙から白煙が上がった!! 白紙状態になって、そこから砂状に崩壊してるし。マジぱねぇわ。うーん、依頼は消えてしまったが、これってコタツとネコ車を作らなきゃいけないやつなの?
パイクお義祖父さまにネコ車の印章を渡さなきゃいけなくなったので、家に寄ってから学生寮に、戻ることにした。




