第374話
午後一時になったので炭焼き窯が開封された。窯はきっちり冷えているのでいきなり開けても大丈夫なのだけど、一応授業なので段取りを踏んで開ける事になる。
「いいか、もししっかり徐冷ができていない状態で窯を開けた場合、温度によっては炭が燃える!! なので、『熱視線』持ちは必ず温度を確認すること。色が見えたら開けない方がいい。『透過視』持ちが居たらそっちに頼むこと。上位鑑定でもいい。心配だったらもう二〜三日放置すればいいだけだ。何にせよ焦らない事が成功の近道だ」
「先生、もし炭が燃えてしまった場合はどうすればいいですか?」
「今更蓋をしても仕方がないからな。諦めて肉でも焼けばいい。と言うのは冗談だ。再度蓋をして白炭にする方法は有るが、品質が落ちるから自家消費用にするしかないな。いっそ綺麗に白灰にして肥料や釉薬に回すとか…だな。水に溶かして灰汁にしてもいい」
「あまり使い道が無いんですね」
「基本は失敗しない事だからな。材料を無駄にしないことは大事だが、折角作るんだからちゃんと成功させてくれよ」
スキルが無ければ数日待つか温度を測る魔道具を使えばよし。
窯を封印した粘土を取り除く。焼けてすっかり固まっている。壊した後は土魔法の素焼きの土器を粉砕して土に還す魔法『土還』を使っておく。今日も元気に『土還』をキメたら『注水』使って良い粘土だ。少しくらいの量の土器だったら地面に叩きつけて陶工ごっこで壊せばいいけどね。この再生粘土は次回の炭焼きの時にまた使われるのだった。
土器と言えば、 「フム、この土器ではないらしい、すててこい。俺の求める陶器はまだ遠い!!」 「土器、土器、どいつもこいつも土器!!」 というセリフを吐く “ 自称=天才 ” の陶芸作家(大作家のニセモノ)が出て来る漫画があったよなぁ……『北陶の権威』だったか。
素焼きの土器以外、釉薬のかかった陶器も『土還』で粘土に戻す事は可能だけど若干土の質が変わるみたいだ。大量の土器や陶器を割る時は『汎用魔法』の『火藁割り』が便利。硬い土器でも火に藁を焚べた時の様にスルスル砕ける。順番的には『火藁割り』→『土還』→『注水』。そこから練れば再生粘土の出来上がりだ。
取り出された炭は中程度の品質だった。普通に売りに出せる品質でした。市場エリアの食堂に安価で卸すのだとか。すると “ 本日使用した炭は職校生が作りました ” とお知らせが貼り出される。高品質の炭は鍛冶師が普通に買いに来るんだって。担当した生徒に工賃が入り、残りは職校の運営費に回るよ。
炭を取り出した後は黒スライムの出番。炭焼き窯の中を綺麗にしてもらう。残った灰を掃き出し『浄化』を掛けたら終了。竈神キャシーにお酒と山から汲んできた湧き水をお供えしたら竈終い。次の炭焼きまで窯はお休みだ。余裕があれば焼き上がった炭で湯を沸かしお茶を煎れてお供えすると尚良し。
炭焼き窯が無ければ魔法を使って炭を作ればいいじゃない、と言った姫様がいたとかいないとか……。一応、魔法でも炭は作れる。切り出した木材の水分量を減らしながら炭化させる…んだけど、水魔法に火魔法、加圧も必要なので重力魔法もしくは空間魔法、更に消火には風魔法まで必要なのだ。賢者でもなければ一人で作業出来る訳がない。しかも完成するのは数本だ。それを考えたら炭焼き窯を使えば一人で作業出来るし完成する炭の量も多いのだから、普通に昔ながらの手法で人力で作るのが理に適っているって訳だ。
ちなみに、全工程を魔法のみで炭を作った後の疲労感というか虚脱感というか虚無感の事を “ 賢者タイム ” と表現するのだが、殿方が果てた後のソレを “ 賢者タイム ” と言うのはこの全魔法炭焼き行為からきているのだとか。
そして、賢者賢者と言ってるけど魔法のみで炭を作る場合に適している職業は死霊術師だった。死体を木乃伊化する時と魔力浸透の工程が似ているらしい。まぁ言われてみれば木のミイラっぽいよね。どちらも保存が利くし良く燃えるし。
パート君達はもう一順炭焼き実習があるので引き続き頑張ってもらおう。今は時短のために木を伐採し乾燥させているところだとか。正式に炭焼き実習を受講した場合、初回の指導入り炭焼き込みで二回、可能ならば年内に三回目を済ませておけば来年度以降の炭焼き実習参加は不要になる。たまに四回目まで突入する生徒がいるらしいけど。まぁ専攻によっては数年分の炭焼き実習参加実績が必要だけどね。ちなみに俺の申し込んだ体験参加は何回受講しても構わない。十回、二十回と参加したら炭焼き実習の正式単位として認められるみたいだけど。いや、それって十年、二十年かかるじゃん……。
「研磨用炭の炭焼きは来年。年が明けたら日程が発表されるから参加希望者はこまめに掲示板をチェックしておく様に。材は講師陣が用意しておく」
研磨炭も焼くんだ!! 鉱石研磨には使わないけど興味はあるんだよなぁ…。日程が合えば参加しよう。そうか、初回の実習を済ませないと参加できない実習が結構あるんだな……。




