第379話
「それって面白い……」
これだよこれ。如何にも異世界の研磨事情って感じよ。つまり、【星留】の効果の発動回数が微妙に違ってくるのも未研磨状態だと確実に判定が出来ないからなんだろうな。
「あ、もしかしてミーシャちゃん、ここにある原石を全部研磨してみたくなったとか?」
「いや、全部とか無理ですから」
「おや、ちょっと期待してたんだけどね」
カーネリアンとオニキスの大量手研磨は勘弁して下さい。せめて大まかな成形だけでも機械研磨させてもらわないと無理です。足踏み式のロクロに円盤砥石を取り付けた物ぐらいあるよね? 足踏み式でなくてゴーレム式の方が楽でいいけど。
「この辺りがいいかな? って思ったんだけどジョンノ=レーン氏的にはどう見ます?」
「補正値が二〜六かな。【血肉石】四石だけでいいの?」
「【鯨縞石】もお願いします。反動の消え加減を試したい」
「アリサ、そこは値段を聞いてからにしてくれ」
「ここにある原石は全て選別済みだからね、このグレードなら普通は【血肉石】は一石が金貨一枚から。【鯨縞石】は【血肉石】の二倍超。まぁ一石が金貨二枚だと思って貰えればいいかな」
「うっ……、結構するな」
「いやアリサ、それは卸値に近いぞ。そこに研磨料が追加になるからな」
「目方売りじゃないから安心してね」
研磨したら確実に強化石になるのが分かっているんだから高いのは仕方ない。カーネリアンだったら全てが攻撃力upの強化石になる訳じゃないだろうし。そして当たり前だけど目方売りの場合もあるのか。
「そうだね…、私はミーシャ=ニイトラックバーグに仕事の依頼をしたいんだけど、請けてくれたらそれ、八石で金貨十枚にしてあげるよ」
「ミーシャちゃん、請けよう」
「え……依頼内容が不明瞭ですよ」
「私の依頼はだね、その八石の原石状態で見た推定での補正上昇値を教えるので研磨状態でどうなったか教えてもらいたいんだ」
「それはボクも知りたかった内容です」
「よし、ミーシャちゃん、請けよう」
「それとは別に研磨依頼していいかな? この【肋肉石】と【血肉石】を研磨してもらいたい。推定強化値は秘密と言う事で。研磨料は一つ金貨一枚でお願いしたいな」
「請けるのはいいですけど、これって職校の単位分に申請できますか?」
「内容的に職校でも学園でも単位申請出来ると思うよ」
「請け……ます」
所詮は研磨の魅力には抗えないという事でしたよ。しかも研磨品は己の懐を痛めていないという贅沢仕様。だからって十石も研磨しちゃいかんな。
「石には印を付けておいたから。それと推定値の一覧ね。研磨が出来たら装備に使う前にチョットだけ見せて欲しいな」
「強化石の数値は鑑定スキルで見えるものですか?」
「それは人それぞれかな。職校や学園には測定の魔道具があるから乗せてみれば直ぐに分かるよ。後、その二種類は結構硬いからね。底面を決めるのに魔道具を使った方が効率的に仕事が出来るよ」
「情報ありがとうございます。ボク、入校してから日が浅くてよく分かっていないので」
「あ、そうなんだ。ラルフロが青田買いしたくなる理由が分かるよ」
「種類は多くないけど厳選した原石は有るから見においで」とお誘いを受けてしまった。【運魔】用に使える強化石の勉強になるからそのうち訪ねる約束をした。お姉さんのジュノ=レーンさんの仕事も気になるし。
原石はカーネリアンには混ぜ墨でナンバリングされていた。そしてオニキスには赤いインクで書いてある。つまり赤い混ぜ墨も有るって事だ。これは部屋に帰ったらスケッチだけでもやっておくべきだろう。それより、赤の縞メノウの名前が肋肉石なのか。鯨縞石は鯨の脂身の色味からきてるんだろうな。他の鉱石の異世界名称が気になる。
強化石の原石を入手した後に連れていかれた食堂は『キッチン・バーバリアン』。冒険者や肉体労働者に人気のガッツリ系の食堂兼酒場で、ドワーフサイズぐらいまでの従魔ならテーブルに同席させる事が可能。席料さえ払えば従魔の食べ物は注文しなくても構わない。まぁ、生肉とか焼き肉とか野草クッキーはメニューにある訳ですがね。
アンディーが野草クッキーを欲しがったので必然的に一緒に……、まぁそう言う事だよ。隣のテーブルに座っているお客の従魔の【手持ち豚】や【坑道ネズミ】が薬草クッキーを口にする俺の事を見ているんだけど気の所為か?
そして、[急募:氷魔法の使える方] と言う張り紙を発見。どう考えてもアレだよね。冷やしエール要員。冷やしエールもそろそろ酒場デビューの時期らしい。
アリサお姉ちゃんのバトルアックス用の強化石は無理のないペースで研磨するということになる。研磨代は現金でもいいけど現物支給という事で、【粗相豆】や【蔓野豆】、【鶏餌草】なんかを採取してきてもらうことにした。あわよくば【橅麦】も。そして【魔増草】を見てみたかったので何株かを採取してもらうお願いをした。ちなみに薬草は外傷を治療する【外薬草】と病気を治療する【内薬草】とがある。薬草単独で服用しても効きがイマイチなので、複数の素材を加えてポーションや粉薬に加工してからの服用するのが正解。誰でも使えるから回復魔法よりお手軽だよ。勿論、【魔増草】もポーションに加工してから飲んだほうがいいに決まっている。魔力回復ポーションが緑茶っぽい味だったらどうしよう。
アリサお姉ちゃんは早く研磨して欲しそうだったけどリンド=バーグさんが斧頭を打つのが先だし、リンド=バーグさんも強化石の取り付けに関しては学園に学びに行かなきゃいけなかったよ。しかし毎日何かしらのイベントというか出来事が発生するので飽きないと言うより、ぶっちゃけ疲れるわ。
そして部屋に戻ってから推定強化値が秘密の【肋肉石】と【血肉石】を鑑定してみたら驚きの結果が。カテゴリー違いなのか鑑定スキルさんがちゃんと仕事をしてくれない。
(鑑定)
【肋肉石】:紅白の縞メノウ。推定強化値=+?
【血肉石】:カーネリアン。推定強化値=〇?
俺の鑑定だとマルかバツしか出ないのか。ザックリでも数値が見える様にならないものか。でもこれはもしかして、カーネリアンを研磨したら残念、ただの綺麗な裸石でした!! って可能性が有りなのかな?




