第398話
商業ギルドに希望食材リストを提出。焼き鳥と餃子と春巻きは商業ギルドの職員さんに仕込みをお願いすればいいので一から俺が作らなくとも大丈夫。冷やしエールはパイクお義祖父さまに実演してもらおう。後は宴会メニューの定番、フライドポテトだ。俺の登録したメニューではないけど、居酒屋っぽさを出すにはフライドポテトは必須。そうだ唐揚げも要るだろ。白い粉、つまり片栗粉は俺の登録案件だしな。そしてソーセージもお願いしておいた。
何だろう、この会費三千円の歓迎会っぽさは。もしくは会費五千円で飲み放題プラン。面白がって熱々のオシボリでも出してみようかな。
夕刻も近付き、黄昏時にはまだ早い時間に三毛皇さんが商業ギルドに姿を現した。お付きで白猫の人が二人来ている。お忍び来訪なのでそそくさと商業ギルド支部長室に潜り込む。そして歓迎会は調理室なのだから偉い人が来た感じが全くしないぞ。
「これはこれは三毛皇様、お元気そうで何よりでございます」
「うむ、今回は非公式だから堅苦しいのは無しだ」
「今回の訪問理由は何でございましょうか?」
「そこの名誉猫獣人パイク=ラックに新年飾りの礼を伝えるのと、依頼品の為に吾輩の採寸をしてもらおうと思った。後はパイク=ラックの養子にも献上品の礼を伝えたかったのでな」
「三毛皇閣下、ありがとうございます。何時でも申し付けてもらえればお望み通り作りますのじゃ」
「三毛皇様、ありがとうございます」
「吾輩、堅苦しいのは無しと言っただろう?」
「それでは失礼して」
「その養子、いや養女かな。名前を教えて貰えるか?」
「はい。ボクは名誉猫獣人パイク=ラックの庇護養子のミーシャ=ニイトラックバーグです。宜しくお願い致します」
「ミーシャか。ニートと言うのは?」
「三毛皇様、ニートではなくニイト、新しく加わった者という意味になります。ボクには二人の身元保証人がおりまして、一人がパイクお義祖父さま、もう一人リンド=バーグさん。その両名の氏族名を頂きました」
「ニイト ラック バーグ と言う事か」
「はい」
三毛皇さんと言うかミケヲさん、絶対遊んでるよね。分かっててワザとニートとか言ってるだろ。そして堅苦しくなくていいとか言ってるけど、まぁ無理だよね。
「何かと目が離せないのじゃが、発想力豊かで自慢の孫娘なのじゃよ」
「孫娘?」
「はい、本来なら書類上では娘になるのですが、ボクが我儘を言ってパイクお義祖父さまとお呼びしています」
「なるほど。ミーシャ=ニイトラックバーグ、数々の献上品、吾輩は嬉しく思うぞ」
「ありがとうございます」
「吾輩調べでは、最近数々の登録をしたとか。噂の食べ物も気になっておる」
「三毛皇様、食べ物と申しますと?」
「商業ギルド支部長は知らぬだろうが、そこの名誉猫獣人から吾輩に宛てた手紙の内容は孫自慢が過ぎていてだな、吾輩、羨ましくもあり興味もありといった所だ。献上品とは別の物も食べてみたくなったと言うのが本音だね」
「三毛皇様、本日は非公式という事ですのでささやかな夕食会ではありますがお食事の方を準備させて頂いております」
「それは楽しみだ」
「それでは部屋を改めましょう」
本来なら新案件を試作する為の調理場で他種族のトップを饗したりしないんだけど、こればかりは仕方ないよね。
「マーダーナイン=ミケヲ様、部屋も食材も特に悪意や異常は感じられません」
「うむ、ネロ、ご苦労」
「それではこれより仕上げをいたします。ミーシャ=ニイトラックバーグ説明を頼む」
「はい。これはドワーフ領での流通名は【鉱滓包み】、ヒト族向けでは【巾着包み】と呼ぶ料理です。小麦粉を練って薄く伸ばした皮で肉と野菜を混ぜたタネを包んでフライパンで焼きます。焼くだけでなく茹でたり揚げたり蒸したりする事も出来ます。今回はバリ付き、【鉱滓包み】を焼く時に小麦粉を水で溶いた汁を入れ、焼き上がりに羽が付いた様に見える焼き方で作ります」
「何故かね?」
「湯口から金型に溶けた地金を注ぐ時に地金が零れ落ちるほどの素材がある幸せ、というイメージです。ボク達ドワーフにとって有り余る程の素材というものは幸せの象徴ですので」
本当は羽付き餃子なんですけどね。だってパリパリの羽付き餃子は嬉しいもん。
「それを豆の発酵した汁、魚醤の豆版と【リモー】の搾り汁とを合わせたタレを付けて食べます。好みでピリ辛の調味料を加えても構いません」
「斬新だな」
「【包み揚げ】はクレープの皮で具を包み油で揚げた料理になります。中の具は【デンプン】、流通名は【カルトープン】という白い粉でトロミをつけています」
「白い粉かね」
「はい。【茄子花芋】から取り出しました。様々な料理に使う事が出来ます。三毛皇様に献上した【鉱夫飴】や【プルモッチ】の材料もこの白い粉です。下味を付けた鶏肉に白い粉をまぶして油で揚げる【カラリ揚げ】もお出しします」
「吾輩、実に興味深いね。その白い粉はヤバい粉かもしれないぞ。それだけ色々と使えるのならば、さぞかし高価な物に違いないだろう」
いや、前世で普通に知ってるでしょ。和三盆じゃあるまいし末端価格は高くないですから。まぁ、ミケヲさんが楽しそうだからいいんだけどさっ。
「そして、焼き鳥。一口大に切った鶏肉と【緑白葱】とを交互に串に刺し炭火で焼きます。味付けは二種類、塩と挽いた【長胡椒】を振り掛けたものと、豆の発酵した汁と水飴を合わせたタレを塗ったものです」
「さっきから豆の発酵した汁と言っているが、どの様な物かね?」
「ドワーフ語ですと【粗相豆】、古代エルフは【つゆ豆】と呼んでいるのですが、こちらになります。これが豆の蔓から生えています」
ミケヲさんに魚の形の醤油入れに入った醤油を見せた。どうだ、驚きやがれ。
「こっ、これは……」
昨夜、ちょろっと説明しておいたけど、日本人として生きてきた記憶があればビックリするよね。どう見ても魚の形の醤油入れだろ? しかもこれ、生えてるんだぜ。
「それも、お魚……」
あっ、噛んだ。




