第367話
ラルフロ=レーンさん、カーン=エーツさん、ホーク=エーツさん、商業ギルド支部長さんはまだ【クジ引きクッキー】について語り合っていた。厳密には梱包容器について語り合っている訳なのだが。そうこうするうちに職校の校長先生がやってきた。
「校長先生、お待ちしておりました。休みの日に申し訳ない」
「いえ、創意工夫、発明発見に休日はありませんので」
校長先生がうんうんと頷きながら仕様書に目を通す。この【クジ引きクッキー】事業には職校が一枚噛むという事で確定なんだろう。
「商業ギルド支部長、この一件は既存の技術や風俗風習を新しい文化に焼き直ししてみようという事なのだね」
「そうなりますな」
「【クジ引きクッキー】は希望する学生を連れて『フィッシュスワンプ』に視察に行くのも良さそうだ」
「あの辺りですと、【白濁酒】の原料の【濁穀】が有名です。近隣の『サウスフィッシュスワンプ』には【バサルト・タートル】の養殖場もありますし、職校生の校外学習にちょうど良さそうですね」
ヤバい、めっちゃ行きたい!! ドブロクと【バサルト・タートル】、片方だけでも研修しにいきたい。どちらか一方を選ぶならドブロク一択だけど。恐らく【濁穀】は米だ。俺に白米を食わせろ、俺はいつでもライスにこだわるぜ!! 前世の歌にそんなのが有ったよなぁ…『世界ジャパン化計画』だったか。
「【バサルト・タートル】、ええですなぁ」
「カーン=エーツ、鼻の下が伸びてるぞ」
「だって【バサルト・タートル】やよ。色んな所が元気になってグーンと伸びて当然やん」
「カーン兄貴はデリカシーが無い」
「せやかてホンマの事やろ。ホークやってそう思てるやろ?」
【バサルト・タートル】は素材であると同時に精力剤でもあるからその手の話になるのは仕方ない。かと言って 「何が元気になってどんな感じに伸びるんですか?」 と質問してカマトト振るのもなぁ…。セクハラおじさんに逆セクハラ仕掛けてどうするよ。まぁカーン=エーツさんの事だから 「俺の下部組織が活発に活動するんよ」 とか何とか言いそうだけど。
夜の下部組織……構成員はムスコか。うーんセクハラオヤジだ。言っちゃ駄目だ。
「それでこれの発起人は?」
「最近流行りのアレです」
「アレか…」
「アレやな〜」
アレ=俺。流石に本人を前にしたらコードネームも使えないか。
俺俺詐欺、いや詐欺はしていないからね。マジックバッグ詐欺の劇じゃないけど詐欺は駄目、絶対。
「支部長、詳しい打ち合わせは?」
「校長、こちらは何時でも」
「では今から職校に向かいましょう。今日なら作業場も比較的空いていますから」
トップ二人は退席したし、俺は部屋に戻って勾玉の解説文でも書き上げようかな。
「ミーシャ、この後の予定は?」
「ボクは部屋に戻って【百合の星留】の解説でも書こうかと思っています」
「俺とデートしねぇか?」
「丁重にお断りします」
「つれないなぁ…。別に取って食いやしねぇぞ。鉱石屋や工具屋とかの《《楽しいお店》》に行かねぇか? ってお誘いだが」
そっ、それはめっちゃ行きたい。でもラルフロ=レーンさんと一緒なんだよなぁ…。リンド=バーグさんもいてくれたら安心なんだけど。
「ボク、明日は職校の炭焼き実習の初回窯開けで、二の週・二の日からは小鍛冶師の作業場でで針打ちもありますし、ハーレー=ポーターさんと魔道具の打ち合わせも控えてますし……」
「それと今日のデートは関係なくないか?」
「まだアンディーが二つに割ってくれた【カーバンクル石】もチェック出来てなくて…。オロール先生に渡された【妄想タケ】とかの研磨練習も進んでいないし……」
「それはマズイな」
「学園の授業もなかなか出席出来ないんですよ」
「ミーシャは手を付け過ぎじゃねぇのか?」
「ボク、専攻にすると決めた訳じゃないですけど、オロール先生の魔導刺繍の刺し子は腰を据えて習う予定なので積極的に手習い作業をしているんです。その他はスライムの座学を聞いて、スプーンを打って、炭焼き実習の火入れ開始まで参加して、後は学園で薬草学の授業に一回出たくらいで、他に何か有ったかな……?」
「炭焼きはともかく、そこまで手を出してる訳でもねぇのか」
「まだ入校して四十日ですからね」
「そうかまだ四十日か……、ってまだ四十日かよ!?」
「何だかバタバタなんですよね…」
「ちゃんと休んでるか?」
「はい、多分。十の日は職校には行ってないですよ」
あれ……? 俺、もしかして四十連勤? 職校や学園に顔出ししてないだけで週末もウナギ焼いたり作業してるよな。
「ミーシャ、完全オフの日は?」
「あ……作業してました」
「今日も商業ギルドに来てるって事は休んでねぇって事だろ。今から作業は休みだ、俺に付き合え」
「でも…」
「仕方ねぇなぁ、紅茶飲んだ後に何か一つ欲しいモン買ってやるから。工具でも魔道具でもいいぞ」
えぇ〜〜、どうせなら部屋でアンディーとゴロゴロしたい。
「あの……、ボク、職校の採石場に設置されている集塵の魔道具が欲しいです」
「へっ……?」
「集塵の魔道具です。『砂嵐』打ったら壊れるやつです」
「あ……、ジャミ禁のアレかよ………」
「便利ですよね、アレ」
あれ? 集塵の魔道具という単語を聞いたラルフロ=レーンさんの表情がおかしいぞ。
「ミーシャ、すまん。アレは無理だ。頑張って自分で買ってくれ」
ラルフロ=レーンさんが遠い目をしながら俺に謝ってきた。つまり、それなりのお値段って事か。金貨三百枚とか五百枚とかするのかなぁ……。前世で言ったら自家用車を買うみたいな感じかな?




