第370話
風呂で長考するのは危険という事でした。一度ならず二度までもヤーデさんに命を救われたよ。助けていただきありがとうございます。
ウミユリの化石。古代から。百合。化石になって姿を留める。鎮魂の花。聖女、乙女。聖女の祈りは乙女の祈り。追悼、安らぎ、安寧。
百合の花弁が未練ある想いを優しく抱き寄せ天へ向けて浄化する。浄化された想いは【朱雀】の嘴に掴まって新たな旅へ誘われる。
風呂から上がったらサッと着替え、メモにさっき浮かんだネタを書き留めておく。
【朱雀の嘴】、カエルの子【レイドリアン】にも似た形。変身、進化、飛翔のシンボル。古い殻を脱ぎ捨て新しく生まれ変わる。
設定とは言え改めて書き出すと恥ずかしさも倍増する。
♪レイドリアンはカエルの子
髭無しナマズじゃありません♪
だっ、誰も聞いてないよね? 替え歌一つでドキドキしてどうするよ。替え歌はスリル、サスペンス。前世で “ 更衣はフリル、ホック、サスペンダー ” という歌があったけど歌詞はどんなだったっけ?
ムキュウ〜
(「ますたー おかえりなの」)
「アンディー、ただいま」
部屋のドアを開けるやいなやアンディーが飛びついてくる。ふふ…可愛いなぁ。そのまま抱っこして移動、ベッドに腰掛ける。タワシを『次元収納』から取り出せばモフモフ堪能タイムの開始です。
そうだ、木賊と【プルモニア】の枝にお水をあげないと。そろそろ【スライムの死核】を研いだ水を肥料として与えなきゃいけない時期か。不衛生なブツではないのは分かっているけどモヤシに与えるのは躊躇するよね。
アンディーをブラッシングするとお返しにアンディーが髪をグルーミングしてくれる。髭には手を出してこないけど。
そう言えばタワシに意外な目的に使う為の注文があったんだって。それはヒト族の靴磨き用と服の埃落とし用。下級貴族達が同格貴族に招かれた時に従者が主人にササッと使う道具として白羽の矢が立ったのだという。勿論、屋敷の中では使用人達が使っているけど、今一番出先で見せびらかしたい物のナンバーワンがタワシなのだとか。
確かに貴族文化のないドワーフだったらその使い道はサッと思い浮かばないよな。下級貴族が馬車から降りて、従者がササッと埃を落とし、御者がササッと馬にブラッシング。今、これが男爵クラスのトレンディーだそうです。
これは商家に入口用に靴の泥落としマットを売り出したら人気が出るかも。前世でもあったよね、緑のと茶色の二色のタワシマット。その泥落としマットの交換サービスとか展開してもいいかもしれない。
(「ますたー あそぶの?」)
(「そうだなぁ…、ボクはご飯を食べてくるから、その後少し遊ぼうか」)
(「わかったの」)
(「明日は炭焼きの窯を開けるのを見た後に時間があったら、冒険者ギルドにおやつを貰いに行こうか」)
(「いくの あたち いくの」)
野草クッキー、確定だな。素材の草を粉末にして抹茶を点てるみたいにシャカシャカかき混ぜたら美味いだろうか? ちょっと試してみたい。
夕飯の後はアンディーとベッドで遊ぶ。ムササビごっこをしているのでベッドから出た埃で部屋の空気が汚れる。遊んでいるハズなのに『汎用魔法』の『換気』、『浄化』『消臭』を掛けまくっているよ。出来れば『消臭』のレベルが上って欲しいところ。後、『カビ分離』とか『カビ分解』とかも念じてみているがスキルが生えるかどうか。
(「ぴゅー ぽよん ふわっ なの」)
(「フワッ?」)
(「おなか おちたら いたいの だから ふわっ なの」)
えっ、アンディーって地面にベチッと落ちてるんじゃないの!? まさか着地直後に空間魔法かそれに準じるスキルをつかっているだと?
(「べちっ いたいの」)
確かに言われてみればアンディーがベッドに落下した時は埃が舞っていない気がする。てっきり俺が飛んだら埃が出るのはサイズ差のせいかと思っていたけど、どうやら違うらしい。アンディーの動きを見ていても何か作用しているのか全く分かりません!! 魔力や魔力の流れを見るスキルは無いのだろうか? いや、そんなスキルが有ったら俺の『次元収納』を発動させる時とか魔力の流れを見られてる訳で……。それに、皆の前で土魔法は散々使ったけど何も言われなかったし、『キーボックス』を取得する時もそうだ。見える人がいるなら魔力の流れが悪いとか魔力コントロールのヒントとか指導が入るハズだよ。オロール先生だって俺の二重になった魂は見えたけど魔力の流れは見えてなかった。それでも魔力視が存在する可能性は全くゼロとは言い切れないけどな。だってこの世界、妙な魔法が細々と存在してるし。
(「ますたー ぽよん なの ふわっ するの」)
髭は浮かない。俺も浮かない。浮かぶのは埃のみだ。
アンディーのお陰で気晴らしも出来た。ウミユリの化石のストーリーを書こう。
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古えの百合は【星留】になった。鎮魂の花は聖女ガブ=リヨル、乙女の御印。聖女の祈りは乙女の祈り。追悼の祈りは安らぎを与え安寧へと導く。
百合の花弁が未練ある想いを迷える魂を母の様に優しく抱き寄せ、天へ向けて浄化する。浄化された想いは魂は【朱雀】の嘴に掴まって新たな旅へ誘われる。
【朱雀の嘴】、カエルの子【レイドリアン】にも似た形。変身、進化、飛翔のシンボル。古い殻を脱ぎ捨て新しく生まれ変わる。再び母の胸に抱かれる為に。
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うっわー、なにこれ怪しい!! 中二病の黒歴史ノートでなければ怪しい新興宗教の信者勧誘用パンフに書かれていそうだ。まさか古代の海中生物も陸に上ってこんな怪しい物語を添付されるとは思ってもいなかったろうに。研磨ノートと鑑定結果と一緒にしたら勾玉も完成。明日、職校の学生課の職員さんに見せたらサッサと納品してしまおう。そういえば最近は刺し子の手習いも忙しさにかまけてサボってたからなぁ。たまには運針しておかないと。オロール先生のいないうちにエール代を貯めておかなきゃ。




