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第405話

試しに仮眠してみた半地下は意外にも快適。石組みの部屋で、ほんのり漂うヒンヤリ感が何とも言えない。リンド=バーグさんが鍛冶仕事の時に仮眠に使うだけあって、空調も利いてるし湿っぽくもカビ臭くもない。こんな感じにするなら地下室を作ってもいいかもしれない。そりゃそうだよね、地下牢や地下墓地じゃないんだから土壁丸出しの部屋な訳が無い。折角なので今夜は半地下で寝てみよう。アンディーも石壁というか石垣状態の壁を楽しそうに登り降りしている。



「地下室にワインやブランデーを置いたりしないんですか」


「一般家庭ではやらない、いや、やれないんだよ」


「法律的にですか?」


「置いてもすぐ飲んでしまうからな。熟成するまで待てないし、すぐ飲み切るから保管のしようがない」



デスヨネー。理由は単にドワーフあるあるだった。闇堕ち?したドワーフを捕まえたければ、地下のワインセラーに酒瓶や酒樽を置いておけば簡単に捕まえる事が出来るというネタがヒト族の間でまかり通っているそうだけど、強ち嘘ではなさそうだ。


アリサお姉ちゃんが【プラントオーク】の塩ダレ煮込みを買って来てくれたので、大麦パンと【茄子花芋】とチーズを添えてエールで乾杯する事にした。地下室に置いていたからといってエールの樽がキンキンに冷える訳では無い。それでも常温よりは少し冷たいけど。その微妙な冷え具合のエールにキリッと冷やした【(あか)茄子】ジュースを加えたら、アッという間に冷えた【血祭り(ブラッディ・フェスタ)】に早変わり。美味いものは美味い。気兼ねなく飲める日が待ち遠しい。



「今、ドワーフが総力を上げて【(あか)茄子】確保に動いているそうだ」


「そうなんですね。でも植えても急には育たないですよね?」


「彼方此方の亜人や獣の人達とも交易する事にしたそうだ。それで鍛冶や工芸品界隈の動きが慌ただしい」


「そこまでですか?」



ドワーフ、支払いの現金が足りなくなるぐらいに飲む気かよ。



「現金払いの他に、武具や工具、工芸品などが求められているからな」


「そっちだったんですね。ボクはてっきり……」 


「てっきり?」


「現金が足りなくて物々交換するのかと思っちゃいました」


「ハハハハ、それは無いから安心してくれ。これでもドワーフはレア鉱石の仕入れ用に金貨だけは切らさない様にしているからな」


「それなら安心しました」



いや、その大事な虎の子のレア鉱石の仕入れ代を飲み代にしてしまっていいのか?



「今の所は対象の職人とその家族にまでは “ 交易で忙しくなる ” までは通達が来ている。俺の場合はミーシャが絡むから少しだけ詳しく聞かされている訳だが」


「ボクがですか?」


「遅かれ早かれヒト族領が販路の中心になる訳だろ? その前に亜人と獣の人とで十分な生産量を確保しておき、その時が来たら皆で儲けようと言う作戦だそうだ」


「それ、ボクなんかに話していいんですか?」


「いいも何もミーシャ自体当事者だが」


「えっ!? え……あっ、そうですよね」


「俺の他にもあの『()()』で最初から一緒だったメンバーには通達が行ってる。交代メンバーにも通達されているかもしれないが」



何だかどんどん大事になっていってないか? 他の世界に異世界転生した人達もこんな気持ちを味わっていたのだろうか?



「ミーシャも売り出したい仕事や作品があれば名を上げるチャンスだぞ」


「ボク、まだ駆け出しですから」


「いやいや、鉱石研磨に関してはそこそこ実力はありそうに見えるが。そうだ、綺麗に研磨したスライムの死核は対エルフ交易品になるんじゃないか?」


「スライムの死核ですか?」


「前に磨かせた時に出来が良かった。あれはエルフに渡すと喜ばれそうだ」



それは確かにエルフ向け商品にいいかもしれない。ただ、目論見通りの開発は全く進んでいないけど。



「あの時のですね。でも、研磨しただけで付加価値を付けるまでに至っていなくて……」


「でも世界樹がどうこうとか考えている事は有るんだろう?」


「はい」


「なら、最初はエルフ相手にスライムの死核のみで納品しておいて、少しミーシャの仕事が知れ渡ってから世界樹アイテムを売り出せばいい。差し支えなければ何を作ろうとしているか聞きたいんだが」


「古代エルフのオロール先生から【()海鞘(ボヤ)】の外殻を頂きまして、それを上手いこと加工してそこにスライムの死核を組み込み、世界樹ランプという物を作ろうと目論んでいます」


「それはエルフ以外にも売れそうだ。しっかり研究して決して安売りしない事だ」


「はい」


「真面目なお話してる時にゴメンね。ミーシャちゃん、私は【ホヤッキー】も交易品になると思うよ」


「そうだな」



勝手に決まる俺の仕事。まぁスライムの死核には試してみたいことが二つある。一つ目はファセットカットを施す事。つまりダイヤモンドみたいなカット石の姿に研磨してみたい。まぁ、ブリリアントカットでなくてもいい訳で、均等割りしたファセットカットでもいいし、フリーのファセットカットでもいい訳だし。スライムの死核は柔らかいから、ちゃんとファセットカット出来るか不安だけど、失敗したら失敗したで液肥にしてしまえばいいのだから気楽なものだ。


そして二つ目は切子細工を施す事。その為にもアルチュールさんにはヤスリ作りを頑張ってもらいたい。目標はスライムの死核の内側をくり抜き外側に切子細工を施したショットグラス風にする事。流石にそれで酒は飲みたくない。


よし、最初はダブルカボションカットと勾玉で売り出そう。



「リンド=バーグさん、作業のヒントをありがとうございます。ボク、スライムの死核に試してみたい事が色々浮かびました」


「そえか、それはよかった。それとは話は変わるんだが、スプーンやフォークの製作も盛んになるはずだ。数打ち出来るからスキルや技術の取得をしたかったらチャンスだぞ」


「スプーンって実は結構難しいですよね」


「拘ればそうなる。スプーンとフォークで技術を磨けば次はナイフ作りに進む。そこで刃物打ちの初歩が学べる。覚えておいて損はないんだが、鍛冶師を目指すわけでなければ数打ちするチャンスがなかなか来ないのがネックでなぁ…」


「それ、美味しいかも」


「事実、美味しい話だ。刃物打ちの初歩に片足を突っ込んでおけばそこから本格的に学ぶのは何時でもいいし、別に学ばなかったとしても差し支える事もない。炭焼き実習は触りの箇所だけ数年間顔出しすれば累積で正式な単位に変換されるしな」


「スキルが有っても毎回インゴットから打ち出すのって大変ですよね」


「あ…聞いてないのか。打ち出しのスキルが生えたらそこから先は任意で練習だ。スプーンは鋳型を作って平たいスプーンの形に鋳造し、それを叩いて形を出すのが一般的だぞ。フォークも似たようなものだな」



あ……ヴォルド親方に軽く騙されてた感じだよ。

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