第386話
鑑定結果は一号も二号も同じだった。同じ箇所で採掘された物なんだろう。と言う事で、一号の鉄分を除去する事にした。うん、鉄分除去ってやった事がない。覚えたら鉄鉱石から鉄を分離したり、砂から磁石なしで砂鉄を分離出来るって事? ホウレンソウから鉄が分離出来たらそれはそれで怖いけどな。
『鉄分除去』を念じてみる。う〜ん、分離出来てる感じが全くしない。もしかしたら鉄や貴金属といった有益金属の分離は取得の難易度が高いのかもしれない。これはひょっとしなくても部屋でゆっくり作業した方がいいかもしれない系じゃないか? まぁ練習用なんだし、最悪、鉄分過多の岩塩でもいいじゃないか。
部屋に戻ってクローゼットに岩塩を仕舞おうとしたら発芽し始めたモヤシ発見!! 忘れてたよ。クローゼットに岩塩入れちゃダメだ。モヤシ栽培の湿度で溶ける。そうだモヤシの水を替えてあげなきゃ。食べられるくらいにまで育つのに一週間くらい掛かるのかな? 一週間と言っても前世の感覚だから七日間だな。凄く小さい大豆の豆モヤシが生えてきたって感じ。
(「ますたー たべるの?」)
(「まだだよ。もう少し育ってからかな」)
(「あたち たのちみ」)
(「ボクも楽しみだよ」)
クローゼットを閉める。モヤシよ順調に育ってくれ。モヤシと言えばアブラ増しの野菜増し増しのニンニク増しなラーメンを思い出すなぁ。
「アンディー、今日は午後から学園に行くよ。学園の従魔待機場所で過ごしていてね」
ムキュウ
「ちょっとだけ岩塩のクリーニングを試したいから待っててね」
キュウ
机に拭き草を敷き岩塩一号を置く。そして念じるのは『汎用魔法』で『鉄分除去』だ。鉄分抜けろ抜けろ!! 鉄がイオン化してるとかではなく、この茶色いのは多分鉄錆だろう。なので、単純に鉄錆としての鉄分が岩塩から除去されるだけでいいんだ。鉄錆抜けろ!!
いっそ『鉄錆除去』にしてみるか? 集中し過ぎてるのか軽くフワッとした感覚に襲われる。もう、ね、『汎用魔法』じゃなくて『除去魔法』って感じだよね。
『鉄分除去』、『鉄錆除去』と唱え続けていたら拭き草に茶色い粉が付着して…いる? これ、除去出来る様になった? でもまだまだピンクだよな。除去が足りないか。抜けろ抜けろ、鉄分抜けろ、鉄錆抜けろ!! 抜け……て、あれ、 ふわふわ 抜 け ……
(ムキュウ!! ムキュウ!!)
遠く で、ア ン ディー ……な に?
(「ますたー!! ますたー!!」)
(「ますたー だいじよぶ?」)
(「ますたー!!」)
ムキュウ ムキュウ キュウキュウ キュウキュウ
(「ますたー たいへん なの だれか なの」)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――― ここからアンディーの視点です。全部ひらがなだと読み辛いので漢字を使って書いていますが、アンディー的にはひらがなで思考しています ―――
ムキュウ!! ムキュウ!!
あたち、大きく鳴きながら学生寮から飛び立ったの。軽やかに滑空ちて……ベチッ、地面に落下ちた。そのまま走り出すと職校の玄関ロビーに駆け込んだの。良くますたーと来るからこの場所は知ってるの。
ムキュウ!! ムキュウ!!
(「ますたー たすけてなの」)
ムキュウ!! キュウキュウ!!
(「ますたー たいへんなの」)
暫くちたら騒ぎに気付いた人が玄関ロビーに出てきたの。ますたー助けてなの。お願いなの。
「君はどこの子かな? ご主人様と逸れたの?」
ムキュウ!! キュウ
(「ますたー おへや」)
「うーん」
ムキュウ!! ムキュウ!!
(「ますたー たすけてなの」)
「私は従魔系のスキルを持ってないからなぁ。君は何を伝えたいの? あ、タグか。従魔証」
ムキュウ!! キュウ
(「ますたー おへや」)
「えー、種族:グライダー・カーバンクル 名前:アンディー 所有者:ミーシャ=ニイトラックバーグ」
ムキュウ!!
「ん? 君のご主人様のミーシャ=ニイトラックバーグは授業…ではないな。さっきタイムカードの処理をしていた。アンディー君は逸れたの?」
ムッキューウ
(「ちがうの」)
ますたーとお話ち出来るけど、ほかの人とお話ちできないの。ますたー助けてなの。ますたー、どうちよう……。
ムキュウ!!
あたち、胸のタグを触ってみた。そちて「ミーキュ」と鳴きながら倒れてみたの。もう一度立ち上がってタグを触って「ミーキュ」と鳴きながら倒れてみたの。
「ん? どうしたの?」
どうちよう……。あたちはムキュウと鳴きながら、右の前脚の爪でカリカリと床を引っ掻く。ますたーみたいにお絵描きちたら伝わる?
カリカリカリカリ
「あれ? アンディー君って何か書きたいとか?」
ムキュウ!!
(「かくの」)
あたち、前脚で胸をトントンと叩いて、やれるのアピールなの。気づいてなの。
「はい。何か書きたいの?」
先の尖った短い棒を握ってお絵描きちたの。ますたーの絵、かみのけ、おひげ描いたの。隣にあたち。わかる?
「あー、子供の落描きみたいだけど、これは成人済みのドワーフの絵を描いたんだな。脇にいるのはアンディー君?」
ムキュウ
(「そうなの」)
通じたの!! あたち、ますたーの絵を触って倒れたの。教えるの。
「どうしたのかな?」
ムキュウ!! ムキュウ!!
(「ますたー たすけてなの」)
もう一回なの。あたち、ますたーの絵を触って倒れたの。教えるの。
「えっ? このドワーフってアンディー君のご主人様? 倒れたの?」
ムキュウムキュウ、ムキュウムキュウ
あたち、頭振ったの。いえす、頭振るの知ってるの。
「ちょっと待って!! それって本当? 倒れたって何処で!!」
あたち、また短い棒を持って、ますたーの脇にベッド描いたの。
「これ、ベッド? 学生寮の部屋って事?」
ムキュウ!!ムキュウ!!
(「なの ますたー たすけてなの」)
あたち、頭振ったの。いえす なの。
「従魔がここまで騒ぐのだから、念の為、部屋を見に行こう」
キュウキュウ
(「ありがとなの」)
あたち、この人の背中に貼り付いた。早く、早く!!
「ミーシャ、ミーシャ=ニイトラックバーグ!! 聞こえてるか? ミーシャ=ニイトラックバーグ!!」
ますたー、まだ倒れてるの。たすけてなの。
少ししたらお部屋にドワーフ来たの。一、二、三。教えた人、連れてきたの。
「これは……急激な魔力消費による昏倒のようだな。岩塩に何かしたのかね?」
「これ、元は購買部の岩塩ですよね? 高品質になってますよ」
「まさか鉄錆を…抜いた?」
「だとすれば相当量の魔力を持っていかれた可能性があるな」
「鉄は魔力食いですからね」
ドワーフ、ますたーを部屋から出したの。あたちも連れ出されたの。ますたー、だいじょぶ?




