第373話
「ヤッホー、ミーシャちゃん元気してた?」
「アリサお姉ちゃん、こんにちは」
「後で研磨のお願いがあるんだけど」
「ボクでよければ」
「詳しい話は晩ご飯の時にだね」
俺に研磨依頼って何だろう? また何かの化石とかなのかな?
アンディーは俺の背中にしがみついている。やはりこの場所にトラウマがあるのかと思って聞いてみたら違ったよ。どうも他のカーバンクルの気配がしたとかで、反射的に力が入ってしまったらしい。
遠くから 「あーっ、逃げられた!!」 という声が聞こえてくるからカーバンクルは転がっていったに違いない。カーバンクル、生きろ!!
アリサお姉ちゃんは『旋斧鬼』のメンバーに稽古をつけてもらっていた。って、相手デカっ!! 小振りのオーガかよ…と思ったら違った。良く見たらドワーフ二人が肩車状態。その肩車状態の上の人が斧を振るっている。
「あれは対ミノタウロス戦法『ミノ倒す』の練習だって。肩車の二人がミノタウロス役だよ」
「あ、ジョーブ=ヤークさん、こんにちは」
「お、ミーシャも来たんだな。ずっと顔を見ないから心配してたぜ」
「パート=ラッシュさん、こんにちは。ボクは何かとバタバタしてました」
「楽しそうだよな、対ミノタウロス戦法。俺は『ミノ盾役』に憧れるな」
「あれ、ミノタウロス役ってあんなに暴れて大丈夫なんですか? 上の人が落ちたりしません」
「脚役が『襷着る』のスキルを使って、腕役が『騎馬一族』のスキルを使って固定してるんだって。双方が『襷着る』を使って『二重襷』にするやり方もあるって言ってたよ」
「本来はあの肩車状態でミノタウロスと戦うんだぜ」
特殊戦法だな。確かにドワーフは力はあるけど身長が足りないもんなぁ。肩車したからって凄くデカくなる訳でもないけど。
「あの戦法ってもしかして、【運魔】と組んだらケンタウロス戦法になるんじゃ?」
「それ、言ってたよ」
マジかー。となると俺の予想では鳥と合体したハーピー戦法や大蛇と合体したラミア戦法、鮫やイルカもしくは大型魚と合体したマーマン戦法もあるのでは?
とか考えてみてたけど、俺の妄想上の戦法なんかではなく合体戦法は実在していた。『騎魔委等戦闘法』に纏められていて、実際に異種族で合体して戦えるとの事。ただ元の魔獣の動きを模倣してバリバリと戦闘が出来るまで使いこなすのが難しいのでそこまで普及はしていなかった。そのやり方を伝えたのは昔の転生者でジャンキー=ピエーンと言う名の武人。様々な魔獣の動きを模した攻撃が得意で、ついには魔獣に乗って人馬一体ならぬ人魔一体で戦い、ヒト族ながらにしてキマイラを再現したのだという。
まさか中国拳法の形意拳が元ネタなの!?
と言うことは兎獣人にカマキリ拳法の使い手がいるとか何とかゴニョゴニョ……。いや、複数で合体して戦隊ものの巨大ロボみたいな……、どうせなら前世のアニメの『神魔獣』みたいに六身で合体をしないものか? 武器は巨大ドリルね。ドリルは男のロマン。
『脈見役』のマック=アーサーさんがいたので『スワロー』に拠点を構える計画があることを伝えておいた。どの種類であれ【母体樹】を敷地内に植える時には水回りの決まり事があって、水道を引いているか井戸があるか、風呂の有無、排水溝の位置とかを意識しなきゃいけなかった。土地から家屋から新規で入手する場合は比較的安心というか楽みたいなので良かったけど。
家屋を建てる前に図面が八割方決まった時点でマック=アーサーさんにチェックを入れてもらう約束をした。土地は地脈を見て決めてくれるそうなのでどこに建てるかは向こうに任せればいい。検脈師は『ハポン=ヤポン』の何処にいても連絡が付く職業なので、『スワロー』郊外エリアの整地が済んだら商業ギルドから連絡が行くんだと思う。
「おーっっ、ミノタウロスvsケンタウロスの模擬戦かよ」
遠巻きに見物していた職校生達がにわかに騒ぎ出した。ドワーフの演じるミノタウロスvsケンタウロス戦、意味がよく分からないけど何だか凄いわ。
「野生のケンタウロスはバールの様な物は装備しないけどな」
「そのバールの様な物を振りながら『石鏃』を撃つか、『石礫飛礫』を単発発動させると弓矢の様な攻撃に見せかけられるね」
「その偽装、何か意味有るかぁ?」
つまり、ケンタウロスの上半身=人部分の担当がチーウ=エーツさんって事か。馬部分はワギュだった。
「おい、あのケンタウロス役、盾でミノタウロス役の攻撃を防いだ後にバールで殴りかかってるぞ」
ケンタウロスはそんな攻撃はしてこないと思う。いや戦ったことがないから絶対に無いとは言い切れないが。コント:こんなケンタウロスは嫌だ で取り上げられそうな攻撃だし。
そして派生技で人で梯子を作ったり吊り橋になったりしそうだ。戦場や山岳で役に立ちそうな気がしないでもない。だからって使い捨てされても嫌だけどな。
「もっと人数が居たら対ジャイアント・センチピード戦闘も訓練できるぞ」
「百足とは戦わないので結構です」
「ヒト族領だと騎士団の訓練でやってるから興味があれば申し込めばいい」
騎士団、足並みを揃える訓練の一環で百足競争をやってるんだって。ラジオ体操といい百足競争といい、昔の転生者は面白がって何を伝承してるんだよ。




