第369話
ウミユリの化石の勾玉についてメモを書いたら今日はもう作業しないことにしよう。お風呂に入って晩ご飯を食べたらアンディーをモフりたいな。
その前にモヤシ作りだ。確か、発芽させた大豆を暗い部屋で育てるんだったよな。押し入れは無いからクローゼットに入れておこう。買ったばかりのホウロウ容器に一センチメートルくらい水を張りそこに【蔓野豆】を浸してクローゼットに放置だ。アルチュールさんが納品してくれた方は後で炒ってから挽いて黄な粉にしてみようと思う。
ホウロウなんだけど、異世界での名称がフォーローだったのが気になったので名前の由来を聞いてみたら、鉄鍋を錆びない様にしようとしていた時に、たまたまガラスが付着した金属片を見つけた事が発端だったと。ガラスが金属をフォローすることによって腐食対策をすることが可能となった。それで金属にガラスを掛ける工法をフォーローと呼ぶ事にしたと言ってたよ。ガラスからしてみたら金属が芯になる事で簡単に割れなくなる訳で、それはガラスの為に金属がフォローしてくれているとみなされている。双方がフォローしてきるので一般的なフォーローは “ 相互フォーロー関係にある ” という訳だ。 ちなみに魔導フォーローは金属側が魔導ガラスにフォローされている関係。魔導ガラスは頑丈なので金属が芯にならなくても簡単に割れない。
名付けに過去の転生者の仕事というかネーミングセンスが感じられるのは俺の気の所為か?
(「ますたー おまめなの?」)
(「あ、ボクお豆を育てるんだ」)
(「おいちい?」)
(「どうだろう? 最初は実験だね。上手に出来たらアンディーにもあげるよ」)
(「あたち たのちみ」)
(「だからアンディーがお部屋にいてもクローゼットの中のお豆を食べないでね」)
(「わかったの」)
流石に勝手にクローゼットを開けて実験モヤシを食べたりはしないと思うけどね。アンディーは賢い子なので伝えておけばイタズラしたり食べたりしないよ。
改めて鑑定結果を確認するか。
(鑑定)
【百合の星留ホシル】:古代のウミユリの化石。中品質+。牙状ビーズ (【朱雀嘴】) 。ウミユリ部分を強調させカメオの様に見せる為に周囲を掘り込んである。鎮魂は二回、鎮魂後に追悼可能。百合花が御印の聖女ガブ=リヨルに祈りを捧げよ。
改めて鑑定をかけたら形状名が追加されてた。
これ、どうストーリーをでっち上げ…いや組み立てればいいんだろう。いかにも【石物語】っぽくするには……何とかしてよ土左衛門。そうか土左衛門か。つまり風呂でリラックスしながら考えるのが一番という事だな。逆上せて土左衛門にならない様に気を付けないといけない。
「アンディー、ボクお風呂に行ってくるね。戻ってきたらアンディーをブラッシングしてあげる」
(「わかったの」)
まだ髭は浮かない。サッと汚れを落として湯船に浸かる。やはり樽より湯船よのぅ…。
♪どうしてお髭が浮くのかな
スキルを使うと浮くのかな
いくらやっても浮かないぞ
残念、残念
お髭とお腹がくっつくぞ ♪
前世の童謡を替え歌してしまった。お髭がつく歌。冷静に考えてみれば、この歌、誰かに聞かれたら恥ずかしい。
幸いにも誰も来なかった。後頭部を浴槽の縁に引っ掛けてプカ〜っと体をお湯に浮かせる。ちょっとお行儀が悪い姿勢だけど、俺はこのプカプカ感が好きなのです。前世で子供の頃は銭湯の湯船で泳いで怒られたものよ。
お行儀の悪い体勢だけど、湯浴み着のお陰で人様に裸体を晒さなくて済むのでそれだけは安心かな。元日本人的にはスッポンポンで湯に浸かりたいけど。その為にも早く家を建てて風呂を作ろう。風呂、土足禁止の家屋、縁側は必須よな。縁側で夕涼みしながら酒を飲むんだ。憧れの湯船にお盆を浮かせてお酒を飲むってのもやりたいけれど。お湯が全て酒になっている酒風呂は不衛生というか勿体ないので却下。古代エルフやクルラホーンが釣れる。 「見ろ、風呂が酒樽の様だ!!」 違う、 「見ろ、酒樽が風呂の様だ!!」 あ、これ、どっちも駄目なやつね。
酒から離れよう。今日の目的はウミユリの化石のエセ物語だ。
ウミユリの化石。古代から。百合。化石になって姿を留める。鎮魂の花。聖女、乙女。聖女の祈りは乙女の祈り。追悼、安らぎ、安寧。
うーん、陳腐だなぁ。ウミユリは実は動物でプランクトンとか捕食するんだったか? 異世界のウミユリは悪霊とか未練を残した地縛霊とかを捕食しそうだ。
百合の花弁が餌を捕らえる触腕。それが悪霊ことプランクトンを捕まえる。そして消化=浄化。なんだか使えそう。
一回湯船から出て手桶にぬるま湯を取り頭から掛ける。流石に冷水を被って整うとかは無理です。
百合の花弁が未練ある想いを優しく抱き寄せ天へ向けて浄化する。なかなか良いかも。本当はウミユリの触腕が漂うプランクトンを捕まえ消化する。
浄化された想いは【朱雀】の嘴に掴まって新たな旅へ誘われる。
あぁ…お湯が気持ちいい……。極楽、極楽……なんだか眠たく…………
{ ―― チョイナ チョイナ ―― }
{ ―― 四一二六 ―― }
ガボッ… ゲホッ!! あっ、危なっっ!! またやらかしたよ。ヤーデさん、ありがとうございます。




