第372話
職校は外の仕事に関しては、何処から何を受注したかの報告をする必要はあるけれど、いくらの仕事だったか報告する必要はない。あからさまにボッタクられたと感じた時は報告してもいいけれど。まぁ言ったところで相場を知るとか技術の安売りをしない事を説かれるだけなんだけど。悪徳業者には指導がはいるらしいので騙されたっぽい時は恥ずかしくても要報告だ。
明日は午前中に針打ちのチュートリアル、初回体験をするので申請しておく。午後はハーレー=ポーターさんと【パラパラポンチ絵】と【コンロ】の打ち合わせだ。これも一回で終わらない気がする。
さぁ納品に行くか。契約だと一つ銀貨三枚だったけど、どれくらい色が付くかな?
「出来たのか」
「はい、追加は【百合の星留】の【石物語】だけです」
「どれ、どんな妄想が積み上げられたかねぇ…」
うわっ、妄想が積み上げられるって何か嫌な表現だ。そして浮かんだ妄想がコレだ。
「俺は場に『積み上がる妄想』を置くぜ」
――――――――
『積み上がる妄想』
積み上がる妄想が場に出た時、妄想トークンを三つ得る。プレイヤーのターン終了時に妄想トークンを一つ得る。積み上がる妄想が場を離れた時、全ての妄想トークンを生贄に捧げなければならない。
妄想トークンを生贄に捧げる:全てのプレイヤーに生贄に捧げた妄想トークンの数と同じだけのダメージを与える。このダメージは軽減できない。
〜 “ No 妄想 No ライフ ” 妄想の無い人生なんて…… 〜
――――――――
「そして、『自宅警備員』と『未知の疫病』と『テレワーク』を設置。ターンエンドだ」
――――――――
『自宅警備員』
プレイヤーは戦闘フェイズで戦闘を飛ばす代わりにHPを一ポイント得る。
『未知の疫病』
各プレイヤーはカードを引く以外の全てのフェイズを飛ばす。
『テレワーク』
プレイヤーはどのタイミングでもフェイズで戦闘フェイズを宣言出来る。
――――――――
「ずっと俺のターン!! そして全ての妄想トークンを生け贄に妄想解放!!」
いや、そんなトレカは無いから。どんなデュエルしてるんだよ。これ、デッキ名は “ 中二病デッキ ” だな。
「ん? 何ニヤついてんだ?」
「あ…いえ、いくらぐらい色が付くのかなぁ…って」
「言い値でいいぞ」
「ボク、恥ずかしながら相場を知らないんです。相場の勉強の為にもラルフロ=レーンさんから適正価格を教わりたいです」
「逃げたな」
ごめんなさい、変な妄想してました。そして相場を知らないのは本当です。
「まぁ契約は一つにつき銀貨三枚だったよな。【終わりかけ】は一つにつき【石物語】込みで銀貨四枚。【百合の星留】は鎮魂二回と追悼可になったからなぁ、それだけで銀貨六枚出せる。【石物語】込みで銀貨七枚だ」
「そんなに変わるんですか!?」
「【石物語】はオプション価格で銀貨数枚って事にしておけばいい。もっと御大層なストーリー仕立てにするなら額を上げていいぞ」
「オプション化すればいいんですね」
「そうそう。先方が不要なら付けないって売り方をした方がいい。後から書いてくれと頼んでくる奴もいるだろうからな」
「そうですね。価格帯は考えておきます」
「あまり安いと書くのが大変になるからな」
「だったら今日の納品から銀貨二枚下さい」
「ちっ……、仕方ねぇか。ミーシャの技術は悪くねぇし、発想も独創的で面白いからあまり安売りするんじゃねぇぞ」
「はい。それとボクは聖ガブ=リヨルの生涯も偉業もよく分かっていないんですけど、こんな感じで問題ないですよね?」
「下手に変なことを書いてねぇからな。俺に言わせれば “ よく逃げやがった ” って内容だぞ。【星留】を磨くんならヒト族の人物や歴史も勉強しとけよ」
「頑張ります」
「あれぐらいで余計な聖女信仰を匂わせない文章の方が使いやすいな。あの【百合の星留】だと冒険者の方が欲しがりそうだが。浮気性だった貴族の寡婦が欲しがるかもしれんなぁ。売れた先が聞きたいなら教えるぞ」
「売った先って教えてもいいんですか?」
「普通は秘匿されるけどな、メンテとか補償とかの関係で全てを伏せる訳にもいかねぇだろ?」
「言われてみればそうですね」
「最終的に売った商人、アクセサリー職人、裸石を卸した俺くらいまでは顧客情報は入ってくるな。聞きたかったら銀貨一枚な」
「そこまで興味ないかな…」
「基本、生産販売に関わった者以外に情報を売ったら駄目だからな。金に目がくらんで情報を売るなよ」
個人情報はザルだと思ってたけど、それでも一応は保護したりしてるんだ。信用しちゃ駄目なのは知ってるけど。
「次はアンディーちゃんの石かな?」
「どうでしょう? そうだ、職校から外部業者との直接依頼の証明書を渡されてました。ラルフロ=レーンさんのサインをお願いします」
「そう言うのがあったな。ほらサインしたぞ」
「あれ? 何か多くないですか?」
「【菊花の星留】と【コカコッコの蹴爪のボタン】も入れといたからな。流石に最初の【終わりかけ】は止めといたが」
「いいんですか?」
「実績は貯めとけよ。登録だけで食ってるとか言われたくなかったらな」
「そうですね」
「俺は登録だけで食っていたいけどなぁ……五十年後には権利金の収入だけで暮らしてぇ」
「何か特別な登録を持ってるんですか?」
「一つ有名なのは有るけど役に立たねぇからな。細かいのは旨味も薄いし……」
「何なのか教えて下さい」
「秘密だ、ヒ・ミ・ツ。大人の男には秘密が付き物だからな」
皆の憧れ…不労所得。ラルフロ=レーンさんの特別な登録は、 “ 集塵の魔道具に『砂嵐を打ったら壊れる』 ” だった。確かにそれはお金にならない。その登録は秘密にしたい気持は分かるわ。




