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第362話

どうせなら梱包も完璧にして【くじ引き(ロット)クッキー】を売り出す事にしようという話になった。


「梱包容器も名前が有った方が良さそうだよね」


「【パピエ・ル・マシェ】は駄目か?」


「お洒落な響きですね」


「ドワーフ語っぽくないが」


「本当は パピエル マーシェ だ。切る位置を変えて若干響きを変えることでエルフ語っぽく聞こえる様にしてみたぞ」


「何でエルフ語やの?」


「神秘的でいいだろ?」


「ドワーフだけでなくエルフも一枚噛んでる様に見せかけるって事ですか?」


「それもあるけどな、どうせなら面白いのがいいだろう?」


「では紙を貼り付けて整形する技法を『パピエ・ル・マシェ』で登録しておこう。梱包容器は【パピエ・ル・マシェ容器】だな。いや、待て……確かエルフ族には紙を貼って作る鎧が有ったハズだ。だとしたら技法が被る」


「あちゃー、で支部長、エルフ語での名前は何なん?」


「調べさせる」



それから二十分程でエルフ語での “ 張り子 ” に相当する名称が判明した。『ドーラムバンザーイ』。そして『パピエ・ル・マシェ』はどちらかと言えば古代エルフ語に似ているらしい。



「まさかエルフに同じ様な技法があったとは」


「勉強不足やったわ」


「ドワーフ語での登録を『パピエ・ル・マシェ』にしておいて、主に梱包容器用で技法を使えばいいんじゃねぇの?」



やはりエルフは植物素材と親和性があると言う事なのかな。そしてエルフが接近戦も難なくこなせるのは、この『ドーラムバンザーイ鎧』を着ているからなのか。軽くて丈夫、そして非鉄。魔法職や斥候職などの金属鎧を嫌う職業(ジョブ)でも装備できる。エルフは【マンナ芋】を加工して作る糊を用いて紙を固めているのだとか。




「つまりや、エルフの魔法使いはローブの下に『ドーラムバンザーイ鎧』を着込んどる訳なんやな。めっちゃ凶悪やわ」


「それでエルフと戦争したヒト族が苦労したのか」


「ネタバラシみたいになるけど梱包容器は売り出していいものなんですか?」


「そこはエルフ側にも周知させておけばいいだろう。戦時中なら鎧の秘密に抵触するだろうが、今は幸い異なる種族間で戦争は行われていない」




エルフの張り子鎧とネタは被るけど、俺しか知らない特殊技法とかではなかったので実をいうとホッとしている。



「では、エルフの『ドーラムバンザーイ鎧』と仕様がかち合わない様にする為、『パピエ・ル・マシェ容器』を作る時は中に骨組みを入れない様にしておこう。木型に糊付けした紙を貼り付け乾燥したら木型を抜く。糊はデンプンでいいかね?」


「糊と言えば蟲人(むしんちゅ)達は機織りする為の糸に糊付け処理をしていました。基本は海藻(アガー)の糊を使っていますね。後は確かコーシ氏族が糊用に【濁穀】を卸してますよ」


「入手経路を考えたらどれでもコストは変わらへんみたいやね」


「要は【マンナ芋】を使わなきゃいいんだろ?」



マンナ芋はそこまで重要でないと思うんだけど。



「【マンナ芋】ってそこまで重要な素材なんですか?」


「【マンナ芋】は別名が “ エルフの魔素(マナ)芋 ” だぞ。先の対ヒト族戦では【マンナ芋】で命を繋いだ他に、『風船(やじり)』の材料に使ったって聞くぜ」


「『風船(やじり)』って何なん?」


「超長距離攻撃魔力弾だ。簡単に説明すると風船に攻撃魔法を詰めた物を飛ばし、魔法や弓の射程外から魔法攻撃を打ち込む武器だ」


「ホンマに効果があったんかいな?」


「十発程度は炸裂して被害を与えたとヒト族側の記録にある」


「何だか残念な感じですけど…」


「いや、ヤバいだろ。『ロング・フィールド』から『イースト・キャピタル』に『隕石嵐(メテオ)』を打ち込む事を考えてみな」


「それは……」


「『隕石嵐(メテオ)』というよりは、嫌がらせになりそうな魔法を選んだみたいだね。『密林化(ジャングリア)』とか『藪石やブッシュ・アンド・ストーン』とか『落とし穴(ピットストップ)』とか」


「ホーク=エーツさん、お詳しいんですね」


「いや、『ドーラムバンザーイ鎧』の資料のところに書いてあったよ。さっき見てきた」


「一般公開されている箇所に記載されているって事は、まだ可愛い攻撃って事ですよね」


「そうだろう」



エルフ、想像以上にエゲツないな。




クジ引き(ロット)クッキー】は一箱に八種類の模様を八セットの計六十四個入りで売る事にした。店での売値は一つ銀貨一枚にする事にして、卸値は一箱:銀貨五十枚、つまり金貨五枚。儲けは若干少ないだろうけど、一緒にドリンクを売るとかすれば追加の利益は出ると思う。



「これ、取扱い店はレミ神にお供えを奉納してもらったほうが良いですよね?」


「せやろなー」


「クッキー部分は食べるにしろ、食べ物で遊んじゃってますからね。不謹慎だと言われない様にしないと」


「だったらレミ神にお供えするクッキーも込みで売ればいいんじゃねぇの?」


「クジ引きが六十四個、レミ神の分が一個の計六十五個か」


「折角なので、レミ神のクッキーには干した【樹樹菜】を入れましょうか」


「間違われたら嫌やから、レミ神用には【樹樹菜】の絵の焼き印でも入れたらええんちゃう?」




盛り上がりが止まらないな。商業ギルド支部長さんも実はこういうやり取りが好きなのかもしれない。



「折角だから意見を出してしまおう」


「俺、クッキーを選ぶ時に思ったんですけどね、誰が触ったか分からないクッキーを引きたくないです」


「せやな。ラルフロ=レーンみたいにトイレの後に手ェ洗わへん奴もおるやろし」


「それは貴様だろ」


「しかし個別に包装ではコストがかかるし、割れ防止も更に面倒な事になるよね」


「箱の中のクッキーに直接触れられなければいいんですけど」


「【水母(プルモ)】シートを使うか。半球状の窪みのある梱包容器にクッキーを入れ、上部を【水母(プルモ)】シートで覆う。それなら梱包容器も天地の二つを使わずに済むぞ」


「衛生面では安心になったが取り出せねぇな」


「あ、あの点線で切れ目を入れれる回転式の裁断機でクッキーの入る箇所にマス目状に切れ目を入れてみたら」


「それで試すか」




片想いの辻占せんべいが大掛かりなクジ引きクッキーになってしまった。

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