第363話
「そうそう支部長、ミーシャの仕事なんだけど検分してもらいたい」
「仕事とは?」
「俺が鉱石研磨の仕事を直接依頼した。そして出てきたものがコレだ。ミーシャ見せてみな」
「はい。これはラルフロ=レーンさんから預かった【百合の星留】です。これが研磨ノートと鑑定結果です」
「ミーシャ=ニイトラックバーグ、研磨に使った道具はここに有るかね?」
「学生寮の部屋に置いてきましたが、中程度の粒度の砥石と乾燥木賊を粒度別に数種類です。穴開けには『螺旋錐針鼠』を使いました」
「穴の内部は何で研磨したのかね?」
「知り合いのクルラホーンに棒に乾燥木賊を貼り付けた棒ヤスリを作ってもらい、それで磨きました」
「その道具でここまで研磨するなら中々のものだ」
「ありがとうございます」
「それでラルフロ=レーンが問題にしてきたのは形の方かね?」
「そうそう。この形状は俺は見たことがない」
「実は私も初見でね。これは何を模しているのか聞いてもいいかな」
「はい。これは爪というか嘴というかカエルの子供というか……ボクとしてはどう表現すればいいのか悩んでいます」
勾玉です、…とサラッと言えないのが苦しいな。曲がったままの勾玉。違うだろ、こんな時にオヤジギャグを思い浮かべてどうするよ。並列思考も無いのにオヤジギャグだけは出て来るんだな。あー、オヤジギャグから並列思考が生えたりしないものか? しないか……。
「【星留】の百合の部分を生かす形を模索していたらこの形を思いつきました。対アンデッドの鎮魂の効果を踏まえ、何か相応しい名称がないかと考えを巡らせていたら【朱雀】の爪や嘴が浮かびました」
「ほう」
「でも、ボクは【朱雀】の爪や嘴が素材として流通しているのかどうかが分からなかったので、ラルフロ=レーンさんに相談してみました。そして今、商業ギルド支部長さんに説明をしているところです」
「な、面白いだろ?」
「爪や嘴は兎も角、何故カエルの子供かね?」
「カエルは卵から孵化したらナマズのなり損ないというか、その【星留】を研磨した形みたいですが、気付くと手足が生えて、いつの間にか尾が消えて陸に居ますよね?」
「そうだね」
「別物に生まれ変わったかの様に変化する象徴に…と思ったんですけど、カエルは食用にする以外は魔獣なので、今一つヒト族ウケが悪いかな……、と」
「確かに【朱雀】とカエルではイメージの差が激しい」
「はい」
「どちらで売り込むか…と言う訳か」
「支部長、【朱雀】とカエルなら冒険者ギルドに関連資料が置いてあります。素材は商業ギルドでもリスト化されていますが、逸話や伝承、神話などの資料は向こうの方が多いですね。学園の図書館なら全部有るでしょうが」
「ホーク=エーツはどう思ったかね?」
「俺ですか? 【朱雀】素材だと嘴は聞かなかったと思います。カエルの子供はテイマーでもなければ興味無しだと思いますよ」
「まぁミーシャの事やし、エエように名付けたらええんとちゃう?」
「え〜、そんな適当な…。ボク、冒険者ギルドに行って資料を閲覧してきます」
「その間にこちらは【くじ引きクッキー】の登録や発注処理をしておく」
「自分は【反省ポーズ】を売り込んでくるわ」
「ラルフロ=レーンは?」
「俺は市場で果物でも探してくるか…。アンディーちゃんに食べてもらう用な」
背中にアンディーを背負ったまま冒険者ギルドへ行く。冒険者ギルドはアンディーを従魔待機場に預けなくてもいいから楽だな。
ムキュウ
「ん? アンディーどうしたの?」
キュウキュウ
(「あそこ おやつなの」)
アンディーの言う方向に目をやると、冒険者の休憩スペースの奥の方で小型の従魔が仲良くおやつタイム中だった。
ムキュ…
(「おやつ ほちいな…」)
(「ボク、聞いてくるね」)
アンディーもおやつタイムに混ざれるか聞きに行くと、冒険者登録している人の登録従魔は月額利用料を支払っていれば何時でもおやつを食べに来てよいという事だった。大型種はギルドの裏の方に行かなきゃダメだけど。小型種は月額金貨一枚。中型種は金貨二枚で、大型種は草食種は月額金貨五枚で肉食種は金貨十枚だった。冒険者の場合、素材を納品して支払うことも出来る。
「あの、今から月額利用料を支払えばボクの従魔のアンディーもそこでおやつを食べられますか?」
「勿論ですよ。アンディーさんは背中にいる子ですね。カーバンクルですので植物性のおやつを提供します。本日は【目出度豆】の若鞘と解した乾燥【穂先黍】になります」
ムキュウ ムキュウ
(「おまめ つぶつぶ たべるの」)
「アンディー、喜んでますね」
「それでは向こうでどうぞ」
キュ〜ン
(「はーいなの」)
先客は【手持ち豚】と【極楽烏】そして【風呂大鼠】。仲良く【目出度豆】の若鞘ことスナップエンドウをモグモグと喰んでいる。
ムキュウ
(「はじめまして あたち あんでぃー」)
キュルキュル
ブブー
アー
「はじめまして。皆さん、ボクのアンディーと仲良くしてくださいね」
キュルキュルル
ブープー
アーォ
「すみません、ボクは資料室で魔獣資料を閲覧してきます。アンディーをお願いします」
資料倉庫の担当者さんに【朱雀】とカエルについて記載されている資料を持ってきてもらった。




